テスト:第十二話
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私は数秒間固まっている自分に気づいた。 時間が再び動き出したのは、藤野君が教室を出てきたことに気づいたからだ。 藤野君は私を見ていた。 驚くこともなく、私を呆然と見ていた。 そして、しばらくして感情を取り戻したようにぎこちない笑みを浮かべた。
「・・・聞かれてた、よね?・・・結衣、やっぱり君って凄いね。 俺について知り尽くしてるみたい」
「いや・・・・偶然だよ。あんたが待ち合わせしたのに来なかったから」
「あ・・・そっか、ごめん。俺が言い出したことなのに」
気まずそうに顔を背ける藤野前夜。
「・・・・・・さっきの聞かれてたってことは・・・俺がまだ元カノ引きずってることもバレたか」
「うん」
「・・・・・・ごめん、いや、謝って許されることじゃないか」
「何に対して謝ってるの?」
「え? ・・・いや、だって俺、結衣と付き合ってるのに元カノに気持ちあるって・・・二股じゃん」
「それのどこが悪いの?」
「え?」
「いや、あんたの目的が何となくわかったからこっちとしてもやり易くて助かるわ。あんたはつまり、セックス恐怖症を克服したいんじゃないの? 元カノを幸せにしたいから」
「・・・まあ、そうだったけど、でも」
「じゃあ、私と恋愛について話したりする必要ないよ」
「・・・・・・」
「それとも、なに?私に振り向いてほしいからって、元カノを使って演出したかったわけ?」
藤野君は目を見開いた。 そして、怒りを露わにした。
「違うよ!!そうじゃない! 俺・・・そんな酷いことしないよ!! 結衣のことは好きだけど、それはちゃんと恋愛感情だし・・・元カノは・・・」
「どうして元カノに執着してんのさ?元カノを思うなら、スパッと言ってやんなさいよ。 嘘でもいいから嫌いだって。 そうしなきゃ、彼女は次の恋愛に進めないでしょーが」
「そうだね・・・・・・結衣の言う通りだ」
藤野君は俯いたまま、喉から声を絞り出すように呟いた。 そして、次の瞬間、私の右手首を強く握った。
彼は顔を上げた一瞬だけ、殺意のこもった目で私を見た。
「・・・結衣」
緊張が走る。 殺される、かもしれない・・・。
しかし、彼の目は力なく優しく、私を再び見ていた。
「今、結衣のこと一瞬殺したくなった」
殺したい。 その言葉に思わず息をのんだ。
「俺は怖いんだ。結衣に見られることが。 だから、時々、結衣のことを・・・」
私を。
「・・・・・・いや、何でもない」
そう言って、手を離した。