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学級委員に選ばれない私に小学校の先生が言った言葉。

私は小中高校と一度も「学級委員」になったことがない。
部活の「部長」になったことも「副部長」になったこともない。
中高は吹奏楽部に所属していたけど「パートリーダー」にすらなったことがない。

別に人前に立ちたいわけでもないし、人を引っ張っていく性格でもなかったし、目立つタイプでもないことは自覚していたので、気にしていなかった。

そういう何かしらの「長」がつく役職に選ばれる子って、普段から目立つ子だったり人気者だったりするもの。

たまたま近所にそういう子が2人いて、私は彼女たちと仲が良かった。

1人はめちゃくちゃ勉強ができる賢い子。
1人は運動神経抜群な子。

2人ともいつも明るく笑顔で、みんなに好かれていた。
幼いながらに「カリスマ性」みたいなものがあるような子たちだった。

2人はクラスにいれば学級委員に選ばれるし、子供会ではリーダーに選ばれるし、もちろんクラブ活動では部長だった。

学校の通学団では、その2人と一緒の団だった。
6年生になると「団長」と「副団長」を選ぶのだけど、運動神経の良い子が団長、賢い子が副団長となった。私はなんの肩書きもつかなかった。

そうなることは、もう同じ団になった1年生の時から分かっていたし、私は2人のことが大好きだったし、別に妬みとかも何もなかった。

私としては「リーダーとはああいう子たちがやるものだ」と心から思っていた。


小学校3年生か4年生の時のこと。
学校で三者面談があった。

担任の女性の先生は母に向かって言った。

「ともこさんは、学力的には学級委員になってもおかしくないのに一度も選ばれないんですよ」と。

それまで、学級委員の候補に名前が出たことは何度かあった。
でも票があまり入らず、選ばれることはなかった。

そして確かに私は賢かった。
通知表はほぼ「5」だったし、どの授業を聞いていても分からないと思ったことはほとんどなかった。
あのまま賢く育ったら東大でも行けたかもしれない気がするけれど、中学に入って失速して授業はさっぱり分からなくなった。悲しい。

先生はさらに言った。

「ともこさんは、すごく気が付く子なんです。たとえば、給食当番で牛乳担当の子が休んでいたら牛乳を取りに行ってくれる。そこまではいいんだけど、それをいちいち言うんですよ。『私が牛乳とってきたよ』って。それが良くない。言わなければきっと次の学期では学級委員に選ばれると思いますよ」

つまり、めっちゃ気は付くけど恩着せがましいと。
それが私の不人気の理由だと。

自分としては、気を利かせて牛乳を取りに行ってることも、わざわざ「取ってきたよ」と言うことも、どちらも無意識だったので、「そっかー。私いちいち言ってたんだ。言わない方がいいのか。今度から言うのをやめよう」と思った。素直である。
別に、学級委員になりたいわけでもないのに。


それから、私の「良い人キャンペーン」がはじまった。

今まで以上に気を使ったし、気がついて何かやっても言わないようにした。

給食当番で誰かが休んでたら、黙って持ってきて置いておく。
掃除を誰かがやっていなかったら、黙ってやっておく。

「やってくれたの?」と聞かれたら「あ、うん」と笑顔で答える。
自分からは決して言わない。
地道な選挙活動である。

今こうして思い返すと、なぜそこまでやったのかが分からない。
私は学級委員になりたかったのだろうか。
それとも「先生に言われたから」やったのか。

なんにせよ、そんな地道な活動を続けた数ヶ月後、次の学級委員を選ぶ日がやってきた。


全員に紙が配られ、そこに「学級委員になって欲しい人」を男子女子ひとりずつ名前を書き、小さく折って提出する。

まさに投票である。

日直の男子が、紙を広げて書かれた名前を順番に読み上げる。
女子が黒板に名前と正の字を書いていく。

「オカダトモコ」
私の名前が呼ばれた。
「おおー」誰かが言った。


結果、私の名前は3番目に多かった。
今までで最多の得票数だった。
本当に「いちいち言わないことは大事」なのだと感じた。

でもそのあと、1位から3位の3人で決選投票が行われ、そこでは私に票はほとんど入らなかった。

1位と2位の子が接戦だったので、たまに私の名前が呼ばれると、みんなが「あ〜あ〜」と残念な声を上げた。
私も一緒に「あ〜あ〜」と笑いながら残念な声を上げた。
本当はちょっと傷ついていたけど。空気を読んだ。偉いな3年生の私。

結局、学級委員になったのは、いつも選ばれるリーダータイプの女子だった。


そして、その後も私は学級委員に選ばれることはなかった。
名前は出ても、1番にはならなかった。

いちいち言わないようにしてみたけど、きっとそういう問題じゃない。
「やっぱり私はリーダーには選ばれる人じゃないんだな」そう思った。


あの日からもう40年近くが経つ。

いまだにリーダーになる機会はないし、万が一選ばれそうになると逃げ出したくなる。

そして、何かしらで気を利かせて行動したとき「あ、言っちゃいけない」と咄嗟に思う。

よく考えたら、学級委員に選ばれないからって、別に人としてダメってわけじゃないのにね。
リーダーじゃなくても、別にいいのにね。

いまだに小学生の時の言葉に縛られてるなんて、なんだか滑稽だなあ。

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オカダトモコ 旅が好きなライター / カメラマン
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