「デジャブ(既視感)」じゃなく「ジャメヴ(未視感)」?
「この景色、どこかで見たことが・・・」
私たちは皆、一度や二度、こうした「デジャブ」を経験したことがあるでしょう。デジャブとは「既視感」とも呼ばれ、未経験のことでも、過去に経験したことがあるように感じる現象を言います。
では、その逆 ーー つまり、「ジャメヴ(未視感)」はどうでしょうか?
ジャメヴ(未視感)は突然、あなたにも訪れる
「ジャメヴ」とは何度も経験したことのある事柄を、まるで見慣れないもののように感じてしまう現象のことを指します。フランス語の「jamais vu」から来ており、「未視感」とも呼ばれます。
たとえば、皆さんがある単語を何度も繰り返し読んだとしましょう。繰り返し読むうちに、人によっては「あれ、これ何だったっけ?」と意味不明に感じてしまう瞬間が訪れることでしょう。これが「ジャメヴ」の一例です。
この現象に関する研究は、クリス・ムーラン氏、ニコール・ベル氏、メリタ・トゥルネン氏、イリーナ・バハラン氏、アキラ・オコーナー氏らによって行われました。この研究で興味深いのは「デジャヴを経験した人の中には、ジャメヴも経験したことがある人が多い」というポイントです*1。因果関係までは解明されていませんが、両者に相関関係があるということが報告されています。なお、このユニークさが注目され、2023年のイグノーベル文学賞も受賞しています*2。
ゲシュタルト崩壊とどう違う?
さて、ここでふとこんな疑問を感じた人もいるのではないでしょうか。「これってゲシュタルト崩壊とどう違うのか?」と。
どちらも認知現象の一つですが、それぞれどう異なるのかも見てみましょう。
先述の通り、ジャメヴは「何度も見たはずの事柄を、初めてのことのように感じられる現象」です。一方で、ゲシュタルト崩壊は、文字や図形などを中止し続けると、そのパターンの全体的印象が消失し、わからなくなってしまう現象のことを言います。たとえば、同じ漢字をずっと見続けていると、その漢字の各部分がバラバラに見え、その漢字が何という文字であったかわからなくなるなどです。
こうして見ると、「認知エラーが出る」という点は両者に共通項ですが、中身は全く別物であることが分かるでしょう。
ここまで「デジャブ」「ジャメヴ」、そして「ゲシュタルト崩壊」との違いを見てきました。同じような「認知エラー」であっても、それぞれ異なるメカニズムによって引き起こされています。
我々の認知メカニズムは、分かっているようで、まだまだ未解明のものが多くあります。「ジャメヴ」という現象を知ることで、またひとつ、認知に対する理解が深まったことでしょう。
(参考文献)
*1 Chris Moulin, et al. "The the the the induction of jamais vu in the laboratory: word alienation and semantic satiation". Memory, 2021; 29 (7) 933-942. DOI: 10.1080/09658211.2020.1727519
*2 「2023年『第33回イグノーベル賞』10賞全部解説!」https://lab-brains.as-1.co.jp/enjoy-learn/2023/09/53782/(2024年1月31日アクセス)
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