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うちに帰ろう【消しゴム顔】(毎週ショートショートnote)


もう以前のような君に戻ることはないだろう。
そう今日言われたんだ。
傍の君の顔をそっと見るが、その表情は変わらない。
美しく聡明で花のような女性。
長い歳月も君のその可憐さは奪えなかったのに。




冷蔵庫にいくつものジャム。押し入れには同じ靴下ばかり。
料理の手順が思い出せないと君は泣いたね。
くるくると動く大きな瞳は好奇心の光を失い、よく笑っていた唇は一文字のまま。
君の顔からは消しゴムをかけられたように喜びも悲しみもすべて無くなってしまった。


君を乗せた車椅子をゆっくり押して歩く。
まるでお姫様を運ぶ王子のようだ。
その動かない顔にもう一度キスしたら、
君はまた僕に笑いかけてくれるだろうか。



恥ずかしがらないでおくれ。
おむつを替えよう。
子供たちにしていたように。
食べさせてあげよう。
僕の母にしてくれてたように。
涙を拭いてあげよう。
僕を慰めてくれたように。
変わらず愛そう。
病める時も健やかなる時も。


さあ、うちに帰ろう。



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