『暴君』新しき世界→THE WITCH/魔女→貴公子、そして暴君
映像美と演出が融合する『暴君』— パク・フンジョンのひとつの到達点。
本作は、従来のアクションドラマが多用するカーチェイスや銃撃、
乱闘といった派手なアクションシーンを極力排除し、
黒味で処理したり、緻密で計算された演出に溢れている。
その結果、観客にとって暗闇の中にさえ、
見えないはずのアクションを感知させるような異次元の高技術だ。
多くは諸々が終わった後のシーンから始まり、
その瞬間から高密度の緊張感が続く。
もちろんやるときはヤル。
まさに「暴君」というタイトルが示す通り、
観客を一瞬たりとも解放しないその力強さは、
パク・フンジョンの卓越した演出力によって生み出されている。
カメラワークにおいても、
1カットだけ例を挙げれば、
カメラを地上30センチの高さに固定し正面を捉える。
あおりやズームも不使用、
単玉50ミリレンズで切り取られた画面は、
狙いすましたスナイパーのように緻密で無駄がない。
その数字をキャストとスタッフが共有、
各自の狙いを定めているのだろう。
視覚的なアクションを排除しつつも、
その緊迫感を巧妙に演出することで、
観客のの脳裏には自然と過去作『NEW WORLD』や『THE WITCH』『貴公子』が浮かび上がり、あたかもパク・フンジョンがどこかの教祖のように、
その世界に没頭させるのは、悪魔を見たような気にさせる。
整髪料ベッタリのリアリズムから、
バイオハザードのようなサイバーSF、
このような世界観を支えているのはキム・ソンホでもある。
この監督とキャストが到達している領域は、
単なる演出の枠を超え、
「映像美」という言葉さえも不足するほどの深淵な世界を作り出している。
『暴君』は、パク・フンジョンが築き上げた映像世界のひとつの頂点であり、
今後の暴君サンプルVSコンパウンドVのような、
どのようにふたりの背中を追うのか、期待が高まる。