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就業規則に法的効力はある?
普段はあまり意識することがない「就業規則」。
それでもふとした瞬間に、「こんな規則、本当に効力があるのだろうか?」や「実際に違反したらどうなるんだろう?」といった疑問が湧くこともありますよね。
就業規則は、企業にとって重要な「ルールブック」としての役割を果たしていますが、その効力は一体どのようなものなのでしょうか?
そもそも就業規則とは何か
就業規則とは、賃金や労働時間をはじめとする労働条件を、事業場ごとに画一的・統一的に定めた規則のことを指します*1,2,3,4。
これにより、企業と従業員の間で労働条件が明確化され、双方が共通のルールを基に働くことができる仕組みです。
企業によっては、「賃金規程」や「育児・介護休業規程」など、労働条件ごとに別の規程を設けるケースもありますが、これらも広い意味では就業規則に含まれます。
そのため、賃金規程のみを作成・改定する場合であっても、労働基準法や労働契約法が適用されることに注意が必要です。
さて、このように就業規則は企業の「ルールブック」とも言える重要な存在ですが、これらはどんな効力を持つのでしょうか?
就業規則の効力は3つ
就業規則の効力には、大きく分けて次の3つがあります*1,2,3:
①入社した従業員の労働条件を規律する効力
②既存の従業員の労働条件を変更する効力
③労働契約の最低基準を決める効力
それぞれ詳しく見ていきましょう。
「①入社した従業員の労働条件を規律する効力」とは何か
就業規則は、入社した従業員に対して労働条件を定める効力を持っています。
これは労働契約法第7条に基づくもので、従業員が入社時に交わす雇用契約書や労働条件通知書に書かれていなくとも、就業規則に記載されていれば、その規定が従業員に適用されるということです。
例えば、「遅刻」に関する規定を見てみましょう。
もし、皆さんが入社時に企業と交わす雇用契約書に「遅刻」に関する記載がなかったとします。一般的に、遅刻は厳禁とされる行為ですが、それが契約上どのように扱われるかはまた別の問題です。
もしかしたら、「契約書に遅刻について何も書かれていないので、遅刻しても問題ないのかな?」と思うかもしれません。
ですが、それは危険な考え方です。
もし就業規則に「遅刻した場合は減給や注意が行われる」といった規定が記載されていれば、そのルールが適用されます。つまり、雇用契約書に遅刻に関する記載がなくても、就業規則に定められた内容が労働契約の一部として効力を持ち、従業員が遅刻した場合にはそのルールに従うことになります。
このように、雇用契約書に記載がなくても、就業規則で定められたルールはすべての従業員に適用されることになります。
ただし、就業規則が有効に適用されるためには、いくつかの条件があります。
例えば、就業規則が従業員に「周知」されている必要がある点です。周知とは、従業員が就業規則の内容を知っていることが前提です。例えば、入社時に就業規則を配布し、その内容を説明する、あるいは社内の掲示板やイントラネットなどで定期的に確認できるようにしておくことが求められます。
また、就業規則の内容が「合理的」であることも重要です。もし、就業規則の内容があまりにも過剰に厳しい場合(例えば、過度に厳しい懲戒処分を規定している場合)などは、その効力が認められないこともあります。
要するに、従業員が実際に就業規則を読んでいなくても、会社がきちんと周知を行っていれば、就業規則は有効となり、その内容が従業員に適用されるのです。
「②既存の従業員の労働条件を変更する効力」とは何か
次に、既存の従業員がすでに適用されている就業規則を変更する場合、その変更が従業員の労働条件に影響を与える効力を生じることがあります。これは労働契約法第10条に基づくものです。
具体的に言うと、就業規則が変更され、その変更が合理的であり、さらに変更後の内容がきちんと従業員に伝えられた場合、たとえ変更に同意しない従業員がいたとしても、その新しい就業規則は適用されます。
ここで大事なのは、「合理的であること」と「周知されていること」です。しかし、変更が従業員にとって不利益な内容で、その不利益が過剰である場合、変更の「合理性」が認められなくなることもあります。この合理性の判断は、最終的には裁判所が行います。
例えば、皆さんのお勤めの会社が福利厚生を縮小することを決定したとしましょう。これが合理的な変更かどうかは、その縮小が「業績不振によりコスト削減が必要」といった十分な理由に基づいているかどうかにかかっています。そして、変更内容は従業員にきちんと通知され、理解されている必要があります。
しかし、もしその縮小幅が非常に大きい場合は、その変更が「合理的ではない」と判断されることがあります。例えば、給与や休暇日数が大幅に削減された場合は、従業員にとって過度に不利益な変更となるでしょう。
このように、もし裁判所がその変更に合理性がないと判断した場合、変更に同意しなかった従業員には、変更前の就業規則が適用され続けることになります。例えば、給与が大幅に減額され、その減額が過剰だと認定された場合、従業員は以前の給与水準を守ることができます。
つまり、就業規則の変更には、変更内容が合理的であること、そしてその変更が従業員にしっかりと伝えられていることが重要です。
「③従業員との労働契約の最低基準を決める効力」とは?
最後に、「従業員との労働契約の最低基準を決める効力」という点です。
これは「最低基準効」と呼ばれ、就業規則に定められた基準が労働契約の中で優先されることを意味します。労働契約法第12条に基づくもので、就業規則で定められた基準を下回る内容で契約を結んだ場合、その部分は無効となり、就業規則で定められた基準が適用されることになります。
例えば、「試用期間」を例に見てみましょう。
皆さんが新しく入社した会社では、就業規則で「試用期間は3ヶ月」と定められているとします。一方で、皆さんが採用された際の雇用契約では試用期間を「6ヶ月」として合意されていたとします。どちらが試用期間として適用されるのでしょうか?
この場合、契約書で合意された「6ヶ月」の試用期間は無効となり、代わりに就業規則で定められた「3ヶ月」の試用期間が適用されます。つまり、就業規則で定められた基準が優先され、契約書で合意した内容は無効になるわけです。
これは要するに、就業規則に記載された最低基準よりも低い労働条件で契約を結んだ場合、その低い条件は無効となり、就業規則で定められた基準が適用されるということです。
言い換えると、従業員にとって最低限守られるべき労働条件を保障するための仕組みとして、就業規則にはこうした効力もあるのです。
就業規則で定めていても、法令や労働協約に反する部分は無効となる
このように就業規則には法的効力があり、企業と従業員の関係において重要な役割を果たします。
しかし、注意すべきは、その内容が労働者の権利を不当に制限してはならないということです。大原則として、法令や労働協約に反する部分は無効となり、従業員を不利益にすることはできません。
就業規則は、職場での秩序や規律を定める重要な指針ですが、その運用においては法的枠組みを守ることが不可欠です。
労使双方がこれらのルールを理解し、守ることで、従業員は安心して働ける環境が整い、また労使間の無用なトラブルを未然に防ぐことができます。
職場の規律がしっかりと確立されることで、健全な労働環境が維持され、企業全体の成長と発展にも繋がるのです。
(参考・引用情報)
*1 「就業規則の法的効力はどこまである?有効性について解説」https://kigyobengo.com/media/useful/3346.html(2025年1月27日アクセス)
*2 「雇用契約書と就業規則の優先順位とは?見直す際の2つのポイントを紹介」https://hcm-jinjer.com/blog/jinji/employmentcontract_regulation/(2025年1月27日アクセス)
*3 「就業規則とは?労働基準法のルール・変更の手続きなどを分かりやすく解説!」https://keiyaku-watch.jp/media/hourei/syugyokisoku/(2025年1月27日アクセス)
*4 坪谷邦生(著), 岩田佑介(著), 古茶宏志(著)(2024)『図解 労務入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン
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— 太田昂志|ゆめみCHRO (@oh1ta) January 27, 2025
普段はあまり意識しない就業規則。
ふと「就業規則って破ったらどうなるんだろう?」「そもそも罰則はあるの?」など、疑問を感じたことはありませんか?
就業規則は「企業の法律」と呼ばれるように、効力を持つケースがあります。
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