まあいいか日記

こんなことがあったような、なかったような、どっちだったっけまあいいかみたいなことを書きます。少しずつ遠くに行くための練習日記。

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こんなことがあったような、なかったような、どっちだったっけまあいいかみたいなことを書きます。少しずつ遠くに行くための練習日記。

最近の記事

やめた。

春菜は「両親をBリーグの試合観戦に誘うこと」をやめた。春菜にとって、839個目のやめたことだった。 最初に約束していたのは春菜だった。仲が悪いわけではないわりに共通の話題が少なかった両親と、地元に出来たバスケットボールチームの話でひさびさに盛り上がれたのが春菜は嬉しかった。年末、実家に帰るタイミングに合わせてチケットを抑えたことを両親に伝える。試合の前にどこで一緒にランチを食べようかとグループLINEで相談していたとき、春菜は満ち足りた気持ちになった。 母からの報告は、伺

    • これまでと同じこと

      歩は褒められるのが好きだった。子供の頃からその場で求められていることを察知して、誰よりも早くやり遂げることが好きだった。だからいつも集団の中では頼られたし、それを自慢に思っているふしが歩にはあった。 恋愛においてもそうだった。相手の望むこと、して欲しいことを理解して、常にさりげなく先回りした。目を合わせ、感じよく笑いかけ、相手が話したいこと察知して、自分の話を少しする。歩のほうが、こういったコミュニケーションについては常に深いところにいるから、相手の立っている位置が良く見え

      • ミニスナックゴールド

        ミニスナックゴールドは決意した。必ずや、スナックゴールドになることを心に決めた。スナックであることを誰よりも考え続けたミニスナックゴールドである。スナックにかけては当代一であった。それ故にミニスナックゴールドは自ら思い切りよくゴールドと名乗っていたのであるし、村のもの全員がそのとおりであると認めるところであった。 しかしながミニスナックゴールドには社会が分からぬ。自らの外に世界を持たぬミニスナックゴールドは相対的な寸法の概念を持たぬが故、ミニとは、あるいはミニではないとはい

        • 実感

          大学時代の友人が語る「仕事」がぜんぜんわからなくなってしまった。スタートアップをいくつか渡り歩いたKはCXOなどという肩書だし、大きな会社で心折れずに勤め続けているOは担当課長になったらしい。課長となにが違うんだろうか。 経験していないことについても理解したいと思うが、生来ぼんやりしているせいか圧倒的に実感が伴わない。幼児がクレヨンで書いたような、曖昧な輪郭のイメージしか持てないのだ。社会の中で経験を積んだのちに、求められる役割が変わっていく、というのはいったいどんな気持ち

          みかんの香りをかぐたびにデミオを

          実家に帰り、デミオに乗る。2003年くらいのモデルだから、20年近く前の車だ。オレンジ色で、純正のエアロパーツがついていて、チョロQみたいなフォルムでかわいい。父が所有していたが、あまり乗らないのでここ10年ほど借りていたのだ。だが今は、父は今年の1月に亡くなり、権利上でもぼくのものになってしまった。 久々に乗ったデミオは相変わらずハンドルの動きに敏感で、ぼくの意思が確かに伝わっていると実感できる。唯一こちらの意図と違う動きがあるとすれば、スムーズにブレーキを踏めたとき、そ

          みかんの香りをかぐたびにデミオを

          8リットルの大ジョッキ

          川崎駅に来たのはもう2年ぶりだ。感染症が流行して、飲食店での会食が感染拡大の原因だって言われて、そうかと思い大人しく過ごしていたがもう限界だった。駅から5分ほど歩いたところにある赤提灯のドアをくぐる。 ここは何を頼んでもおいしい。店員さんの気配りも効いている。大声を上げなくても少し店内を見回すだけでスッと注文を取りに来てくれるのが心地よい。里芋の唐揚げと豚モツの串、イカの刺身、それに生大。揚げ出し豆腐も良かったな、とオーダーしてから気付くが、また後で頼めばいい。 前回ここ

          8リットルの大ジョッキ