短歌であそぶフリーペーパー『バッテラ』(制作/谷じゃこ)
そういえば、前々回に書いた谷じゃこさん(@sabajaco)と鈴木晴香さん(@UsagiHaru)の共著『鯨と路地裏』を送っていただいた際に、一緒に入れてもらっていたので、「ありがとう」の気持ちを込めて書いてみる。谷じゃこさんが2015年11月から定期的に発行している「短歌であそぶフリーペーパー『バッテラ』」だ。今回は最新9月発行の18号と、それぞれ5月と1月に出された16号と14号である。
まずは寄り道。鯖好きを公言(というよりも全面に押し出)している谷じゃこさん。非常に幅広く短歌に関わる活動を続けておられるわけだが、その公式サイトは「鯖レター(http://sabajaco.com/)」だし、このフリーペーパーも『バッテラ』とは、鯖愛がすさまじい。以下、『バッテラ』掲載のプロフィールの最初の一文。
<鯖と野球が好き。『ヒット・エンド・パレード』、『めためたドロップス』ほか、短歌のzineを作ったりしています。>
と、ここも鯖入りである。
僕の暮らす宮城県石巻市には「金華サバ」というブランド鯖があって、以前に「マツコの知らない世界」で地元の木の屋石巻水産の鯖缶が紹介された際にはHPがダウンするほどの反響だったそう。食べたことあるかな。
話がそれた。
さて、『バッテラ』では、谷じゃこさんとゲストの歌人がコラボレーションしてA4片面刷りのペーパー1枚を彩る。谷じゃこさんお馴染みの関西弁の歌いまわしとゲストの歌が絡み合って面白い。
最新18号のゲストは御糸さちさん(@MEATsachi)。いくらたん(育児クラスタ短歌部)の部誌を作り、短歌結社「未来」の「かつて門」に所属。お子様連れ歓迎の「子供いるけど気にしないでね歌会」をたまに開催している(『バッテラ』より)という。こういった情報に出会えるのも『バッテラ』の面白さだと思う。
紙面では「肉と愛」をテーマに、谷じゃこさんと御糸さんが2首ずつを共詠。それぞれ1首ずつご紹介したい。
もういない豚の破片を渡される とびっきりスーパーな笑顔で/御糸さち
お互いに骨積み上げて言わんでもわかるよ手羽先うまいってこと/谷じゃこ
母親らしいスーパーの、おそらくは試食の一幕。初句の「もういない」がウィットに富んで効いている。一方、谷じゃこさんはもくもくと手羽先を食べる場面。おいしさが伝わるようで面白い。
そのほかにはそれぞれに連作を7首ずつ掲載しており、御糸さんのタイトルは「自由に詠」、谷じゃこさんは「きら」。御糸さんの連作から1首。
でもわたし凡人だから地下鉄に窓をつけようとは思わない/御糸さち
逆説的な言い回しによって地下鉄に窓があるというごくごく当たり前の情景を反転させて見せた。2首目の「カルピスが…」の歌も好き。次は谷じゃこさんの連作から。
貝殻の裏はきらきらしてきれい 生きてる貝の見てたきらきら/谷じゃこ
人間が美しいと感じる貝の美しさがその内側にのみあって、貝はそれをずっとみている。一方で、作中主体がそれを見ているということは貝がすでに死んでいることを暗示している。
そのほかにも、谷じゃこさんの「短くなくて歌わない話」というショートエッセイも掲載。歌わない姿勢がすがすがしい。
なお、手元にある16号では橋爪志保さん(@rita_hassy47)、14号では乾遥香さん(@harutanka)がゲストで登場しており、こちらも面白い。
1枚のペラ紙ではあるが、歌集と違って気軽に鑑賞できるのが魅力な『バッテラ』。思えば、押し寿司であるバッテラも気軽に食べられていいな。