ミニスナックゴールド
ミニスナックゴールドは決意した。必ずや、スナックゴールドになることを心に決めた。スナックであることを誰よりも考え続けたミニスナックゴールドである。スナックにかけては当代一であった。それ故にミニスナックゴールドは自ら思い切りよくゴールドと名乗っていたのであるし、村のもの全員がそのとおりであると認めるところであった。
しかしながミニスナックゴールドには社会が分からぬ。自らの外に世界を持たぬミニスナックゴールドは相対的な寸法の概念を持たぬが故、ミニとは、あるいはミニではないとはいったいなんのことであろうか皆目見当がつかぬのだ。ルヴァン生地を震わせながらミニスナックゴールドは頭を巡らす。自らがスナックゴールドになるために必要なこととは。
自らのスタイルの先にスナックゴールドがあると信じて疑わぬミニスナックゴールドの思考は、深淵に呑み込まれるがごとく緩やかに沈み込んでいく。自らのうずまきに巻き取られながら、ミニスナックゴールドは思考を深めていく。小麦であり、バターであり、デニッシュ生地である自らを顧みて、そして己の円環を縦断するように彩られたアイシングの存在に思い至った。ミニスナックゴールドをミニスナックゴールド足らしめているのは、ミニスナックゴールドを構成する複数の要素であると。
ミニスナックゴールドは自らの中に他者を見出した。自らであるとのみ思い至っていた自我は、別個の存在により構成された複合的な代物であった。うずまきをもたげミニスナックゴールドは周囲を見渡した。自分のほかにも、この世には深く思考し、より良く在りたいと考えるものがいることを、この時はっきりと認識したのであった。