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「銀河鉄道の夜」ジョバンニくん活字拾いの時代からデジタルフォントへ。楽しい秋の夜長。

こんにちは。お字書き道TALKSです。
このnoteでは、字にまつわるあれこれ様々をざっくばらんに記録していきます。YouTubePodcastもよろしくお願いいたします。


突然ですが!

みなさん「銀河鉄道の夜」観たことががありますか?

「あめゆじゅとてちてけんじゃ」の宮沢賢治です。「雨ニモマケズ」の宮沢賢治。筆者は宮沢賢治と聞いて咄嗟に「手袋を買いに」も思い浮かんだのですが、こちらは新見南吉ですね。。

筆者はむかーし、小学生くらいの頃に「銀河鉄道の夜」のアニメを観たことがあるような気がします。猫の表情があまりないので暗い話だなあなんて思っていたような・・・。

あと、一緒に銀河鉄道に乗る友人「カムパネルラ」の「ム」が何だか気になっていました。が、内容をすっかり忘れていたので今回見直しました。

↓↓↓画像をクリックすると!?(情報商材屋風)

銀河鉄道の夜 - 杉井ギザブロー

なんとファンタジックな素敵な世界観!!

ジブリなどもほとんど大人になって感動できるようになった筆者ではありますが、様々な名作は子ども向けと言われているものでも、大人の方がより味わえるのではないかと思っています。

いやでも「銀河鉄道の夜」は、今回観てもなかなか難しいというか深淵なる話だな・・・というのが感想なのですが・・・。

Wikipedia読んでからまた観よう。


ジョバンニの活字拾いのバイト


さてさて。

物語の中で、主人公のジョバンニは活字拾いのバイトをしています。

活版所でだぶだぶの白いシャツを着た人がだまって小さな銀貨を一つくれるあのシーン。

それから元気よく口笛を吹きながらパン屋へ寄ってパンの塊を一つと角砂糖を一袋買いますと一目散に走るというあのシーンです。


「銀河鉄道の夜」ジョバンニの活字拾いのバイトの話。そもそも「活字拾い」って?どういうお仕事なのでしょうか。

「活字」とは、一文字分ずつ作られた金属製のハンコのようなものです。

「活字拾い」は「文選(ぶんせん)」とも呼ばれ、必要な文字のハンコ(活字)を集めてくるという仕事です。そして、それらをレイアウト&固定したものにインクを付けて紙に印刷する=活版印刷、です。

この活字は金属製のハンコなので、ある活字をひとつジョバンニが拾ってきたとすると、当然ながらその時点でもう紙に印刷される文字の形・デザインは決定されます。

ジョバンニが、
明朝体の「明」「朝」「体」を拾って来たら、
明朝体の「明」「朝」「体」が紙に印刷される。

ジョバンニが、
ゴシック体の「明」「朝」「体」を拾って来たら、
ゴシック体の「明」「朝」「体」が紙に印刷される。

noteでは書体が選べないので、何だかややこしく見えるけど、これは至極当然のことですよね。

で、現在私たちがパソコンの画面を前にして「フォントはどうしようかな?」と悩んだりする「フォント」という言葉。

例えば明朝体やらゴシック体を選択すると、文字の形・デザイン、書体の表示が変化します。メイリオとか創英角ポップ体とか教科書体とか・・・一般的なWindowsの標準装備でもたくさんのフォントがあります。


この「フォント」という言葉。

多くの人の認識では、明朝体とか、ゴシック体とか、それらのことだと思います。もちろんPC用語としてはこの意味で良いのですが、元来の意味の「フォント」という言葉とは異なる意味で使われているのです。

ここで出てくる言葉が「タイプフェイス」。


フォントとタイプフェイス


さて耳慣れない言葉が出てきました。先に「フォント」と「タイプフェイス」の基本的な説明をしてみましょう。

フォント ⇒
タイプフェイス・文字サイズ・斜体・太字などの印字される文字の持つ要素全体を指す。

タイプフェイス(書体)⇒
デザイン設計された印刷用文字の文字そのもの。金属。


活字拾いの時代

先ほどの活字拾いの話で言えば、活字が収納されている棚の分類、階層がどうなってたかはわからないけど・・・(雰囲気、イメージ)

①文字サイズ○ptのコーナーへまず向かう。
②そこで明朝体のタイプフェイスの棚の引き出しを開けて必要な文字を探す。
③次に、その文字の小分けされたところから標準・斜体・太字のいずれかを取り出す。

というようなことです。

活字屋さんの棚のイメージ


活字屋さんの整理された書体の棚=「フォント」というイメージ

そして、繰り返しになりますが、「タイプフェイス」と言うのはデザイン設計された印刷用文字の文字そのもの。活字屋さんで言うと金属の棒、もしくはその先端の文字の金型を指します。


あと余談ですが。現在は文字サイズ〇pt(ポイント)という言い方が一般的ですが、活版所では文字サイズを「号」という単位で表します。大きさの単位で「号」を用いるものは他にもたくさんありそうですね。キャンバスとか鉢とか筆とか・・・。


日ごろPC用語として使っている意味での「フォント」


例えば。

Wordなどを使って書類作成をする際。文字サイズ、斜体・太字などの要素とは別にして。明朝体・ゴシック体などの書体の要素を選択していると思います。

この書体を選択する場面で「フォントを何にしようかな?」とか頭の中でも考えていたりしませんか?


つまり、元来の「タイプフェイス」(書体)を表す意味で「フォント」という言葉を使っていることになります。詳しい話は以下に続きます。

それはさておき、パソコンやスマホの中に、超高速ジョバンニがいて、たくさんの文字を拾って表示してくれてると思うと尊いものです。PC内で働くジョバンニくん、いつもありがとう。


タイプライターの時代


で、例えばタイプライターの時代はこの「完成品のフォント」がタイプヘッドに付いていて、それを直接紙にたたきつけることで印字していました。

もうこの頃から文字そのものを拾ってくる作業は不要になってしまいました。だって任意のキーをタイプするだけでいいのだから。

PCの外で文字拾いをしていたジョバンニ(猫)失業。。

しかしながらまだこのタイプライターの時代では、文字サイズを変えたかったり、斜体・太字、もちろん書体(タイプフェイス)を変更したければ、タイプライター自体に改造を施すか、それ用の別のタイプライターを使う必要がありました。

タイプライターのイメージ例


さらに、ワープロの時代、デジタルの時代になると。


さらに、ワープロの時代、デジタルの時代になると。文字拾いも必要なければ、あとから文字サイズ+タイプフェイス(書体)+斜体・太字などの要素を個別に変更できるようになりました。

この「後から個別に変更できる」ということがポイントで、これはタイプライターの時代にはあり得ないことでした。

本当に、便利になったものです。

・・・でもしかし。

そうなると。
<文字にまつわるいろんな要素が合わさって出来上がった「(完成品の)フォント」って概念>の重要性は著しく低くなってしまいます。

だって。

後からいつでも個別に要素を変更できるんだもの。


現代における「フォント」の意味


というわけで。だから。「フォント」という言葉の正確な(元々の)意味は形骸化されて消えてしまいました。

そこで、「タイプフェイス」という言葉だけが生き残るかと思ったら、言葉として消えたのは「タイプフェイス」の方で、その代わりに本来の意味とは異なる用法だけど、そこに「フォント」という言葉が収まったというわけなのです。


少しだけ補足すると。

ジョバンニを含めた活字屋さんの整理された書体の棚=「フォント」ってイメージと先述しました。けれど「フォント」という言葉が実際に使われるようになるのはワープロ以降のデジタル世代の言葉です。デジタル時代になって、活字屋さんの棚は消えて行ったけど、その棚にあたるものを「フォント」と呼んだ。ということですね。

しかし。

いつしか「フォント」は書体(タイプフェイス)をあらわす意味で使われるようになった。

という感じです。


昔の意味と現代の意味が混乱してしまいがちですが、フォントとタイプフェイスの話、お分かりいただけたでしょうか?

ちなみに、今でも、この業界の職人肌の人たちはフォント(タイプフェイス)・フォントファイル(本来の意味のフォント)と言葉を使い分けていたりするみたいです。

以下余談??です。


シネクドキとメトノミーの話


フォント(印字される文字の持つ要素全体を指す)のなかに、タイプフェイス(書体)や、文字サイズ・斜体・太字などの各要素がある訳です。

つまり。

フォントが上位の概念で、タイプフェイスが下位概念です。

これ「シネクドキ」です。

・・・って、ナニソレ??ソレナニ??


シネクドキ(堤喩)


シネクドキ・・・シネコン、大トカゲモドキ、女くどき飯(峰なゆかさんの漫画。貫地谷しほりさん主演でドラマ化も。)耳慣れない言葉なので、つい同音系の言葉を脳内検索してしまいました。

シネクドキとは。
・上位概念で下位概念を表したり
・下位概念で上位概念を表したり
すること

???

例えば・・・

ギターを弾いている⇒音楽を演奏している
みたいなこと?
下位概念⇒上位概念??

ということではありません。


ギターを弾いている。のはほとんどの場合は音楽を演奏している訳なんだけど、ギターの弦って弾いたら音出てしまう。テーブル叩いても音は出る。

だから、たまたまうっかりギターを弾いてしまっていて音が出ていても、必ずしも音楽が演奏されている訳ではない。だからこの事例だとそもそも下位概念(ギターを弾いている)、上位概念(音楽を演奏している)という関係性が成立していません。

※下位概念として設定したものが必ずしも上位概念に繋がらないため。

それは、メトノミー(換喩)にあたりそう。


メトノミー(換喩)


また聞き慣れないカタカナ出てきました。

メトノミーとは。
隣接性に基づくものを表す比喩表現。
つまり、Aを言うことで、それと隣接関係にあるBを表現することです。

A:扇風機が回っている
B:(実際には)扇風機ではなく羽が回っている

みたいな感じ。

だから。

ギターを弾いている⇒隣接関係にある音楽を弾いている(演奏している)ということ(メトノミー)は成立するかもしれない。けれど、前述のとおりシネクドキにはあたらないと思う。

たぶん(笑)

ややこしいけれど。


話を戻して、「フォント」と「タイプフェイス」の話に置き換えると。


本来、上位概念だった「フォント」という言葉が、下位概念:フォントを成す一要素だった「タイプフェイス」(書体)の意味を表すようになったことはシネクドキ的構造。

と言うことになります。

上位概念⇒下位概念パターン


他にも例えば・・・

「メシ、食いに行こうぜ!」とか「ご飯行こうよ」の「メシ」や「ご飯」。

「メシ」や「ご飯」は「米を炊いたもの」ことで食事の要素の一つで下位概念です。しかし、この場合の「メシ」「ご飯」は食事全体という上位概念を表しています。

下位概念⇒上位概念パターン


「お茶、飲みに行かない?」の「お茶」も然り。

下位概念の「お茶」という言葉で、上位概念の飲み物全般の意味(加えて、「お話しよう、休憩しよう」などの意味も含意されてるかも?)を表しているのだから、言葉通りお茶を飲まずとも別にコーヒーやクリームソーダを飲んでも良いわけです。

下位概念⇒上位概念パターン

これが「シネクドキ」です!

なんだかスゴくシネクドキのことを説明してしまったゾ。


あとがき


現在一般的に言う「ここのフォント変えようかな」というのは、本来の意味で言えば「タイプフェイス(書体)変えようかな」です。

「タイプフェイス」は「フォント」に乗っ取られたわけです。


こう言ったタイプの言葉の乗っ取り、乗っ取られ、すり替わりなんかは他にもけっこうあるんじゃないかなあ。

思いついた方はコメント欄で教えて下さい。


ちょっと違う感じかもだけど、「お酒ください」と言うオーダーについて筆者は「日本酒ください」と言うニュアンスを感じます。「酒飲もうぜ!」はアルコール摂取しようぜ!の意味かな。「お酒飲もうぜ!」だと何だか日本酒の一升瓶を持ってフラッと現れる友人のようなイメージが湧きます。

「お」の有無で指すイメージや意味が変わってしまう。「おにぎり」は🍙だけど、「にぎり」だと寿司な感じ。○喩のパターンではないですけどね。

あることを表すのに、何か言葉を用いる側と、それを受け取る側がいて、そのあることを伝え合うことが出来る。美しき人間の日々

発信と受信。

この伝え合うことが達成されていればそこで用いられる言葉なんて一体それが何だって良いのだと思います。ここで好きな歌の一節を。

This is Mukai Shutoku!

生まれ育ったその環境、歴史、思想すべてブチこんで
表すことが出来ればいい
意味がわからん言葉で意思の疎通を計りたい

KIMOCHI - ZAZEN BOYS
向井秀徳 ↔ 椎名林檎


その界隈のプロの方同士以外が、「昔はこうだったんだよ!!」と懐古主義的に「タイプフェイス」を用いた言い方をしても伝わらない・・・

それどころか、すでに多くの人にとって「タイプフェイス」という言葉は失われているでしょう。「フォント」でいいじゃないか。

言葉はたくさんの意味を飲み込んで使われています。そして時代とともにその意味が変容していくこともあります。

でも、失われつつある言葉に再度光を当ててみることで、ジョバンニの仕事まで話を広げて味わうのは楽しいな、と思う秋の夜長。


※毎週木曜19時更新

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