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E250: おはぎとお揚げ

中学卒業後の長い春休み。
僕は母の実家でのんびり過ごしていた。

祖母(こはる・仮名)が突然僕を呼んだ。
「散歩しないか」という。

今日は店も休み。
「散歩」と言いつつ
何やら袋に店の商品をたくさん詰めている。

「え?どこ行くん?」
「ゆりこ(仮名)さんとこやで」
「ああ……」
ゆりこ、とは父方の祖母で、
同世代の2人は仲良しだ。

ふつう、訪問するなら事前に電話の一本でも
と思うのは、都会人の感覚なのかも……。
「いなかったらモノだけおいて帰ってきたらええのよ」
まあ、確かに……

私たちはゆっくり出かけた
向こうの家までは
歩いて15分くらい。
気持ちのいい風が吹いていた。

途中の橋の上で、急にこはる婆が立ち止まる。
「どないしたん?」
「源太、あれ……」
指さす前方に、向こうから橋を渡ってくる人影……
ゆりこ婆だった

「あれ!?」

少し遅れて、向こうも気がついた。
「あれ、まあ!」
笑顔で手を振り合う。

「どちらへ?」
「いや、そちらへ」
「そちらは?」
「いや、私らもそちらへ」

そんな偶然ある?
橋の中央で3人は爆笑した。

「今から豆腐とお揚げさん持ってそちらへ」
「今からおはぎ持ってそちらへ」
いやーん、うれしいわ!

お互いの大好物に、2人の婆は
橋の中央で歓声を上げた。

どんなルートでも絶対に通る橋だったから
よかった。
そのタイミングがずれていたら
気づかなかったかも。

お互いの好物をたくさん詰め込んで
タイミングもバッチリの2人。
(こういうの、いいなあ……)

3人でゆりこ婆の家へ行き
そこでおはぎパーティー

楽しい時はあっという間だ。
なんだかずっと3人で笑っていたっけ……


……………………………………………………


斎場へ向かう道中
車の後部座席から、あの橋を眺める。
「あの頃」より歩道が拡幅され
少しだけ、立派になった……

無常って……きっと
こういうことなんだよな。

古典の教師に教科書で説明されるよりも
より、リアルに
ゆっくり、身体に染みこんでくるような
そんな感じがする。

ゆりこ婆、リハビリよくがんばったね。
100までもうちょっと、だったのにね。

覚えてる?
「車、危ないけん、ほら」
80代になっても30代の孫の手をつなごうとする
そんな、あなたが大好きでした。
こっちは笑い泣きして、
かえって危なかったけどね……

さて、久しぶりに2人は会えたのかな?
2人でおはぎ、つまんでるのかな……

僕の目の前からは
2人ともいなくなっちゃったけれど
きっとどこか、近くにいるのでしょう……

あなたたちの「初孫」になれて
僕はとても幸せでした

ありがとう
何度言っても足りないけれど
ありがとう

また、来世でね

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