土曜の朝にロボットが守るラテ
職業病という名前を持ち出せるほど立派ではありませんが、どうせ車に乗るなら何か運んでいきたいと思うようになりました。
土曜の朝、ダウンタウンに用事があった私は、出前をしながらダウンタウンの方へ行けないかしらと都合の良いことを考えながら出発しました。
アプリを起動させると早速、北米発の大手コーヒーショップからの依頼です。行き先はダウンタウンより少し南下した位置ですが、目的地に近寄ることができるので請け負うことにしました。
あたたかいバニラホワイトラテ2つとマフィンが1つ。土曜の朝ですから、トレバーの朝食でしょうか。
トレバーの住まいに近付くにつれて、良い予感がしてきました。ここはレベッカの住まいがあった、我が町随一のあの高級住宅街です。
レベッカの話はこちらから↓
美しい湖畔の周りを囲う山を登り、脇道にそれると、トレバーの住まいの前に伸びる、長い私道が現れました。
アメリカの道にはすべて名前が付いています。どんな小さな裏道にも名前が付いているのですが、私道だけは名前がないようです。
私有地とは思えない長さと幅のある道をそろそろと走っていくと、大きなゲートが現れました。すでにゲートは開かれた状態で、私が来るのを待ち構えていたようです。
広いエントランスを横切り、玄関と思しき扉の近くに恐る恐る車を停めました。
3メートルくらいはありそうな高さの、扉も、扉を支えている周りの壁も全てがガラス製の玄関の前に立つと、扉の内側のすぐ右側には、鉄製かアルミ製に見える、私より背の高いロボットのオブジェが、客人を出迎えるように立っています。白い大理石の床が奥の奥まで続き、天井まで届く窓は、一面、よく晴れた空と同じ色をしています。その手前には巨大なソファが大蛇のように鎮座しています。
ハリウッド映画でしか見たことのない立派なお屋敷の、本物を、この目で見たのは初めてです。
私は玄関の前に朝食の袋を置きました。3メートルの扉の前ではとても小さな袋に見えます。
いつもならノックをして立ち去る所ですが、曇りひとつない美しいガラスの扉に指紋を残すのは気が引けました。ノックをしても、このお屋敷のどこかにいるトレバーの耳には届かないでしょう。ガラスを汚したら、あのロボットが起動するかもしれませんし。私はドアベルを押し、急いで車に戻りました。
私の都合の良い思いつきの先には別世界が広がっていました。トレバー専属のドライバーになれたらいいなぁと、また別の都合の良いことを思いながら、ダウンダウンへ向かいます。
所要時間:19分
配達料:$3.08
チップ:$15.00
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