
東洋思想を上部構造に規定しよう。新しい「東洋科学」の可能性
1658文字
科学は人類の知性の到達点であり、その進展は常に善であるとされてきた。しかし、現代において科学技術の無制限な応用は、必ずしも人類や地球全体の利益に繋がっていない。現代社会では、科学技術の発展がもたらす恩恵以上に、その負の側面が顕在化している。この矛盾を解決するために、東洋思想を科学の上部構造に据え、西洋科学をその下部構造とする「東洋科学」という新しい枠組みを提唱する。この視点を通じて、科学を再定義し、現代の課題を乗り越える道筋を示したい。
現代の西洋科学は、自然界の法則を解明し、それを実用化することに長けている。しかしその方向性は、人類の幸福や社会の調和といった「目的」を必ずしも持たず、進歩そのものが目的化している。この無目的性が、科学技術の運用において重大な問題を引き起こしている。その例として、まず挙げられるのが社会的不均衡の拡大である。科学技術の発展は、一部の国や企業に富と権力を集中させ、他方で貧困層や発展途上国との格差を広げている。高度医療や人工知能などの技術も、その恩恵を享受できるのは一部の富裕層や特定の地域に限られる。
さらに、科学技術は産業革命以降、自然を搾取する形で進展してきた。その結果として、気候変動や生態系の破壊といった深刻な環境問題が発生している。これらの問題は、もはや人類の存続そのものを危機に陥れる段階に達している。また、人工知能や遺伝子編集、生殖医療などの技術は、人間の尊厳や社会的価値観に挑戦する存在となっている。こうした技術は、その進展を急ぐあまり倫理的な議論が十分に行われないまま実用化されつつある。このように、科学技術の発展が人類の幸福と調和を損ねる結果を招いていることは明白である。
この現状を打開するには、東洋思想を科学技術の運用に取り入れることが有効である。東洋思想は、西洋の論理的かつ個別的な思考とは異なり、全体性、調和、倫理的基盤を重視するものである。これにより、自然界や社会におけるバランスを回復するための指針を提供することができる。具体的には、科学技術の応用に先立ち、「その技術が人類全体や自然環境にとって本当に必要か」を慎重に検討するべきである。たとえば、生命工学やAI技術の開発においては、東洋思想が重視する「自然の摂理」や「共同体の利益」を基盤とする判断が求められる。また、東洋思想が強調する「個と全体」「人間と自然」との調和を基本原則とすることで、科学技術の開発や応用が一部の利益や効率性に偏ることを防ぐことが可能となる。
さらに、東洋思想の価値観に基づき、経済的利益や物質的発展を最優先する西洋的価値観を再考する必要がある。「足るを知る」「質の向上」といった理念を科学技術の運用に取り入れることで、資源の浪費や無意味な競争を抑制できる。このような運用を実現するには、科学技術の適用に対する明確な基準を設け、それに基づいて選択的に科学を運用することが重要である。たとえば、気候変動対策技術や低コスト医療技術のように、社会的価値が高い技術を優先する。また、科学技術の適用は地域の文化や伝統、環境条件に応じて柔軟に変更されるべきである。西洋的な「普遍的技術観」を見直し、地域ごとに異なる東洋思想的価値観を反映させることが求められる。さらに、短期的利益ではなく長期的視点を重視することも必要である。たとえば、再生可能エネルギーのように、当面の利益が小さくとも持続可能性が高い技術を推進することが重要である。
科学はその本質において中立的な道具であり、その使い方次第で人類にとって益にも害にもなり得る。東洋思想を上部構造とし、西洋科学を下部構造とする「東洋科学」という枠組みは、この道具を制御するための有効な指針となり得る。科学が再び人類全体の幸福と調和に奉仕するためには、このような哲学的・思想的転換が不可欠である。このアプローチは、現代科学が抱える課題を克服し、科学を真に人類と地球の未来に資する存在として再構築するための重要な一歩となるであろう。