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喝采!パフォーマンス書道 -大きな文字はいつから書かれるようになった?-

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左:書道家タケウチ 右上:書道家板谷栄司with鯖大寺鯖次朗 右下:ジャズギタリストタナカ

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書道家のイメージ


何かの拍子に「書道家です」、と言うと「大きい筆振りかぶって書くんですか?」あるいは「武田双雲さんみたいな感じ?」と聞かれることが結構あります。こういう感じの↓↓

(出典:成田真澄様ホームページより)

先日記事にした「今年の漢字」の、清水寺での揮毫も有名なパフォーマンス書道ですね。あとは「書道パフォーマンス甲子園」とか。

(出典:毎日新聞
(出典:筆モップ.com

書道家を生業としている人が100人いたとしたら、人前で大きめの紙にパフォーマンス的に書を揮毫したことがあるのは20%くらい・・・?(あくまで筆者の体感値)

中でも、「大きい筆を持って振りかぶって書く」というくらい大きなものを書いたことがある書道家は5%にも満たないのでは・・・ちなみに筆者はパフォーマンス書道の経験はほんの数回あるものの、「大きな筆を振りかぶって書く」ほど大きなものを書いたことはありません。

「パフォーマンス書道」は華々しくインパクトもあるので、それを見た方なら、「書道ってでっかくてカッコイイ!」というイメージが深く付いてしまうことも仕方のないことかもしれません。
しかし、「書道」という世界において、大きな紙の上を歩き動き回って書くことは、ほんの一分野であるとご理解いただけたらと思います。


書道はもともと手元の小さな世界


書道は、 古代中国で生まれ(中国では、5-7世紀頃には既に成熟期にあった)、日本では飛鳥時代(592-710年)頃から盛んにおこなわれるようになりました。

仏教の経典を書き写す「写経」、
『古事記』(712年)『日本書紀』(720年)などの歴史書を書いたり、
公文書や私的な手紙の作成

などから始まりました。

当時も現在と同じように、机に紙を置いて書いていたと思います。紙は巻物であれば横には長いですが、縦は20㎝とか40㎝とかそのくらいものでしょう。一字の大きさは1-3㎝角ほどなのではないでしょうか。

奈良時代の写経(出典:藤田美術館

ちなみに石碑(石に文字を彫る)の場合には、それ自体が数メートル級の大きなものも多々あります。それでも一字の大きさが1mを超えるなんてものはないのでは。

次の画像は5世紀末頃の「孫秋生造像(そんしゅうせいぞうぞうき)」で、かなり大きなもの(実際の大きさは不明です。ご存じの方教えてください)ですが、一字は20㎝角くらいなのではと思われます。

(出典:SHODO FAM 孫秋生造像


鎌倉時代には大きめの文字も現れる


昔の書道で大きめの文字を考えてみると思い当たるのが、禅林墨蹟。禅宗の僧侶が書く、太くて朴訥とした印象の書です。

(出典:荏原畠山美術館 宗峰妙超「孤桂」)

鎌倉時代の僧侶、宗峰妙超(しゅうほうみょうちょう1283-1338年)の書です。紙のサイズは、縦31.6㎝/横94.4㎝。一文字は30㎝角ほどかなと思います。

このくらいの文字であれば、お店の看板などが木や布に書かれることもあったのかと推測されます。

江戸時代では、白隠(1686-1769年)や良寛(1758-1831年)などのやはり禅僧が比較的大きな文字の書を書いていました。(小さな文字を書くことの方が多かったと思いますが)
次の良寛さんの書は、紙サイズ縦133.5cm/横51.0cm。一文字はやはり30-40㎝角ほどと思います。

良寛「天地二大字」(出典:根津美術館
白隠「帝網窟」「圓通山」(出典:『墨美 no.79 白隠特集』紙サイズ不明)


30㎝ほどの文字なら、そんなに太い筆でなくても書ける


禅僧の肉厚な書を紹介しましたが、30㎝角ほどの文字の大きさであれば、↓下のモップのイラストのような大筆は全く必要ありません。

下の筆は一般的に半紙に書く筆よりも大きめですが、このくらいの大きさの筆であれば、太さ5㎝ほどの線で、肉厚な30㎝角の文字を書くのは余裕で出来ると思います。

(出典:一休園 文志堂


大字書、パフォーマンス書道はいつから始まった?


さて、大きな文字を書く書道作品は鎌倉時代頃にはあったわけですが、そうは言っても、紙の上を歩き動きながら書くような、いわゆる「大字書」や、観客ありきの巨大書「パフォーマンス書道」はいつから始まったのでしょうか。


一字書(大字書)ブームは戦後にあった

▼前衛書道の流れにいた著名書道家
上田 桑鳩(うえだ そうきゅう 1899-1968年)
手島 右卿(てしま ゆうけい 1901-1987年)
井上 有一(いのうえゆういち 1916-1985年)
森田 子龍(もりたしりゅう 1912-1998年)
宇野 雪村(うのせっそん 1912-1995年)
比田井 南谷(ひだいなんこく 1912-1999年)

彼らに代表される、いわゆる「前衛書道」。1940年代後半から1950年代に盛んになった、従来の書道や文字の幅を飛び越えて、書の領域を拡張し、書の新しい美を見出さんとした流れです。
小品もあったかと思いますが、この流れの作品は紙が1mや2mそれ以上といったかなり大きいイメージがあります。

中でも井上有一は「一字書」という分野を確固たるものにした第一人者と言っても良いでしょう。バケツに入った墨汁にでっかい筆をバシャっとつけて、墨の飛沫を飛ばしながらダイナミックに書きつける。
これは文字の意味が分からない外国の人にもウケが良く、井上有一の作品は、今でも現代アートの市場で書道の分野としてはかなり高値で取引されています。

(出典:和楽
(出典:Mikiki.tokyo


現代も続く書道展の「大字書」部門

大きな書道展(読売書法展、毎日書道展など)では、1m~2mくらいの紙に1,2文字を書く「大字書」「少字数」の部門があります。
下の画像では大きさが分かりづらいですが、1文字1m強の大きな文字が書かれています。

(出典:毎日書道会 大字書部門)
(出典:読売書法会

毎日書道展は1948年(昭和23年)から始まったとのこと。(読売書法展は1984年~)
具体的にいつから「大字書」の部門があったかは残念ながら分かりませんが、「新分野の書」と書かれているので、おそらく後に作られた分野でありましょう。

※毎日書道展の「前衛書道」の分野ができたのが、1958年。これにより「墨象」「抽象書」「自由書」「前衛書道」などと呼ばれてきた分野が「前衛書道」と言葉がひとつにまとめられた。


パフォーマンス書道は2008年から盛んに


さきほどの前衛書道、大字書は観客ありきでパフォーマンスを主とするものではありません。(もちろん、展覧会の場でライブで書かれることもあるとは思いますが)

観客の前で、音楽を流して時にダンスなども交えながら行う「パフォーマンス書道」はいつどうして生まれたのでしょうか。

火付けになったのは、書道パフォーマンス甲子園。2008年から参加数3校から始まり、2017年には参加数100校を超える大人気イベントとなりました。毎年テレビ放映されたことにより、爆発的に広まっていったようです。

▼書道パフォーマンス甲子園
愛媛県四国中央市の四国中央紙まつりに行われる学生大会。大会の正式名称は「全国高校書道パフォーマンス選手権大会」
高校書道部員12人以内、4m×6m四方の巨大な紙の上を流行の音楽に合わせて手拍子やダンスをしながら書道をする、文字通りパフォーマンス書道日本一の高校を決める大会である。

(出典:Wikipedia
(出典:書道パフォーマンス甲子園

映画『書道ガールズ!! わたしたちの甲子園』2010年公開
漫画『とめはねっ! 鈴里高校書道部』2007年連載開始
など、この頃、書道をテーマにした映画や漫画も制作され、パフォーマンス書道ブームが起きていたと言えるでしょう。

この流れによって、「書道とは大きな筆を振りかぶって書く」ものというイメージが定着していったものと思われます。同時期には、日本で最も有名な書道家のひとりである武田双雲氏がテレビに数多く出演するようになりました。


パフォーマンス書道で用いられる特殊な道具


パフォーマンス書道で使われるのは、紙も筆も、大きな文字を書くための特殊なもの。そのための商品もこの頃からかなり増えていったのではと思われます。

(出典:書遊
(出典:呉竹
(出典:Amazon


どんどん巨大になっていく・・・?


「書道パフォーマンス甲子園」の流れを受けて?かどうかは分かりませんが、2010年代には、ひとりの書道家が書く、超巨大な書道作品をよく見かけるようになります。

◎2013年 柿沼康二『書の道 “ぱーっ”』金沢21世紀美術館

(出典:金沢21世紀美術館 柿沼康二)

◎2020年 武田双雲 『楽園』

『楽園』(出典:X 武田双雲)200号サイズ 2.59m×1.94m×2

◎2021年 『金澤翔子展「つきのひかり」』森アーツセンターギャラリー

『月の光』(出典:インターネットミュージアム

とにかくデカい。やっぱりでっかいのは単純にスゴイ!費用も体力もそれだけでかくかかるわけだから制作覚悟もデカい!!

今回取り上げたのはメディアでも有名な方々ですが、他にも企業の祝賀会、何かの開設記念、デパートや公共の場等の催しでも、大きな文字のパフォーマンス書道は数多く行われています。


大きな書、パフォーマンス書道の魅せ方


大きな書作品は大きいだけで魅力があるものですが、次の要素をより派手に表現することによって人目を引くことができます。

・墨が飛び散る飛墨
・滲みとかすれ

また井上有一らは「ボンド墨」と呼ばれる、墨にボンドを混ぜた特殊な墨汁を使い、濃淡や筆の軌跡がよく見えるようにして、ダイナミズムを盛り上げています。

パフォーマンスで立て看板のようなものに書く際には、墨汁が文字から垂れたりすることも作品の一部として構成されていると言って良いでしょう。

もちろんですが、筆遣いや身のこなし方など、普通サイズのものとは異なるので、大きなものを書くときにはそれ相応の道具の準備や練習が必須です。


ちなみに、でっかい書をメインで書いていらっしゃる我らが板谷栄司with鯖大寺鯖次朗さんですが、飛墨、かすれ、墨だれが一切なく、巨大な書を筆で表現しています。これ以上は秘技㊙️とのこと。

『ごりやく。』(出典:板谷栄司with鯖大寺鯖次朗2024年)

筆者も毎年恒例、息子の保育園で揮毫してきました。
でもこれは60㎝×120㎝ほどの紙なのでそんなに大きくはありません。緊張して手が震えて、紙を変えて書き直すという・・・トホホ・・・(何とか仕上げあました)
本当はその理由とかについて書くつもりで書き始めたのですが、全然違う話になりました(笑)

でっかいのはカッコイイ!
(でも書道はでっかいだけではない)


それでは!



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