テスト:第十四話
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あれから一週間、藤野君は私の元へ来ることがなくなった。
たった一週間の間だったが、パタと音信不通に陥るとそれがまるで3か月のように感じた。しかし、また元の日常に戻ったまでだ。私に残されたのは、濁った桜色のインカローズのネックレス。それだけだ。
藤野君は私を永遠に手に入れられない存在だと最後に言った。
藤野君の目的はやはり、私をアクセサリーのようにいつも身につけていたかったのだろうか。みんな何らかの役を演じているように、藤野君は私を彼氏としての役割を得たかった。しかし、それはなぜだったのか。そもそも藤野君が私に目を付けた理由やきっかけもまだ明らかになっていないし、とはいえもう遅いのかもしれない。私はきっと、藤野君に相応しい恋人役を演じることに失敗したのだ。相性、タイミング、それらが私たちを引き裂いたのだ。仕方のない、運命なのだ・・・。
私は俯いたまま廊下を歩いていた。
すると、前から声を掛けてきた。
「結衣!!」
目の前には藤野君がいた。
何だろう・・・凄く嬉しそうな笑みを浮かべている。
「ごめん、心配かけたでしょ?俺、一週間も風邪拗らせちゃってて」
私はしばらくの間、心も体もフリーズしてしまった。
実際には、安堵と喜びと羞恥心で渦巻いている私の中の感情を眺めていた。早とちり。予想が外れた。私は、藤野君の気持ちを分かっているつもりだった。しかし、そうではなかった・・・。
動揺で頭が混乱している。どうすればいいのだ。
「・・・風邪ひいてたんだ、知らなかった。」
「だよなー。ほんっとにごめん!すっかり結衣と連絡先交換する事忘れてたから!どうせ毎日学校で会えるしと思ってて。俺ルーズ過ぎだった、ごめんね」
「ううん・・・大丈夫」
藤野君はそう言って、お互いの連絡先を交換した。
「よし、これで大丈夫!結衣も何かあったら遠慮なく送ってね!」
これは、もしかして・・・・。
「藤野君・・・もしかして、わざとなの?」
「え?何が?」
「私のこと一週間も放置しておいて、私の不安を煽るため?これは作戦でしょ?」
「・・・やっぱり不安だった?ごめん・・・」
藤野君の顔色が曇る。
「私、不安じゃなかったよ。だって・・・藤野君がそういう作戦に出るの、知ってたもん」
「結衣、違うよ。俺、本当に、風邪ひいたのたまたまで・・・」
「あなたが意識しててもしていなくても、起こってた事実は同じ。藤野君は私に勝負を挑んだの。私が怖いからって、弱点を狙うなんて・・・」
「弱点?」
言った後に私は後悔していた。藤野君の不穏だった雰囲気が変わった。
「・・・・・・それって寂しかったってこと?」
「・・・・」
「・・・・・・・そうか。結衣は寂しがりなのか。いいこと聞いた」
俯きがちに、勝ち誇った時の喜びを表情に出さないように必死で堪えているようだ。
いつの間に相手のペースに呑まれていたのだろう。以前勝ち誇っていたのは私であったはずなのに。いつの間にか・・・相手に追い風が吹いていた。