
映画感想文│『グランドイリュージョン』最後までモヤモヤ感たっぷり
劇場での公開中から気になっていた「グランドイリュージョン」を漸く鑑賞した。
どんな映画か
うだつの上がらない4人のマジシャン(あとメンタリスト)が謎のカードによって妙な部屋に集められ、ドライアイスの霧に投影された図面を見たことで、4人の運命は大きく変化する。
というようなワクワクするオープニングから原題である『NOW YOU SEE ME』が表示され、1年後に彼らが活躍する姿が映し出される。アップルの新製品発表会みたいな雰囲気の中、ZEDDの『CODEC』によって会場は大盛り上がりだ。
ここで最初のイリュージョンである「銀行強盗」が披露され、この件をきっかけにFBI(あとインターポール)に追われる身となった4人のマジシャン(フォー・ホースメン)。この闘いはやがて胡散臭いモーガン・フリーマンを巻き込みつつ、少しずつ規模の大きなものになってゆくのであった…。
しかし拭えないモヤモヤ感が…
と、この時点で既にモヤモヤポイントが幾つか存在する。
まずはこのフォー・ホースメンがこれまで何をやってきたのかが気になる。これまでも同様のことをしていたのならば既に逃亡犯となっていた筈だ。しかしそうでないのならば、何故あれだけの観客を動員できたのか。
インターポールから来た若手の女性捜査官という設定も何だか腑に落ちないし、取り調べ中にあれだけ挑発的な態度で居たら別な罪で拘留されそうな気がする。少なくとも相手がダークナイト(バットマン)なら蹴る殴るどころでは済まないだろう。アルフレッドは怒らないかも知れないが。
更に話は進んで、FBIはモーガン・フリーマンを頼ることになる。モーガン・フリーマンはと言うと、マジックの種明かし動画の配信で相当稼いでるらしい。なるほど今の世の中ならそういう稼ぎ方も可能なのかも知れない。
頼られたモーガン・フリーマンは、捜査官たちをバカにしながらもラスベガスで公開されたショーの種明かしをする。
更に深まるモヤモヤ
この種明かしについては概ね納得の行くものになっていると思うのだが、しかし肝心の部分が催眠術によって解決されてしまっているので、そこで急速に冷めてしまった。それ以外の部分についても会場の設営スタッフに聴取すれば解決しそうな問題なので、必要以上に警察を無能扱いしているように感じるし、どう考えても警察側が勝てそうには思えない。
その割にステージの場面以外はFBI側を中心に話が進む(一応これには理由が有ると言えば有るのだが…)ので、どうしてもテンポが悪くて後手後手な印象を受けるだけで段々退屈になってきてしまう。劇中ではクライマックスに向けてヒートアップしているのに、こちらの心はほぼ熱を失ってしまっているのだ。
5人目のフォー・ホースメンが誰なのかという点にフォーカスされていくのだが、非現実的なマジックと種明かしの繰り返しで、そんなものは誰でも良くなってくる。会話や掛け合いと言った要素がほぼ罵倒のし合いに終始してしまっている点も良くないし、幕間のシーンでクスリと来るような洒落も利いていない。だから観ていて気持ちが良くない。高揚しないのだ。
私は2つ目のステージで集団催眠やら残高がどうのの話をしているあたりで眠くなってきてしまった。その後のアルフレッドがモーガン・フリーマンを頼るシーンでは『バットマンビギンズ』を思い出して懐かしい気分になれた。
クライマックスへ
しかし終盤に格闘シーンやカーチェイスが発生し、ここに来て漸く私は悟ったのだ。この映画はミステリでもサスペンスでも無く、クライムアクションなのだと。確かにこのあたりのシーン(特に格闘戦)は良くできていたと思う。カメラワークやテンポも良く、爽快感もあった。序盤の『CODEC』以降久々に気分が高揚した。
つまりプレステージを観る時の心構えではなく、『ドクターストレンジ』(或いはハルク)や『ハリー・ポッター』を観るくらいの気持ちでいるのが正しいのだ。
だから例えマジックが魔法としか言えない物であっても、種明かしが現実的でなくても、マジックが主題に見えるのに特殊効果やCGがバリバリであることに違和感を覚えても、この映画はそういう映画なのだから間違っていないのだ。『マッハ!』ではないのだから。
つまり私は観方を間違えていたわけで、それでは楽しめるものも楽しめないだろう。本作と正しく向き合う為には、いずれもう一度鑑賞する必要があるだろう。
ラストには本作全体の種明かしと、蛇足にしか感じられないラブロマンスが待っている。この種明かしは多くの人にとっては「そう予測するしかないだろう」というものになっているが、これが本作の主題ではないと思われるので、それで良いのだと思う。だから「そうだったのか!」というよりも「ああ…そうですか…」といった感じになってしまう。『ユージュアルサスペクツ』とは違うのだ。
但し、殆どのキャラクターもバックボーンや心理描写が省かれているので、行動の動機がイマイチ掴めない。脚本に沿って動かされているだけに見えてしまうし罵倒し合うだけのシーンが多いせいで誰にも感情移入できないのだ。どんな映画で何に主題を置いていたとしても、この点は良くなかったと思う。
そしてオマケのラブロマンスについては完全に意味がわからなかった。何故あれが必要だったのだろうか…。
おわりに
面白いか面白くないかと問われれば、私は少し言い淀みつつも「面白かったよ」と答えるだろう。ただオススメかと問われると口を噤んでしまうかも知れない。
『バットマンVSスーパーマン』でも病的で偏執的なキャラクターを見事に怪演したジェシー・アイゼンバーグがまくし立てる早口の長台詞や表情は引き込まれるものがあるし、メラニー・ロランは魅力的だ。デイブ・フランコはイケメンで一番現実的な活躍をしている。
気になる点は多いが、良い点も確かに存在する楽しい娯楽映画だった。
本作には続編が存在し、さらにその続編まで進行しているという話だ。次回作以降はもう少し視点を変えて挑んでみたいと思う。
妙ちくりんなミスリードが減って、もっと素直に楽しめる作品になっていると私は嬉しい。