【脂質異常症の診断・治療】改善するための食事とは?
脂質異常症とは
血液中のコレステロールの値やトリグリセライド(中性脂肪)の値が基準値より高い、または低い場合を脂質異常症と呼びます。
脂肪と聞くと身体に良くないというイメージがあるかもしれませんが、脂肪はエネルギー源として必要とされているだけではなく、体温保持や重要臓器の保護などの役割があります。
また、脂質異常症の原因であるコレステロールにも
・生体膜の構成成分
・胆汁酸の原料
・ステロイドホルモンの材料
・皮膚の保護
といった身体を正常に保つための役割があり、コレステロールを極端に減少させるというのも健康被害を生じさせます。
脂質異常症そのものには自覚症状がないので、健康診断などで発見されなければ長い間無症状で経過することになります。
しかし、血中で脂質成分が過剰にあり過ぎる時間が長くなると動脈硬化を引き起こし、それに伴う心筋梗塞や脳梗塞など重大な合併症を発症させてしまうことに繋がります。そのような理由から、脂質異常症の早期発見・予防が重要とされているのです。
脂質異常の原因には大きく2つあり、
・体質や遺伝子異常、または原因不明に発症する原発性高脂血症
・基礎疾患(内分泌・代謝疾患、腎疾患、肝・胆道系疾患)、生活習慣、薬物性によって発症する続発性(2次性)高脂血症
に分類されます。
脂質異常と診断されても原因は1つとは限らず、様々な原因が複雑に関与しあっている場合も多くあります。
では実際にどのような状態になると脂質異常症と診断されるのかをお話します。
脂質異常症の診断と分類
脂質異常症は血液検査の検査値で大きく3つのタイプに分類できます
①LDLコレステロールが高いタイプ(高LDLコレステロール血症/境界域高コレステロール血症)
②HDLコレステロールが低いタイプ(低HDLコレステロール血症)
③トリグリセライド(中性脂肪)が高いタイプ(高トリグリセライド血症)
LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)などの検査項目について簡単に説明します。
【LDLコレステロール】基準値:70~140㎎/dl
悪玉コレステロールと呼ばれています。
全身のすみずみの細胞にコレステロールを運ぶ役割があります。
余ったLDLコレステロールが血管の壁に付着し酸化すると動脈硬化を引き起こします。
LDLコレステロールは動脈硬化を引き起こす直接の原因になるので、検査項目の中で最も重要とされます。
【HDLコレステロール】基準値:40~70㎎/dl
善玉コレステロールと呼ばれています。
身体の中の余ったコレステロールを回収して肝臓に運ぶ役割があります。
動脈硬化を抑制する働きがあります。
【トリグリセライド(中性脂肪)】基準値:30~149㎎/dl
血液中に含まれる中性脂肪の量を現しています。
食事から摂取する脂肪の大部分が中性脂肪とされています。
血液中の中性脂肪が多くなると、「急性膵炎」を引き起こします。
脂質異常症の分類
先ほど脂質異常症の分類を大まかに説明しましたが、血液検査データを基に正確に分類すると以下のようになります。
脂質異常症の診断基準
高LDLコレステロール血症
LDLコレステロール140㎎/dl以上
境界域高コレステロール血症
LDLコレステロール120-139㎎/dl以上
低HDLコレステロール血症
HDLコレステロール40㎎/dl未満
高トリグリセライド血症
トリグリセライド150㎎/dl以上
脂質異常症の治療
脂質異常症の治療は、動脈硬化性疾患予防ガイドラインに沿って行われます。
脂質異常症が動脈硬化を引き起こし、それによって致命的な合併症を発症させるからです。
したがって動脈硬化性疾患の予防が治療の目的となり、そのために脂質異常症の管理を行うという考え方になります。
治療の流れとしては、
①脂質管理目標値の設定
冠動脈疾患の既往、基礎疾患、性別、年齢、喫煙、コレステロール値、血圧などから、リスクを評価しリスクのカテゴリー別に分類します。
リスクカテゴリー分類に基づいて脂質の管理目標値が設定されます。
②生活習慣の改善(禁煙、食事療法、運動療法)
3-6ヶ月行っても管理目標値に到達しない場合
④薬物療法の追加(生活習慣の改善は続ける)
*リスクが高い場合は最初から薬物療法も併用する
脂質異常症の治療は、食事や運動をベースにした生活習慣の改善と、薬物療法が組み合わせられたものになります。
治療の基本は食事療法と運動療法になるので、それぞれを詳しく説明します。
食事療法
私たちは日々食事からエネルギーを摂取し、日常の活動でエネルギーを消費しながら生活しています。しかし消費しきれないエネルギーはグリコーゲン、中性脂肪などに合成されて体内に蓄えられます。
もう少し具体的に言うと、
食事を構成する栄養素で、炭水化物(糖質)、脂質、タンパク質が3大栄養素と呼ばれていますが、
糖質を摂取し過ぎると→中性脂肪として皮下脂肪や内臓脂肪として蓄積され
脂質を摂取し過ぎると→中性脂肪やLDLコレステロールを増加させ、HDLコレステロールを減少させます。
つまり、脂質異常症では過剰なエネルギーを摂取せず、中性脂肪やコレステロールを上げないような食事内容にすることが重要になってきます。
そのためには、
①適正体重に合った適切なエネルギーの摂取
②脂質の質と量を知る
③糖質やアルコールを摂りすぎない
④食物繊維を摂取する
⑤抗酸化作用のある食品を摂取する
といったことに気を付ける必要があります
①適正体重に合った適切なエネルギーの摂取
適正体重にあった適切なエネルギー量は、標準体重を基にした以下の計算式で求められます。
適正エネルギー摂取量=標準体重×25~30kcal
標準体重=身長(m)×身長(m)×22
例:身長170cmの場合、1.7×1.7×22×25~30kcal=1589~1907kcal
②脂質の質と量を知る
脂質は文頭で述べたように、身体の維持のためには必要な栄養素になります。
しかし、良質な油でも脂質は1gあたり9kcalとカロリーが高いので、脂質から得られるエネルギー量は全体の20~25%とし、とり過ぎに注意する必要があります。
また、脂肪は大きく2つに分類されます
・飽和脂肪酸
・飽和脂肪酸
それぞれの特徴には
【飽和脂肪酸】
・動物性の脂肪に多く、LDLコレステロールや中性脂肪を増加させる
・含まれている食品は、乳製品や肉などの動物性脂肪、ココナッツ油、チョコレート、アイスクリームなど
【不飽和脂肪酸】
・ナッツ類や青魚に多く含まれ、LDLコレステロールや中性脂肪を減少させる
・青魚に含まれるDHAは血栓形成の抑制になる
・不飽和脂肪酸はさらに多価不飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸に分類できる
・多価不飽和脂肪酸には、リノール酸、αリノレン酸、アラキドン酸の必須脂肪酸が含まれる
飽和脂肪酸を多く含む乳製品や肉類の摂取を控え、不飽和脂肪酸を多く含む魚や植物性の油などを積極的にバランスよく摂ることが勧められます。
しかしながら、不飽和脂肪酸とは言え、脂質は1g=9kcalとカロリーが高いので、摂取する場合は、過剰摂取にならないよう1日の目安量を参考にしましょう。
③糖質やアルコールを摂りすぎない
先の説明でも述べましたが、過剰な糖質の摂取は最終的にコレステロールや中性脂肪となって蓄えられます。
主食の炭水化物に限らず、砂糖やジュース、菓子類などは控え、果物や主食は適量を食べるようにしましょう。
④食物繊維を摂取する
・水溶性食物繊維は体内のコレステロールを体外へ排出する働きがあります。
・大豆にはLDLコレステロールを減少させる働きがあります。
・緑黄色野菜は抗酸化作用のあるβカロテン、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールを含んでおり、LDLコレステロールの酸化を防いでくれます
・野菜、海藻類、きのこ類は低カロリーで満腹感を与えてくれるので、食べすぎ防止になる
⑤抗酸化作用のある食品を摂取する
ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノール、カロテノイドなどの抗酸化作用をもつ食べ物を摂取することは、LDLコレステロールの酸化を防ぎ、動脈硬化の予防に繋がります
運動療法
脂質異常症における運動療法では、筋力トレーニングのような負荷をかける運動(レジスタンス運動)より、エネルギー消費量を増やす有酸素運動を中心に行うことが推奨されています。
また有酸素運動は、血清脂質値の改善(HDLコレステロールの増加など)だけでなく、血圧の低下、インスリン抵抗性の改善などが期待できるため、動脈硬化だけでなくメタボリックシンドローム予防・治療にも効果的です。
薬物療法
脂質異常症の治療薬は、
・コレステロールを下げる薬剤
・中性脂肪を下げる薬剤
に分けられます
単剤で十分な効果が得られない場合は薬剤の増量や多剤併用が検討されます。
しかし、増量または多剤併用する場合は横紋筋融解症をはじめとする副作用に十分注意する必要があります。