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映画感想文│『ハスラーズ』欲望が暴走した先 最後に残ったものとは

仕事が一区切りついたところで、あまり長くない映画でも観て気分転換しようと思って観始めた本作。つまらなければそのまま昼寝しようくらいの気持ちで大きな期待は込めずに臨んだが、しかし気付けばグイグイと引き込まれていた。

ウォール街の男たちを相手取り順調に売り上げを伸ばしていたストリップクラブは、リーマンショックの影響で苦境に立たされる。そんな店で働く女性たちが選んだ起死回生の一手は、完全なる犯罪行為であった。

実話を基にした映画であり、待ち受けるのはどう考えてもハッピーエンドではない。ジェニファー・ロペスを始めとした女優陣の迫力ある演技(ダンスも含めて)と、派手過ぎない演出や効果的に使われる長回しなどのカメラワークによって終始独特の緊張感が漂うメリハリのある映像になっていた。主人公のデスティニーがインタビューに応える形で回想とインタビューシーンが切り替わる、タイタニック的な構成となっているが、これにより年代の移り変わりが頭に入りやすかった。切り替わる瞬間に流れるBGMが、その年代のヒットチャートである点も大いに手伝っており、中でも「Club Can't Handle Me」はコレしか無い!ってくらいに私の中でカッチリとハマっていた。

困難や焦燥感を覆い隠すように送る優雅な生活はウォール街の崩壊とともに灰塵と化し、そんな中で頼れるものはかつて育んだ友情であった。

その友情はやがて悲惨な結末を招いてしまうが、それでも最後まで切れることのない固い絆であり、だからこそ行くところまで行けたという結果だけ見れば皮肉なものであった。けれど本作最大の魅力はこの女性たちを繋いでいた友情であり、これがどうしようもなく愛おしく羨ましいのだ。

とても50とは思えないジェニファー・ロペス演じるラモーナは圧巻としか言いようがないし、主演のコンスタンス・ウーもサエないダンサー時代から確固たる母親時代まで見事に演じ分けていた。客を病院へ届けてから娘を迎えそして送り届けるまでのめまぐるしい場面は、余計な説明なしにも充分その心情が伝わってきた。(そしてカーディ・Bの存在感よ…)

彼女たちが選んだ(ある意味で選ばざるを得なかった)道は悲劇へと繋がる道だったが、ラモーナが語ったように出会う場所が違えばきっと輝ける未来へと歩めたことだろう。それでも最後はそれぞれに独立しようと歩き出す力強さは、母親であるというだけではなく女性だけが持つパワーのように感じられた。

男たちの弱みにコレでもかと付け込んだ手口は、結果的に彼女たちが受ける法の裁きを軽くした。だがそれも男たちの弱さによるものだ。虚勢を張らないと生きられない男たちには、被害を認めることさえできなかったからだ。

私自身がそんな男たちの側に立つ人間であるから、より一層彼女たちが羨ましく見えてしまうのかも知れない。

ただ終盤の「ハメたハメられた」の部分はイマイチよくわからなかったし、最後は時間が経ってインタビュアーは妊娠していたり現状を電話で簡単に説明するのみだったりと、なんだか急に話を折り畳んでしまったような印象を受けた。

また、誰よりもカネと欲望に目が眩んだのは主人公デスティニーのお祖母さんにしか見えなかったので葬儀のシーンを心の中に霞がかかった状態で迎えることになってしまった。

色々と気になる点は残るものの、現実というのは意外とそんなものだし、現実でなければそれはそれで構わない。そういうことを気にして観るよりも、大いなる失敗を経た上でも潰えない友情、そしてその友情を芽生えさせる第一歩を果敢に踏み出したデスティニーの人間性がこの上なく爽やかではないか。

数々の苦難を乗り越えて栄光を手にしたのが「きっとうまくいく」ならば、本作はその真逆に当たる映画と言えるだろう。しかし根底にあるものは固い友情であり、何れもその大切さ、尊さを教えてくれる映画ではないだろうか。

おわりに

「Control」で始まる意味深な導入や序盤のインタビューシーンから、もっと大掛かりな詐欺や殺人事件の顛末を描いた作品かと思っていたら全然違った。

「リーマンショックによってストリッパーが路頭に迷う」とだけ聞くと「風が吹けば桶屋が儲かる」のように感じられるが、少し考えてみれば当たり前のことで、当時は数え切れない程の人が想像もつかないような困難に直面していただろう。運悪く転職活動中だった友人がかなり苦労していたことを思い出した。

だからと言って犯罪に走るのは間違っているし、反論の余地もないだろう。しかしそうでもしなければ生きていけない人たちは存在しただろうし、冷静に判断をできる状況でもなかっただろう。

コロナ禍もまた似たところがあるとはいえ、多発した詐欺や傷害など、いつの時代も依り代を失った人間のすることは変わらない、変えようがないのかも知れない。

どうでも良いけどラモーナは確実に”暴走”していたよな…。

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