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#5 人口308人の町で、地域産品をブランド化し月商1000万を達成した方法

#5 人口308人の町で、地域産品をブランド化し月商1000万を達成した方法

このnoteでは、わずか人口308人の山奥の過疎地で、地域産品を活用したビジネスを展開し、月商1000万を達成した方法や、その裏側についてを詳細に公開します。

今日がシリーズ最終話。
1番のコアは持続可能な生産体制を構築する、地域人材での組織作りについて、になります。

※こんな人に読んでもらいたい!
・ マーケティングに興味のある人
・ 地方で、D2Cブランドを始めたい人
・ ブランド力で事業を拡大していきたい人
・地方の素材や商材を活用して、事業を拡大したい人
・事業継承し、会社のこれからを本気で考える人

#1は、起業準備編として、データドリブンな背景を公開し
#2は、D2Cで売上を立て、さらに集客〜リピートを仕組み化、自動化する方法を公開。
#3は、コアターゲットを女性に設定した理由、地域産品を安定したブランド価値に変える5つのメゾットを公開
#4は、唯一無二にし、ブランド価値を高めるストーリーテリングの実装方法、顧客満足度を上げるためにしたことや、地域だからこその強みを活かしたマーケ戦略についてを公開しました。
地域で経営、起業する方は、数回は読み込んで欲しい、地域経営のリアルを綴っています。
#5 から入られた方はぜひ時系列に合わせ、 #1 か読み進めてみてください。

本編全体アジェンダはこちら

↓全体アジェンダはこちらでお届けします↓
1. 地方でのビジネス展開における本質的な課題や壁について

2.人口308人の町で、反対されながらネット通販ビジネスへの参入を決めた理由
3.供給制限がかかる地域における売上最小化、利益最大化。
売上と利益を4象限に分解、
参入する市場と商品企画開発をルールに。

4. D2C市場で勝つ、5つの成功の鍵
①.【求められる商品の開発】市場における相対的な好意度の高さを持つ商品を開発する
②.【利益の確保】高価格帯のニッチな特定市場を選択する
③.【集客の仕組み化】画力とワードでアクセスを取る
④【購買への転換】顧客が購入したくなる情報を揃える
.【LTVの自然な向上】リピート構造が伴う販売を設計する
5.女性に訴求する商品が必須。コアターゲットの狙い
6.地方産品を安定した付加価値に変える、ブランド化戦略
7.唯一無二のブランドにする&応援を生む「ストーリー」設計
8.クオリティと顧客満足の追求
9.地方での効果的なマーケティング戦略
(今日はここから↓)
10.地域D2Cにおける物流障壁 5つの克服策

11.地域で持続可能な採用と人材定義
12.D2CからBtoBへの進出のきっかけ

13.月商1000万円達成と売上構成比
14.総括と教訓・これからの事業成長
15.#予告 月商1000万達成までにした5つの『失敗』

10.地域D2Cにおける物流障壁 5つの克服策

地域におけるD2Cビジネスでは、物流と人材が重要な2つの要素です。この2つの問題に直面することは避けられません。
10.11プロットでは、人口308人の町で、これらの課題にどのように取り組み、物流ハードル対策、人材戦略を形成したかについて公開します。

人口308人の町で、月2000件以上発送する
物流障壁の乗り越え方

まず物流についてです。地域での事業運営は、都市部と比べて物流の困難さが際立ちます。
Amazonでは注文した当日に自宅に荷物が届くほど。当日・翌日出荷がデフォルトとなったような時代です。

デイリーユース商品をネット通販で購入する際に
顧客が求めるものを調査したアンケート

グラフの通り「普段使いの商品購入」において影響を多く与えるものに1位「送料」が入っています。
サプライチェーンの構造上、どうしても物流が入るD2Cにとっては、必ず負担となる部分です。
これらについて行った克服策が5つありました。

①物流障壁があっても求められる属性に入ること
②物流障壁以上に求められる独自性があること
③交渉権が自社にある状態を作ること
④物流会社を一強にしないこと
⑤梱包は60サイズ内に収めること

ひとつずつ、解説します。

①物流障壁があっても求められる属性に入ること

拠点とする長崎県平戸市から関東への最短到着は、発送日からの翌々日です。この時点で、「普段使いの商品市場に、供給制限がかかる地域企業がD2Cで参入するのは、ちょっと難しいよね」が透けて見えます。

スイーツブランドはD2C、しかも誕生日やギフトシーンに使われるものとして設計してあります。このギフト市場についてのデータを、いくつかピックアップします。

インターネット総合ショッピングモール「Qoo10」を運営する
eBay Japan合同会社調査データより

ネット通販でギフトを購入した経験があるのは、なんと全体の7割に上ります。

ネット通販におけるカスタマーアクションの最上位は、誕生日が75.8%です。
また、ギフトシーンに関しては、時間軸での速さではなく、時間をかけても、相手が喜んでくれる、本当に良いものをプレゼントしたい、というインサイトが分かります。

※インサイト※
「消費者の隠れた心理」のこと。 競合他社との差別化を図るには、消費者自身も気づいていない欲求を丁寧に深掘りすることが求められます。

ギフトは受け取るより
選んで贈る方が気を使っていることがわかるデータ
このデータはWEB上の情報設計において
何を掲載すべきか指示するような内容
調査対象n属性にとってどの価格帯が
市場の好意度(プレファレンス)を集めているかも分かる

上記の調査結果から分かるのは、デイリーユース商品と違い、ギフト市場は物流に対して、速さより品質や第三者評価、画像の多さなど、他要素が優先度が高いことです。
むしろ時間をかけて吟味する傾向が高く、速さの勝負から抜けられるのがギフト市場
だと言えます。
地域D2Cにおいては、到着の速さが購買意思決定の最上位ではない、物流障壁があっても求められる属性に入ることが、解決の一助となってくれました。

②物流障壁以上に求められる独自性があること

克服策①は、時間軸に対する方法でしたが、次はサービス特性の話です。
結論、「送料をかけてでも、到着までに数日必要だとしても、取り寄せたいだけの理由があるサービス・コンテンツを作らなければ、勝負にならない」です。
ただ、これらの情報はすでにマーケ調査段階でグリップできていたもので、ブランド設計、サービス設計、ストーリーテリングにおいて実装・解決されています。

マーケティングで言えばUSP戦略部分で、独自性・付加価値をサービスに内包しました。

MDで言えばNBDモデルを活用した商品開発戦略によって、より市場の好意度が高いサービスを生み出しました。

結論、独自の付加価値をサービスに取り込む商品開発が、結果として地域における物流障壁の克服策ともなり得る、ということです。
地域でのD2C商品開発メゾットは#3 にまとめてあるので、ぜひ読み返してみてください。

③物流会社との交渉権が自社にある状態を作ること。

配送には時間と費用がかかるため、それらにかかるお客様の負担を軽減する戦略が必要となります。
ただし、最初から送料に関する交渉に対して、配送会社に耳を貸してもらえるかというと、それはなかなか難しいことです。
こちらの規定に従ってくださいね、で終わってしまいます。

となると打破策になるのは、「競合より自社の配送ルートを使ってほしい」とオファーを受けるだけの環境をセットすること、です。
この方法はたったひとつ「配送数を増やすこと」のみとなります。

売れる商品設計、販促まではすでに整っている段階です。商談会に出展するなどして、市場への配荷率を上げていきました。

東京開催の通販特化型商談会へ出席
2日で80社との名刺交換をしました
今もお取り引きさせていただく企業様も多数です

これらに伴って、配送数が順調に伸び続けます。この配送数ですから、送料について交渉させていただけませんか、と話ができる状態を作りました。

これは実際、非常に多面的な効果を持っていました。
単に配送時だけの話だけではなく、配送コストを下げることで、お客様の負担も下がります。価格へ反映されるので、より買いやすい状態となるので、購買転換率が上がります。
また、自社としては配送のコストカットに成功した分、利益率が上がります。

D2Cで確認する4つの数字
購買転換率(CVR)を改善する手段のひとつが
物流障壁の解消です

こちらの言い分だけを通すのではなく、相手も条件を飲むこと対して、納得に足りる状態を作ること。
交渉権の獲得は時間がかかりますが、確実です。

④物流会社を一強にしない

市場原理として、競合がいない状態で交渉したとしても、その効力は落ちてしまいます。
複数の配送会社を併用して活用することで、配送会社間での競争を促進しました。
これにより、物流コストの交渉権だけでなく、主導権も自社が握ることが可能となりました。結果的に、配送コストを下げることができました。

ただ、これはとても心苦しいことではありました。
地域D2Cにとって、物流会社は大切な存在であり、パートナーです。
配達員の方も、営業所職員の方も、とても親切であるにも関わらず、経営視点としてはやるべき交渉であることに、心理的負荷を感じました。

これを解消すべく私がとったのは「価格交渉はするけども、それぞれの会社に対して同等の物量数を取にいくこと」でした。AのマーケットはA社にお願いし、BのマーケットはB社にお願いする。どちらの数も伸ばす努力は自社がやれば良いじゃない、という話でしかありません。これであれば、どちらかを蹴落としてしまうようなやり方をせずに済みます。

実際にどのようにしたかと言うと、モールECはヤマト運輸のB2システムを採用しました。
そして平戸市の場合は、ふるさと納税返礼品の物流を佐川急便と協定関係にしてあります。佐川急便の配送数も確保するために、ふるさと納税返礼品受注数を注力して伸ばすよう、2社を配置しました。

これらは私がD2Cを運営するスキルを持ったことや、D2C実績をもとに、さらに市場に展開する手段を実施していたことがあります。
またふるさと納税返礼品の記載ページやモール内SEOのハック、サムネイルの改善などもサポートできるまでになっていたので、不可能ではないことも理解していました。

結果的には、物量数そのものがさらに伸びていきました。心理的負荷を解消、利益率は上がりつつ、競合2社をコスト調整し、どちらも最大限に活用するという、経営としても良い状態となりました。

⑤梱包は60サイズ内に収める

最後に、配送サイズを60サイズ以下にすることで配送コストを抑えました。配送サイズが小さければ小さいほど、運送費が低く抑えられるためです。

1サイズ上がるごとに、料金もUP
ヤマト運輸HPより

オリジナルのケーキボックス、ロゴ入りの配送箱も、60サイズに収まるように設計してあります。
下記はクリスマスシーズンのデコレーション雑貨入りの状態ですが、これもきっちり60サイズです。

配送会社の料金規定内に抑えることで、物量障壁を最小で済むようにしてあります。

地域におけるD2C物流障壁の克服策は
①物流障壁があっても求められる属性に入ること
②物流障壁以上に求められる独自性があること
③物流会社との交渉権が自社にある状態を作ること
④物流会社を一強にしないこと
⑤梱包は60サイズ内に収めること
となります。

11.地域で持続可能な採用と人材定義

さて、本noteの中でも頭を抱え続けたのが、このプロットです。地域で持続可能な事業を設計する上で、「人」「定着する組織作り」「一致団結するチーム形成」に1番四苦八苦してきました。

これまでの通り、自社の売り上げ推移は順調で、積み上がり続ける戦略設計をしてます。これらは私の指揮下で生まれるもので、コントロール可能です。売り上げを増やすことも、逆に減らすことも、容易にできました。

ところが、人材だけは私のコントロール外です。
弊社の売り上げ推移の裏側には「ふみかさん、もう受注止めてもらわないと、現場間に合ってないです」とスタッフチームとやりとりをし続けた歴史でもあります。

なぜなら、#1 で公開した通り、平戸市の現状の根幹にある課題が「人口減少」、そして「解決する見込みのない、生産年齢人口減少」があるためです。

 

人材の母数そのものが少ない中で、生産効率を高めないといけないし、商品も無数に開発・生産できるわけじゃない。

さらに、創業者と同じ意識レベル、スキルセットを持った人材に巡り会えるかといえば、それはもう広大な砂浜の中からダイヤを見つけるような確率です。
結論、無理です。

はい、無理なのです。


でもそれはそれで良い。創業者はやっぱり思考が違います。思考が違う人間が組織の中に数多く必要かといえば、それもNOです。
創業者が創造したものを安定的に届ける役割の人を配置できるか、それはリーダーが考えるべき領域なわけです。

人材が必要だと知った周囲や、スタッフからも「製菓学校に募集要綱を出したらどうですか」と言われてもきましたが、それは必ず断ってきました。
一度は驚かれますが、シュミレーションを話すとみんな納得されます。

私が拠点とする町に来て、マニュアル化されたサービスの中で、自分の腕を試したい、もっと広い世界を経験したいという想いは、当然発生します。
また、娯楽がない地域に10代が来て、そこに何年もいるでしょうか。

そうなるといずれ離職する未来しかなく、また振り出しに戻るだけ。結局、何も課題は解決されなかった、となるだけです。

私に必要なのは、製菓学校を出た経験者より、地域にいる生活者の方。それがスタッフチームにとっても安定した環境となり、安心して働けることになります。


で、じゃ何をやったか、について、書きます。
リアルな紆余曲折の歴史です。笑

(補足)
コンサルティング担う製作所の業務は、ブランド事業とは全く逆のチーム作りをしてます。WEB環境と、個のスキルセットの高さ、コミット力があれば、食×地域×WEB領域で結果を出すことができる。なので、私以外は全員東京です。

地域の中で、私が求めるスピード感やスキルを持った人を見つけるのは非常に難しく、COOとの出会いによって得られたものでした。
ただこれも、再現性がないかと言えばそうではなく、ビジョンや信念があるか、発信しているか、外部との接触を積極的に取っているか、プロジェクト推進に必要なビジネスコミュニケーションスキルを磨いているか、などの要素があれば、私でなくてもできます。

業種・業態によって、SPFしたチーム編成もまた、経営には必須となる中で、地域密着型のビジネスモデルの場合はこうだったよ、という話です。

現在スタッフは8名で、すべて年齢は20代〜50代の地域の女性たちです。
製菓学校を出たスタッフを偶然1名採用できただけで、あとは未経験のスタッフばかり。彼女たちの7名はママで、多くが扶養の範囲内で働きたい、土日祝日は休みたい、仕事は15時まで、もしくは遅くても17時には帰りたい、という希望がありました。

上記条件の中で経営を拡大するはとても困難ですが、やるしかない、が結論です。
私が地域経営の中で工夫してきたものを4つ書き出します。
何より伝えたいのは【地域生活者であり離職率が低い人材を、仕組みによって定着させる試行錯誤の7年間だった】ということでしょうか。

1.土日祝日定休日と、フレキシブルな勤務時間の導入

パティスリーで土日祝日定休日、というのはなかなか聞かない言葉だと思うのですが、完全に定休日です。
地域女性は土日祝日子供がいて、子供のそばにいたいから、これ以外の理由はありません。

地域女性の雇用に、私自身が実はこだわりがありました。
地域女性はとても働きにくい環境にあると、私自身もそう思ってきたためです。
子供を見ながら働きたい、でもそうできる職場は少ない。これらを解消できるような仕事の仕組みを作りたい、と考えました。
D2Cビジネスへの参入は、MRの結論でもありましたが、もう一方で女性支援の意味合いを持っており、土日祝日定休はD2Cビジネスはぴったりでした。

また、地域の女性たちの生活スタイルに合わせ、フレキシブルな勤務時間を設定しました。8時から、8時半から、9時からと始業時間は個々で異なり、終業時間も15時、16時、17時半とバラバラです。

また、朝になると子供が熱を出している、というのも日常茶飯時。朝の慌ただしい時間に、休みの連絡を入れるのも大変です。
欠勤はLINE連絡のみでOK、としました。
簡単に休めるじゃないか、という声も出そうですが、人口308人の町です。隣町から来ていても、みんな顔見知りです。おそらくサボったら秒でバレます。

地域での噂は音速で広がる

スタッフの中にはまだまだ子供が小さかったり、特別な事情があって子供を最優先にしたい、という希望があったりもします。働くことに意欲的であったとしても、環境でそうできない、というケースが多いのも地域女性です。

働きたい分を働けるようにする受け皿を整えることも、地域経営の現場では求められます。
経営者がどれだけやりたくても、それは後回しです。
土日祝日定休、フレキシブルな勤務体制の実現。これによって地域女性が働きやすい環境を持たせてあります。

2.扶養の範囲内の稼働希望にも合わせて、年間販促をコントロールする

スイーツ事業は12月が1番の繁忙期のためここには人材が必ず必要ですが、スタッフの中には「どうしても扶養の範囲内が良い」という希望がある人もいます。
12月の稼働を確保するために、受注を他時期で絞りながら調整する、ということもやってきました。

経営側からすると「多少支払っても、それより得するだけの稼動を取れば良いのでは」と思いますが、押し付ける訳にはいきません。数字の話ではなく、その裏側には何か事情があるかもしれないし、感情論の話かもしれない。
ここまでスタッフに気を使う経営者はいるだろうか、と疑問を抱くこともありましたし、こちらを読まれる経営者は「甘い」と思われるかもしれません。

ただこれに関しては、すでに私がブランド経営からは軸足を抜き、本来の起業目的だった製作所業務に比重を移したことで、それも良しとできた、という背景もあります。
私が自分のリソースをブランド事業に全ベットしていたら、やってません。これも正直なところです。
この経緯については、これだけ動く私が3日間、泣くだけ泣いて、ベットから起き上がれないほどに絶望したエピソードがあります。今となっては笑い話なので、そのうち書こうと思います。

3.専門的な製造スキルがなくても
市場配荷率を上げられる商品を開発した

地域には製菓未経験のスタッフしかいません。
つまり、プロしか作れないような商品を開発すること自体が、事業拡大条件から省かれる、を意味していました。
これに気づかず、属人的な商品を開発するパティスリーもありますが、それはD2C領域において正しい指標である、とは言えません。人気商品が属人的であると、その人が離職すると売上は立たなくなってしまいます。

経営者がハンドリングできないような要素で商品を開発するのではなく、いつ何時、どのスタッフが入っても安定品質のサービスを提供するにはどうすべきか。
これが地域D2C商品開発を、組織形成で見た場合の裏側です。

となると、
①生産工程が簡潔である
②簡潔な生産工程から横展開したサービスを、プレファレンスに接触させながら開発する
③管理指標も簡潔である
④検品指標も簡潔である
⑤生産〜配送までの工程を分解し、責任の所在を明確にする。新雇用から自発的な稼働ができるまでの、オペレーションを組む

この5つによって、実際に月商1000万円、月間配送約2000件を、7名の雇用体制で実現できました。

少し詳細に触れてみようと思います。
①生産工程が簡潔である
②簡潔な生産工程から横展開したサービスを、プレファレンスに接触させながら開発する

①②、ともに単純な話ではもちろんありません。
生産工程が簡潔であろうが、価値を持っているブランド設計であることが、根本的に備わってないといけません。
これらはすでに本noteで、地域産品をブランド価値に変えるために必要なことをあらゆる角度から解説してきましたので、省きます。ただ、ブランドコアありきの話ですよ、というリマインドです。
 
生産工程が簡潔である、という点について、タルトと焼き菓子、プリン、キャラメルと、どれもそうです。
生地を量り、機械に投入し、攪拌の見極めもレシピに起こし、生地量、焼き時間、すべて定量化してあります。
Aさんはできるけど、Bさんはできない、という個別差が生まない商品でありながら、顧客満足度が取れるおいしさ、そして地域素材ならではの商品になるようにしてあります。

タルトに使うクリームも、多くの店舗はカスタードクリームですが、それでは市場での差別化、リピーター獲得が難しいと考え、オリジナルチーズクリームを開発しました。
このクリームだけ食べたい、とお客様に評価をいただいてますが、それもまたそう言っていただけるものでなければならない、が経営面での解釈です。

累計販売10万本を突破した、キャラメルブリュレもそうです。
このキャラメルクリームは弊社のオリジナルな濃度と味わいであり、これは他社が作れるものではありません。素材を集めることから難しいようにしてあります。
それでも、生産工程は非常にシンプルです。新しく入ったスタッフでも、その日から着手できます。

これは製菓業界で言えば、認識をひっくり返すような話だと思います。ただ言えるのは、従来の認識でしか動けないようであれば、地域で新規事業を立ち上げ、さらに拡大するのは難しいということです。
与えられたカードの中で最大限のゲームメイクをする。それが地域経済を動かす起点となります。

実際にこの手段で事業拡大した結果、現在は製菓学校を出て、一流ホテル内のパティスリーで働いていた女性が入っています。結婚を機に平戸に戻り、お菓子の仕事がしたいとスタッフになってくれました。
こうして手持ちのカードは、事業拡大に伴い、増えます。だからこそ、今できる勝負をし続けることに意味があり、未来はこの結果創造されていくものだと思ってます。

話を戻します。(本当に人材と生産量に関してはネタが山ほどあるのです)

②簡潔な生産工程から横展開したサービスを、プレファレンスに接触させながら開発する
こちらについては、タルトで言えばベースが完成した後、デコレーションでバリエーションを増やしました(韻を踏んだような流れ)。

チーズタルト、チョコタルト、モンブランタルト、ストロベリーチーズタルトと、タルトの中でも市場の好意度が高い商品を開発。通年で安定的に売れるため、生産精度が崩れにくく、CSを安定して取ることができます。
商品開発については、#2 に詳細に記録してあります。

売れる土台の前に、認知を上げても意味がない
市場の好意度をまず上げる
絶対的にここから着手
好意度が高い商品の方が
注力しなくても売れやすいのです

③管理指標も簡潔である
④検品指標も簡潔である

③と④に関しても、定量化しました。
レシピの守秘義務は雇用契約書に明記されていますし、原材料の保管温度、保管場所なども、細かく決まっています。
衛生面も、この日は消毒、この日は全体で気になる部分を清掃などがルール化されており、年末は業者が清掃に入ります。毎日の衛生管理ノートの記入担当も決まっています。(近く拭き掃除ロボを導入予定。人的リソースを最小にする機械化も進行。)

生産についても、1商品当たりの重さ、高さ、共に決まっています。
検品について、これはOK、これはNO、という基準も、ひとつひとつ擦り合わせてきました。

非常に口うるさいリーダーのように思われるかもしれませんが、これらは、私が一方的に指示を起こしたものではありません。
ブランド価値を高め、安定させるためにはどうすべきか、認識を合わせながら進めたプロセスです。

地域女性が、地域外で働いた経験を豊富に持っているかと言えばそうではなく、しかもD2Cの場合はお客様に対面もしません。
PCに受注が入り、送付伝票と発注書が渡され、生産、梱包して完了する流れの中で、お客様に届けているという感覚を持つのはなかなか難しいことでした。
ましてや、ブランド価値とは何かなどの専門的な知見を持っているわけでもありません。

その中で、スタッフにこの体感覚を持ってもらうために行ったことが4つあります。

1つは、お客様のレビューや、SNSに寄せられたUGCをスタッフに共有すること。
お客様がオンタイムでくださる声に、スタッフの表情が変わりました。女性は特に奉仕や貢献の母性が強く、会うことはなくても、自分の仕事によって喜ばれていると知ると、より仕事を大切にしてくれます。
これによって、検品にしても、これはお客様が受け取った時、箱を開けて嬉しい感情を感じるものだろうか、という話から、包装、シールの貼り方、欠損がないかの再確認など、細かく管理し、マニュアル化できるようになりました。

2つは、メディア取材時に、スタッフが進める作業を撮ってもらったり、原材料についても答えるように持っていきました。
取材対応も、全員でやる。これによって仕事としての自意識を育てることにつながりました。

またメディア取材は、周りからの評価も変えてくれました。また出てたね!見たよ!などの声をもらうのは私だけではなく、私が忙しさで見逃してしまった取材も、スタッフが録画していてくれたり、教えてくれたりも多いです。
テレビに出るなどを、自分の子供に教えられることも、スタッフにとっては嬉しいことだと思います。

3つめに行ったのが、ハイブランドをスタッフの誕生日にプレゼントすることです。
CHANELのコスメを選び、リボン、ラッピング、カード、バックがどのようなものか。
リボンをほどき、包装をあけ、実際に商品を使うときに、ブランドから得られる感情がどんなものか。実際にユーザーとしてブランド体験をしてもらうことで、これが私たちが提供すべき体験価値であると伝えることしたのです。

女性は感覚から強いインパクトと理解を起こします。口頭で説明するより、「つまりこういうことだよ」という経験をしてもらう方が、効果的でした。

4つ目にしたのは、「なぜ細かくやるのか」、目的の言語化と共有です。
・私自身が起業した目的
・平戸市の現状と今後想定されること
・ひとつひとつの仕事がお客様に喜ばれると、みんなの仕事が持続可能であり、雇用が守られること
など、ファクトからスタッフ自身が得られるベネフィットについて、説明しています。

新しい販路を取るにしても、なぜこの販路を取るのかの目的も話しますし、設備投資資金についても、賞与についても話します。
アジア販路への取り組みの目的、IPビジネスとは何かなど、それによって、スタッフが何を得るのかなどもすべて話しています。

私が起こす行動の意味が伝わった状態である時、スタッフも納得してついて来てくれる。
これを学び続けた7年間でもあり、チーム形成やマネジメントの基盤となりました。

⑤生産〜配送までの工程を分解し、責任の所在を明確にする。新雇用から自発的な稼働ができるまでの、オペレーションを組む

アトリエ業務は細かく分解され、個々の経験・資質に合わせて配置してあります。

・全体管理(主任1名)
・シフト管理(主任が兼務)
・衛生管理(全員できる。管理台帳は主任が兼務)
・配送・検品管理(配送主任1名、担当2名)
・受注管理(1名)
・開発(1名)
・生産
▶︎タルト・クッキー生地(全員できる:新雇用はここからスタート)
▶︎プリン生地(全員できる:新雇用はここからスタート)
▶︎キャラメル(担当2名)
▶︎生菓子のデコレーション(担当2名)

です。
スタッフの中には「洗い物から始めると思っていたのに、いきなり製造業務でびっくりしました!」という人もいたくらい、特別な教育期間不要の仕組みにしてあります。
これにより、未経験からでも全員が、初日から製造に関わることが可能となりました。

もちろん、生菓子のデコレーションや商品開発は、初日からできるものではありません。これらは経験者、もしくは雇用後1年などの時間を経て、配置されることになります。
配送業務においては個人情報を扱いますし、最後の検品や間違いがあってないけないポジションなので、元々の資質として注意深さ持っているスタッフを配置してます。

3.モチベーションを上げるインセンティブの導入&ノルマ一切なし

売上目標達成時や、役職、コミットメントに対してのインセンティブを設けました。
どうしたら生産効率が上がるのか、主要スタッフは特にマインドセットされてあるので、アトリエスタッフに現在、おしゃべりをしてぼんやりする人はいません。
2で上げた通り、業務責任の所在と、業務担当がしっかり分けられているためです。

経営方針も伝えてあります。
「短い時間働いて、給与が増えるようにしましょう」です。

これほど分かりやすい話はなく、人件費率が事業全体として最適ではない、と仮になった場合も、主要スタッフにはこれを伝え、どのように工夫できるか、現場の意見を吸い上げて、施策を決めます。
私は現場を離れていて、私の一方的な采配では現場にフィットしないためです。
(現場にいない経営者からの相談を受け、実際に現場担当者からヒアリングすると経営者の認識とまったく違う、というケースは珍しくありません。)

売上と利益を上げる。がんばったらインセンティブがある。
この仕組みをいかに手堅く作れるか、これもまた地域経営を担うリーダーの仕事です。

そして、ノルマなど一切貸してません。パティスリーでよく聞くのが、クリスマスノルマ、母の日ノルマですが、ゼロです。
逆に、スタッフの子供たちの誕生日、クリスマスは、それぞれ希望したケーキをプレゼントしています。
家族が、ママが仕事としてるケーキで誕生日を、クリスマスを祝える。これはママへの尊敬をより得られることでもありますし、地域素材を使った商品が優れていることに気づき、地域への愛着心を持つ一助にもなってくれるのはないかと考えています。

4.マルチチャネル販売戦略の導入

生産だけを効率化したわけではなく、発送業務も効率化する必要がありました。
D2C、モールEC、カタログ通販、卸といった複数の販売チャネルを使用し、商品数を増やしたり、販売にかける工数を複雑化させることなく、売上の拡大を図りました。

他にも細かく言えばやってきましたが、主要なところはこの4つかなと思います。

地域経営での人材育成は、非常に、非常に大変です。
なぜなら、結論、どれだけやっていても、辞める時は辞めるのです。
はい、ここまで書いてひっくり返すような話ですが、これもまた事実でした。


そういうものなのか、受け入れるしかないのか、と葛藤し続けた7年間でもあり、きっと今後も続いていくものだと腹を括った、というのが、包み隠さない本音です。
スタッフがどうであれ、努力する。それが地域経営のリーダーに求められる在り方ではないかと考えています。

雇用環境に不満を持たなくなることは、きっとありません。
これまで地域経営してきて、また周りの経営者の話を聞いても同じように、人の問題でいつも悩みを抱えてます。
「冷たい言い方に聞こえるかもしれないけど、従業員には何も期待してない。」と素直に話してくださる方もいます。でもそれは、そう思わないと辛い、との想いの裏側で、そういうものなんだ、と割り切る大事さにも気づきました。
完成することがないのが、組織です。

だからこそ、未経験の誰が入ってきても仕事が回るようにしておくことは、地域経営での必須項目となるのではないか。これが、現在出している結論です。

12.D2CからBtoBへの進出のきっかけ

BtoB市場への関心が集まった理由や機会

ここまでは、地域におけるD2Cについてを記録してきましたが、現在ではBtoB市場での販売も行っています。

これも実は、D2Cがうまく行ったからBtoBに行こうと思ったわけではなく、そもそもBtoBの売上を取るために、D2Cで売れる土台とオペレーションを組んだ、が実際のところです。

なぜなら、D2Cは集客が自社の認知度に依存されるため、初動からの拡大は難易度が高いものです。楽天などのモールECへ出店するとモールが持つ集客力を活用できるため、参画し、モール内SEOやCVRを上げる改善改良を行いました。
こうなるとD2CやモールECでの売上の上げ方が、事業に定着することになります。
すると、販売実績が可視化されることになり、BtoB商談にも発展するように、自然な流れで持ち込むことができました

D2Cでの成功を活かす形で、BtoB市場への進出

BtoBの取引において、求められているのが
①人気があるか(売上実績があるか)
②ストーリーがあるか
③WEB・紙面映えするか
です。

D2Cでこれらを備え、WEBでの情報配荷率を上げておけば、BtoB商談は営業をしなくても日々のスケジュールに入ることになります。

少ない人員で、生産も販売もミニマムにし、高品質な商品の市場配荷率を上げる。そのための手段としてD2CやモールEC、カタログ、卸などの販売チャネルを展開する、という手法です。

本来は、BtoB戦略にも、数多くの手段があります。
BtoBに特化した商品をマーケティング、ブランディングによって開発することも可能です。
ただ、自社の場合はすでに生産キャパ以上になっていることもあり、手数を出しにくい、が実際のところです。

地域で年商1億を食サービスのみで作るには、生産量の大きな壁があります。
年商7〜8000万円が人口308人の町では限界ではないか、という体感覚を持っています。1億を作る体力が地域の中にはなく、食品製造での売上上限は、生産年齢人口と相関関係がある、が現在の仮説です。

13.月商1000万円達成と売上構成比

D2CとBtoBの売上構成比やそれぞれの成長率
D2C、モールEC、ふるさと納税、BtoB。
2022年の売上構成比を出してみました。

売上成長も、127%〜143%と、コロナ禍であっても前年比を割ったことがありません。右肩上がりの売上成長を実現しており、製造業としては高い利益率を持っています。

また、この売上構成比が大きく崩れることはないだろうと考えています。ある程度、安定した状況になっており、あとは人材の定着のみです。

逆に言えば、これ以上この拠点でできることは、そう多くない、とも言えます。
かと言って何もしていないか、と言えば、そうではありません。
最後の章で、これらの現状と限界値を踏まえ、何に取り組んでいるか、なんのためにやるのか、を記録したいと思います。

14.総括と教訓・これからの事業成長

ここまでに、53,000字ほど書いてきたようです。お付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。

専業主婦から起業し、資金も、人脈も、経験も、仲間も、なにもない、1歳と3歳のママからスタートし、怒涛に生きてきたように思います。

何度泣いたかも分かりません。不安でたまなかったり、もうやりたくないと逃げたかったり、なんで私はこんなバカなことを必死でやってるんだろう、誰に求められるわけでもないのに、と考えたこともたくさんありました。

思い通りになったこと、ならなかったこと、さまざまあります。ただ、やるしかない、絶対やるしかない、この道の先にしか、地域にできる私の貢献はないと、長い目で見て、自分が今やるべきことを理解していたのは大きかったように思います。

でも、本当に何度も逃げたくなりました。ただ何の因果か、いつも逃げられないのです。
辛くなるたびに、もう限界だと思うたびに、必ず信頼できる人がいて、わかるよと、でも大丈夫だと、ふみかならやれると支えてくれて、結局私はまた、元の道に戻ることになるのです。
今となっては逃げることを諦め、「私は地域の未来のために神様から使命をいただいたんだろう」と、天のせいにするようにまでなりました。笑
やる理由なんて不確定でも、地域のために努力できる才能が自分にはなぜか備わっていて、出会う人もまた、似たような世界観ばかりです。

総括と教訓

ブランド事業で言えば、現在は地域課題である「生産力低下」の厚い課題を乗り越えるため、生産拠点をOEMとし、販売をAmazonFBAシステムに受託するサプライチェーンを組んだ、マーケティング・ディレクションに特化する低糖質ブランドの開発と、既存ブランドでのIPビジネスを、アジアに向けて展開する取り組みを進めています。


実は、地域でのブランド経営を7年やってきた結論、地域企業が今後持つべきは、IPビジネスです。

IPビジネスは、個人や企業がみずからの努力で生み出した知的財産を使い、ライセンス使用料などの収益を得るビジネスモデルのこと。

弊社の場合は、MANGETSUの中国商標を取り、アジアでMANGETSUが売れると、マージンが入ってくるようにする、という話です。
また、ブランドストーリーに価値があるようにしてあるので、派生したコンテンツに対しても、CFが生まれます。
IPによって収益を生み、地域に外貨が流れるようにする。
このやり方で成功しない限りは、供給制限がかかる製造業の地域経営は、細々と続けるという話にしかなりません。

それもまた良いのですが、塩生キャラメル専門店のfirandoは、ブランドコンセプトを「未来への復刻」としてあり、西洋文化伝来の島から、再び海を渡り広がる未来が、ブランドビジョンです。
アジアへの展開を想定しながら、設計してあります。

中国版、台湾版、それぞれの資料
来月は台湾に行きます

小値賀地域ブランド製作所株式会社では、地域ビジネス育成スクールや企業へのマーケティング、ブランディング研修やワークショップの他、地域企業へのブランディング、マーケティング、商品開発、販路拡大のコンサルティングサービスを展開しています。
今年は、外部連携も増やしており、勉強会も年間を通して計画していて、TwitterやFacebookに情報を出しているので、ぜひフォローしてください。

本noteが、地域で頑張る企業、人の一助となればと願っています。
引き続き、美しく豊かな地域の未来のために、マーケティング・ブランディングスキルを磨き、価値提供して参ります。
WEBを活用した販売戦略を考えたい、ブランディングしたい、新規事業のコンサルを必要としてるなど、いつでもご相談ください。

15.予告 月商1000万達成までにした5つの『失敗』

次は、これまでの失敗を振り返ります!
またお会いしましょう^ ^