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電気と人の気配が消えた!

11月6日、22時頃。私と旦那さんはリビングにいた。

部屋の電気が一瞬チカッとなり、ブブッとハエが飛ぶような小さな音が鳴り、真っ暗になった。街灯も消えた。近くのお店の明かりも消えた。信号も消えた。バルコニーに出ると、私たちが住むアパートも真っ暗だった。頭から布団をかぶったみたいな暗さ。

怖い。

カナダに来て初めての体験。トルネードや大雪の日には停電することがある、と旦那さんに聞いたことがある。でも今まで大雪の日も何ともなかった。

昨日から雪が積もり始めているけど、そんなに大雪でもない日に停電なんて。

ひとりだったら泣いていただろうな。いや、実はその前に泣いていた。自分のビビりな性格が嫌で、旦那さんに話を聞いてもらっていた。突然の停電で私の涙はピタッと止まった、代わりにパニック。旦那さんは落ち着いてた。

 「まず、ろうそくつけよっか。」
 「冷蔵庫は開けないでね。冷気逃げるから。この停電が長引くなら、冷凍庫のものは全部バルコニーに出そう。」
 「スマホの充電は満タン?この停電が長引いた時のためにおいといて。あ、オレの方が充電ないわ。はは。」

どこから来るの、その余裕。

 「旦那さん。コンロも電子レンジも長く使えなかったら、料理できないよ。」
 「ガスバーナーがある。」

サバイバルスキル、高そう。

真っ暗。頭の中でドラマ『ウォーキング・デッド』のテーマソングが流れる

電気がないなら、アパート全体の自動暖房も止まる?そうなった時はジャケットとブランケットを着込もう。

いつも電気を消すと、廊下の明かりが入ってくるのだけどそれもない。どうなってるのかと玄関の扉を開けると…

赤っ!!こっわっ。これ、非常灯。ゲーム『The last of us』のワンシーンを思い出す

このすぐ先にエレベーターがある。このタイミングで私がエレベーター乗っていたらトラウマになりそう。

玄関の扉を閉めた。

窓の外を見る。車は少ない。でも信号が消えている上に、雪が降ってる中での運転か。お互いの親切心を信じて運転するしかないよな。

恐怖が落ち着いて来ると、今度は静けさが気になった。他の部屋にももちろん人が住んでいる。いつもは廊下を歩く人の声や足音もする。なのに人の気配が一切ない。

扉を開けるのは怖いから、ドアスコープから廊下を覗く。血が塗られたみたいに赤い。そこを誰かが横切ったり、こっちを見てたりしたら…。寒気がしたので目を離した。Twitterで廃墟写真の見すぎ、ホラー小説の読みすぎだな。怖がりのくせに、自ら恐怖に近づいてしまう。

また窓の外を見る。こっちも人が全くいない。雪が色んな音を吸収してさらに静か。田舎の夜もこんな感じだったけど、その時は虫、風や波の音があった。こんなに音がないのは初めての体験。

「静寂」って、こういう時に言うのかな。

部屋がこんなに静かなのは冷蔵庫の音が消えたからか。うちの冷蔵庫、ブオーンってよく唸ってる。「うるさいねん」と思う時もあるけど、存在感があったんだな。

私はろうそくの火を眺める。旦那さんは外を眺める。

 「病院は大変そう。何もないといいな。防犯カメラも切れてるやろうから、閉店後の店に強盗が入ってないといいな。」

こんな時に人の心配をするのは、旦那さんらしいな。

 「停電、怖くないの?」
 「怖くないよ。それに、焦ってもどうしようもないよ。待つしかできひん。」

停電から約10分くらいで、一部の街灯とお店の電気が戻った。さらに10分後くらいに部屋の電気が戻った。冷蔵庫も「I’m baaaaack!!!」と言うかのように、ブオーンと激しく唸り始める。なんか安心した。

どうやら一部のエリアでの停電だったらしい。20分くらいで復旧したけど、私にはもっと長い時間に思った。でも早めに電気が戻ってよかった。

停電した今回と普段

ベッドに入って寝ようとした時、どこかの部屋からうっすらとテレビの音が聞こえた。ちゃんと人がいる。

人の気配が消えたように感じたのは、テレビの音や生活音が消えたからか。

もしかしたら世界の終わりは、ある日こんな停電みたいにフッと訪れたりして。

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