45歳、はじめての胃カメラ体験記。
先月、年に一度の恒例行事「半日人間ドック」を受けた。
その結果が届いたのだが、胃のバリウム検査のところに「C(要経過観察・生活改善」と書かれていた。
去年までずっと「A(異常なし)」だったのに。
要経過観察なので検査の必要はないのだけれど、なんとなく最近「ちょっと胃が痛い時もあるしな…」ってことで、「胃カメラ」の検査を申し込むことにした。
45歳にして人生初の「胃カメラ」である。
まず予約の電話をした。
病院は友達のおすすめで、両親も受診したことがある胃腸内科にした。
父はそこで「初期の胃がん」を見つけてもらって、大学病院で手術を受けた。
おかげさまで少し痩せたが元気に過ごしている。5年まであと少し。
電話して「初めて受診するのですが、胃カメラ検査を受けたくて」と伝えると、女性がとても優しくナビゲーションしてくれた。
日程について。先生の指定はあるかどうか。
女性の先生がいることを聞いていたので、その先生を希望する旨を伝えた。
次に「カメラは口からにしますか?鼻からにしますか?」と聞かれた。
何しろ初めてなので、どちらが良いのか分からない。
「どっちの方が楽なんですかね…?」と聞くと、「鼻の方がカメラが小さいから楽だけど、花粉症の症状があって鼻が詰まってたら、口の方が楽かもしれないですね」と言われたので、「じゃあ口にします」とお願いした。
注意事項として「前日の夜9時以降は、何も食べないようにしてくださいね」と言われ、電話を切った。
その日の夕食時、母に「再来週、胃カメラ飲んでくる」と話すと「うわ〜しんどいよ〜」と脅された。
私の周りも年齢とともに胃カメラ経験者が増えて来たのだが、みんな口を揃えて「胃カメラまじで最悪」と言う。
「ずっとオエオエ言ってた」とか「鼻水もよだれも涙も、とにかくすべての穴からいろんなものが出た」とか「カメラが通らなくてオエオエ言いすぎて、途中で鎮静剤打たれて寝た」とか「鼻からが楽って言われたけど、全然楽じゃなくて、あまりに痛くて思わず叫んだ」とか、とにかくいい話を聞いたことがない。
一体どうなるんだろう…。
ドキドキしながらその日を迎えた。
当日の朝、8時45分。病院に到着。
問診票を書くとそのまま「内視鏡検査室」の前に連れて行かれた。
「こちらにかけて、少しお待ちくださいね」
そう言われ、ソファに座った。
数分後、手術中の看護師さんのような格好をした女性が、手に小さな紙コップと注射器のようなものを持って近づいて来た。
「岡田さんですね。ではまずこれを全部一気に飲んでください。胃の中をきれいにするお薬です」
そう言って紙コップを渡された。
小さな紙コップにほんの少し、50ccぐらいだろうか。少し濁った白い液体が入っている。
匂いはりんごジュース。美味しそうじゃん。
ところが、なんとも言えない微妙なクセのある味。思わずしかめっ面をすると「美味しくないですよね〜」と看護師さん。優しい。
飲み終わると今度は注射器のようなもの…よく見ると針がない。スポイトかな。猫に薬を飲ませるときに使うような器具だな。
「では次にですね。喉に麻酔を入れていきますね。ソファの背に頭を乗せて、上を向いてください。舌が後ろに下がっていると舌ばかりしびれちゃって意味がないので、なるべく舌を前に出してね。緊張すると、どうしても舌が下がるからリラックスしてね。難しいと思うけど(笑)」
分かりましたと答え、ソファの背に頭を置き口を開ける。
なるべく舌を前に…とやってみると「そうそう!上手!すごく上手!そんな感じ!」と看護師さんが褒めてくれた。
なるほど、こんな感じか。
そう思った瞬間、とろんとした液体が喉に入って来た。
思わずむせそうになるが堪え、そのままの体制をキープする。
「上手上手〜!じゃあこのまま5分ぐらいお待ちくださいね。また呼びに来ますね〜」
え?!5分も?!長くない?!
ソファにもたれ、背に頭を置いて口を開けたまま待つ。
まるで新宿駅で酔いつぶれたサラリーマンみたいな格好だよなこれ。
ていうか飲み込みたい。飲み込めない。つらい。5分って長い。
ひたすら天井を凝視して、悟りを開きそうになった頃やっと、「はーい、岡田さーん。いいですよー」という声が聞こえて来た。
そして看護師さんが言った。
「じゃあ、ごっくんって飲み込んじゃってくださいね」
え?!飲むの?!これ飲んじゃっていいの?!
衝撃を受けつつも飲み込むと、「あ、喉の感覚がおかしい」と気づく。
飲み込みづらい。麻酔が効いている。
そしていよいよ検査室へ。
「は〜い!岡田さん、こんにちは〜!胃カメラ、初めてなんですねえ〜!がんばりましょうね〜〜!」
担当の女医さんである。
友達曰く「まるでディズニーのアトラクション並みに盛り上げてくれる」先生である。心強い。
診察台に座ると看護師さんに「喉に麻酔のスプレーをしますね」と言われた。
「まだ麻酔するの?」と思いながら口を開けると、シュッとスプレーをされた。これがめちゃくちゃ喉にしみて思わずむせた。
「まずいよね〜!ごめんね〜!」
「や、だいじょうぶでふ。まずいというかしみまふねこれ…」
うまく喋れなくなっている。舌が動かない。ぎぼぢわるい。
「はーい、じゃあ横になってくださいね〜」
どきどき。
緊張しながら診察台に横になる。
まずは、真ん中に穴の空いたマウスピースを噛まされる。
この穴をケーブルが通るのだろう。
「唾は出しっ放しにしてくださいね。飲むとむせちゃうから。このシートはそれ用に敷いてあるから全然気にしなくていいからね」
そう言いながら、看護師さんがシートを敷いて、さらにティッシュを数枚口元に置いてくれた。
これでどんな液体を出しても大丈夫だ。がんばれ私。
「は〜い!じゃあ、はじめていきますねえ〜!!」
「お願いします」と答えたつもりだけど、マウスピースと麻酔で「おえあいいあう」になった。
黒いケーブルが近づいてくる。
思ったより太い。怖い怖すぎる。
一体どんな地獄が待ち受けているのか。
緊張マックス。
先生が持ったケーブルが口に入る。
目の前に置かれたモニターに私の口内が映る。
「いきますよ〜〜。画面見ててね〜!大丈夫だよ〜!」
おおおおお…
感覚のないはずの喉に何かが当たってるのを感じる…
おおおおお…
「じゃあ、ごくって飲み込もう!ここだけ頑張ろう〜!はい!ごくっ!!!」
んごぐっ。うっ。おえっ。
思わずえずく。
ううう気持ち悪い。
「上手〜〜!すっご〜い!初めてとは思えないぐらい上手〜!ほら〜!食道だよ〜!わ〜!食道、綺麗〜!」
ん?そうなの?ん?飲み込めたの?もう食道なの?
綺麗を連呼する先生。
モニターには赤い粘膜。
これが食道なの?綺麗なの?
看護師さんも、先生と一緒に褒めてくれた。
「ほんとー!すっごい上手!はじめてでこんなに上手な人、なかなかいませんよー」
検査中ずっと、背後に看護師さんがいてくれた。
その看護師さんは、ずっと私の背中をさすったり、肩をとんとんしてくれた。
力が入りそうになると「リラックスだよリラックス」そう言って背中を撫でてくれる。
背中をとんとんされるなんて、子供の頃以来だったけど、安心感ハンパなかった。看護師さん、ありがとう。白衣の天使さま、神さま。
「は〜い!ほら!これが胃の入り口!わ〜!胃酸も綺麗〜!」
モニターには液体が映っている。へえ、これが胃酸なのか。
ていうか、胃酸に綺麗とか汚いがあるのだろうか…という素朴な疑問を感じつつ、検査は続く。
「よ〜し!できるだけ胃酸を吸っちゃうよ〜!」
ポンプ的なもので胃酸を吸い取ってるのか、ズボボボ…という音が聞こえる。すると、胃の壁が見えて来た。
「わ〜!胃もすっごく綺麗〜!よ〜し、このまま胃の出口まで行きますよ〜!奥に黒い点があるの見える?(頷く私)あれがねえ、胃の出口なのね。あそこまで、いっきますよ〜!」
こりゃ本当にアトラクションだな。
ジャングルクルーズ的なやつだな。
これから冒険に行くみたいだな。
「ちょっとここが一番苦しいかも〜!がんばれがんばれ〜!あと少し!ほら!あと少し!!」
「がんばれー!がんばれー!」
看護師さんの応援も加わる。
何をどう頑張ればいいのか分からないけれど、応援は嬉しい。がんばれわたし。
「は〜い!出た〜!ここが出口〜!!」
わーい!出たー!って何が?って素人は全然分からないぐらい、モニターにはずっと赤い粘膜が映ってるんだけど、どうやら「綺麗」らしい。
「う〜ん、綺麗だなあ。綺麗なんだよなあ」
一部分だけ、線みたいな模様が入ってて「強いて言えばここが炎症かなあ。でも全体的にとっても綺麗だから、問題ないと思うよ」という検査結果となった。
「は〜い終わり!じゃあ、カメラ抜いて行くね〜」
するするするっと口からカメラが出て来た。
マウスピースも外された。
「初めてとは思えないぐらい、とっても上手だった」と、先生と看護師さんからべた褒めされ、無事に検査は終了。
おかげさまで、最初にカメラが喉元を通る時に一度オエっとえずいただけで終わった。もちろん喉元を何かが通ってる違和感はあるけど、涙も鼻水もよだれも出なかった。私、喉が鈍感なのかもしれない。
鈍感力、万歳。
終わったあとも喉の麻酔が効いているので、1時間は飲食禁止。
唾液を飲み込むとむせるから、麻酔が効いている間は全部吐き出すように、と言われる。
終わって思ったことは何よりも「口の中がねばねばしてとても気持ち悪い。うがいがしたい」ということ。
説明が終わったあと、速攻お手洗いに行き、口の中をゆすいで、ガラガラうがいを何度かした。
さっぱり。
ずっとお手洗いにいるわけにもいかないので、待合室に戻り、会計を待つ。
当たり前だけど、その間も唾液は出てくる。
少しずつ飲み込んでみたら大丈夫そうだったので、そのまま帰ることにした。
「麻酔が切れる頃、喉に違和感が出て、むせるかもしれないけど、なんとか乗り切ってください」と最後に言われたのだけど、その症状もほぼなかった。2、3回ちょっと咳が出たぐらい。
そして1時間後、水を飲んだ。
美味しかった。
この水は、「綺麗〜!」と褒められた食道を通って、胃にたどり着いたに違いない。
以上、45歳はじめての胃カメラ体験記でした。
正直、めっちゃちょろかったです。
これもひとえに、明るく上手な先生と、優しい看護師さんと、鈍感な喉のおかげだと思う。みんなに感謝。