E144:今日も無心で卵焼き
卵焼きを作っている時、無心になれる。
たとえ途中で失敗しても、最後にそれなりの形になれば、それで成功である。
そういうところも含めて、私は卵焼きが好きだ。
甘い卵焼き、塩味の卵焼き、出汁の効いた卵焼き…
各家庭に、それぞれの卵焼きの味があって、
みんな好みがバラバラなのが、またいい。
いろんな人の作った卵焼きを食べたけれど、
やっぱり、結局、母が作ってくれた卵焼きに戻ってくるのかもしれない。
自分が作る卵焼きは、やっぱり母や祖母の作る卵焼きにどこか似てくる。全然勝てないけれど…。
我が家の料理担当は私なので、我が家の卵焼きは私が作る。でも、何十年作っても自信が持てない。
私の料理は、味が一定しないからだ。
たまに、しょっぱい時がある。
要するに、料理が下手なのだと思う。
味が一定しない。それは特に、卵焼きを作るときに実感する。
だから、卵焼きを作る時だけは、
妄想も、考え事もせずにそれに集中している。
それでも、なかなか納得のいく卵焼きが作れない。
別にプロのような卵焼きを作ろうなんて、ハナから思っていない。
少し柔らかくて、出汁が効いていて、そんなおいしい卵焼きを、今日も作ろうとして…挫折した。
中学生の時、大阪梅田の某百貨店で
卵焼きの実演販売をしていた。
その手さばきに感動して、つい乗せられて何の変哲もない、高い卵焼きを買って帰ったら、母に大笑いされた。そして、ふと真顔になった母がこう言ったのだ。
「源太、今から私が卵焼きを作るから、あんた食べ比べて」
結果、お小遣いで買った百貨店の卵焼きより、目の前で作ってくれた母の卵焼きの方が、断然美味かった。
「卵焼きって、そういうものよ。わかった?」
母や祖母が、プロ顔負けのとびきりおいしい卵焼きを作れるとは思わない。
けれども、私はこの2人の作る卵焼きを、まだ超えられないでいる。
【66日ライラン 59日目】