歳時記を旅する20〔木枯し〕中*木枯しや酒一文字の金看板
佐野 聰(平成三・四年作、『春日』)
木枯しの吹き始める季節は、新酒の出回る時期でもある。
木枯しは酒をこよなく愛した文豪たちの作品にも現れる。
「…こうして、木枯のうねりが亦一とうねり強くなると、俺はつい堪りかねて、ふつとあの酒倉を、思ひ出してしまふのだ。憎むべき酒よ、呪ふべき酒樽よ、怖るべき冬よ、う、ぶるぶるよ。」(坂口安吾『木枯の酒倉から』)
舞台は武蔵野である。
「隙間洩る木枯の風寒くして酒の匂ひぞ部屋に揺れたつ」
(若山牧水『木枯し紀行』)佐久の松原湖湖畔の旅館での歌。
句は、酒屋か酒倉か、金看板はお店のステータスシンボル。
冷たい木枯しが、文字の金色に更に磨きをかけている。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和三年十一月号)
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