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生産者さんを訪ねて。vol1


飲食店さんからのお仕事で食材の背景を辿る「生産者を訪ねて」という企画をやっています。取材・撮影・ライティングと幅広く担当していてせっかくなのでnoteでもご紹介したいなと、アップしてみました。
初回は兵庫県北部「柴山港」で漁れた“松葉ガニ”について。飲食店のスタッフと共に、仲買人の寺山さんにお話をお伺いしました。



解禁!冬の味覚、松葉ガニ


日本海でも歴史のある2大漁港、柴山港と香住漁港。
毎年11月6日に解禁の「松葉ガニ漁」で水揚げされた高品質なカニをお目当てに、柴山港を訪れました。

朝焼けに照らされる柴山港


案内してくれたのはその漁港と長い年月を共にしてきた「株式会社カネニ」の代表 寺山さん。2年ほど前からお世話になっている仲買人さんです。

お休みが多い水曜日ということもあり、この日の入船は一隻のみ。
それでもたくさんのカニや貝が細かく分けて並べらていて、一隻の量とは思えません。大きさや規格によってランクごとに生け簀に入れられたカニたちは、活きたまま漁港に運ばれてきており鮮度も抜群。

水揚げ後、細かく仕分けされた松葉がに

「お腹がほんのり赤いでしょ?脱皮したては白いけど、時間が経つと赤くなる。これが美味しいカニの証拠」

お腹の色味で味の仕上がりを確認


仲買人さんたちは“いい値がつく”という意味も込めて、お腹が赤くなることを「色気がある」とか「色気が出てきた」と言うのだそう。
他にもカニの姿形が“ボタッ”としてるから「ボタ」とか、小さい斑点があるものを“遠山の金さん(刺青)”になぞらえて「キンサン」と呼んでいたり。ユニークなネーミングで呼ばれるカニがなんだか愛らしく見えてきます。


買い付けの勉強にと、熱心に話を聞くお店のスタッフたち

「お婆さんの時代からそう呼ばれていた」と寺山さん。
そういう、“いつからかわからないけど昔からそう”ということが沢山あることも、ずっと続いてきたこの港の歴史を表しています。

過酷な漁と確かな目利きがあってこそ


松葉ガニ漁では1回の漁で大体一週間ほど船を出します。
沖に出た漁師さんたちは【1時間漁→1時間睡眠→1時間漁→1時間睡眠】を繰り返し、思うように漁れないときはさらに一週間延長することもあるのだとか。

「必ず漁れるとは限らないでしょう?この時期だけだし漁師も必死。だから漁の時期は、仲買人もほとんど寝ずに漁獲の情報を待つんです。どこの漁港で水揚げされるかがわかると、すぐに駆けつけて確認するんです。まさに競争です」

仲買人の寺山さんは、この道40年の大ベテラン

いいカニが漁れたと情報が入って駆け付けても、海の上で陽も上がらない時間に確認するのと、漁港にあげてから明るい場所で確認するのとでは全く違った判断になることも。

「お腹の色味やサイズ感、大きい小さいだけでなく重量があることや傷などを細かく確認します。長年目利きをしてきているので大体はわかりますが、それでも判断が難しい時は先代に目利きしてもらうこともあるんです。それくらい奥深いし、質をきちんと判断することが大事です。」

流通される松葉ガニの品質を保っているのは、こうした仲買人さんたちの細やかな目利きがあるからこそ。


そうして水揚げされたカニは、100ランク以上に選別します。その中でも大きくて重さもある質の良い上位ランクのものにピンク色のタグが付けられ「柴山ガニ」と定められるのです。

最上級の「柴山ゴールド」とランク付できるのは、1隻に1、2枚いるかいないかくらいの希少なもの。(今年の初競りではご祝儀相場で315万8千円という値が付けられました!“サイコーや!”)

競りに出される直前の、本日水揚げされたカニたち


よろこびが溢れる、松葉ガニのせり


「せり人」と呼ばれる、せりを仕切る人が手持ちのベルを鳴らしたらスタートです。仲買人たちが並べられたカニを囲んで買取りたい価格を提示していきます。
ブロックごとに種類やランク分けされており、せり人の掛け声や合図とともに、始まっては終わりをすごい速さで繰り返しながら、どんどん進んでいきます。

競りが始まると仲買人さんの声が響き渡ります

そうこうしてると、あっという間にせり終了。
せりというと大声が飛び交うような、まさに「競争」のようなものをイメージしていましたが、時折笑ったり冗談を言ったりして楽しそうに進んでいくのが印象的で、質のいいカニが水揚げされたことへの喜びや、海の恵を受け取れる幸せであふれていました。


お店では寺山さんが競り落としたカニの中でも、おいしいカニの見極め方を教えていただきながら、松葉ガニを15枚とセコガニを50杯購入。手に取るとその重量と活発さに驚きます。

この水槽丸々1つ分を購入
一番手が大きいスタッフが持ってもこの大きさ


旬が届く背景にあるもの。


今回、漁師さんや仲買人さんの手を渡ってくる様子を間近で見て、漁獲についての話をお伺いできたことで、スタッフたちもお店でお客様に伝えたいことが増えたと話します。食材が手元に来るまでに関わっている人たちや、自然の恩恵を受けていることを忘れてしまいがちですが、料理ができるのも、お客様に食べていただけるのも、自分たちだけではできません。
たくさんの人や自然があって「食」を楽しむことができることを改めて感じました。

シーズン中は、この時期だけの限定メニューで松葉ガニをお出ししています。
漁師さん・仲買人さんと渡ってきて、シェフの手により鮮度抜群のおいしい松葉ガニをさらにおいしく仕上げてお客様にお届けします。




せりが終わった漁港に差し込む朝日

仲買人の方々はせりが終わるとすぐ、鮮度の良いカニを届けるべく颯爽と漁港を後にします。ひと仕事終えた漁師さんや仲買人さんたちを労うように、穏やかな光が漁港に差し込みます。
興奮冷めやらぬわたしたちも、お客様に鮮度抜群で良質の松葉ガニを届けるべく、颯爽と帰途につきました。

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