続・白秋が見つけた「赤いあめんぼ」
【スキ御礼】「白秋が見つけた「赤いあめんぼ」」
「あめんぼ、赤いな、ア、イ、ウ、エ、オ。」で始まる北原白秋の詩「五十音(通称「あめんぼの歌」)」。
アメンボは赤いのだろうか、という疑問について、図鑑のアメンボの名称から褐色の「コセアカアメンボ」ではないか、という見方をしていた。
さらに調べてみると、そうとも言い切れない。
以下、「新訂 原色昆虫大圖鑑 第Ⅲ巻(トンボ目・カワゲラ目・バッタ目・カメムシ目・ハエ目・ハチ目 他)」で、褐色系のアメンボと白秋の居住歴とを比較してみる。
コセアカアメンボ
「暗褐色または黒褐色」。分布は日本では「本州・四国・九州・南西諸島」とあるが、生息域は「低山帯の池沼・緩流面で生活」と山間部に多いらしい。
白秋が居住歴のある柳川、東京、三崎、小笠原、小田原は平野部が大半であって生息域と重なる部分は少ないと思われる。
エゾコセアカアメンボ
コセアカアメンボとよく似て「濃褐色のものが多い」。分布は北海道、本州とあるが北方性とのことで、白秋の生活域とは重ならないと思われる。
セアカアメンボ
「赤味の強い褐色」で、これが最も「赤いな」と思われる。ただ、分布は北海道と本州とあるが、本州では個体が少ないようで「島根県で1頭採集されたことがある」程度でしかない。
アメンボ
「黒色種であるが時に褐色を帯びたものも現れる」。分布は日本では「北海道・本州・四国・九州」。白秋が19歳まで過ごした柳川も含まれている。
オオアメンボ
最大のアメンボで、「黒色で褐色を帯びることがある」。分布は日本では「本州・四国・九州」。これも白秋が19歳まで過ごした柳川を含んでいる。
この比較では白秋が見たものは褐色の「アメンボ」か「オオアメンボ」という可能性が高いことになる。
「五十音」は、言葉の教育のために作られた語呂合わせだから、必ずしも科学的根拠は必要ではない。
ただ、色彩表現の優れた白秋であるからに、たとえば「カラスは、赤いな、ア、イ、ウ、エ、オ」などというような、事実と明らかに違う言い方はしないだろう。
「五十音」が作られたのは、白秋が30代後半の小田原時代。
ア行の詩作にあたっては、最初に、白秋のメッセージである「跳ねる言葉」の意味を託された「あめんぼ」を置いて、次に、得意とする色彩の「赤」を置いたのではないだろうか。
その二語の間には、幼少期から少年時代に見た褐色のアメンボの記憶があったであろうことが想像されるのである。
この夏の、新しいアメンボの写真が届きました。
Masae☆Photo さんの写真の記事です。水面に映る空を泳ぐ姿が清々しいです。ご紹介します。
(岡田 耕)