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【夫婦巡礼】無職の夫婦が800km歩いてお店を出す話【旅物語】No.21

巡礼13日目

ホルニロス・デル・カミーノ(Hornillos-del-Camino)  ~  カストロへリス(Castrojeris)

■言葉の壁よりも

今朝はずいぶん皆ゆっくり起きた。

出発も8時ギリギリ。こんなにバタバタしない朝も久しぶりだった。

(※殆どのアルベルゲの出発時間の門限は、大体8時と決められている。)

僕達は朝ご飯を食べ、出発前にホスピタレロに挨拶に行った。

昨日クスクスを作ってくれたフランス人のホスピタレロ。名前はイヴォ。実は昨晩、僕は彼と話してクスクスのレシピを教えて貰っていたのだった。

「教えてくれて有り難う」

感謝を伝える。イヴォのお陰で人と話す勇気を持てたから。

【言葉が伝わらない】と言うのは人を臆病にさせるもので、昨日までの12日間僕の悩みの種だった。

英語ならまぁ何となく会話出来る。

でも、会話のディテールまで表現したり、細かいニュアンスを伝えるためにはそれなりの語彙が必要だ。それをいちいち調べて一つ一つ伝えて、合ってるかどうか気にして…

さらにそれが英語だけならまだしも、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、フランス語、韓国語とあるから全て対応しようと思っても難しい。(だから公用語として英語があるのだけど、英語が話せない人もいる。)

相手と気が合えば気が合うほど、伝えたい気持ちと伝えられない言語力のギャップ、タイムラグに辟易し、伝える事に臆病になる。

ただ【人との繋がりはそうじゃない】と言うことを、イヴォから教わった。

出会いは一期一会だけど、一度出会った繋がりは続いていく。お互いが関係を続けたいと思うなら。繋がりさえあれば、たとえその瞬間の会話で伝えきれなくても、いずれ伝えられる。絆は深めることが出来るのだ。

今その瞬間の会話も必要だが、その後永きに渡って関係が続くことの方が素晴らしく、そのために越えるべき言語の壁は、実はさほど高くはない。

「また会いましょう」

そう言って握手を交わし僕達は出発する。

イヴォは笑顔で見送ってくれた。

擦れ違い様に、二人組の太っちょドイツ人巡礼者が食堂に入っていく。

背中から、「遅いよ。もう出発の時間じゃないか」と嗜める彼の声が聞こえたのが可笑しかった。

■満たされた朝

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三日ぶりだろうか?こんなに晴れた空は。

地面に出来た大きな水溜まりを避けながら、巡礼者達は歩いていく。

足は相変わらず痛いが、妻が巻いてくれたテーピングのお陰もあって足取りは軽い。

「おはよう!大丈夫か?」

そう言って声を掛けてくれたのは、ジェイソンステイサム似の彼だった。

「辛かったら、俺の薬使って良いからね」

不自然な歩き方の僕を心配して、言葉をかけてくれたのだった。

このメセタの期間、ことあるごとに彼は僕を気遣ってくれた。しんどい時に、誰か気にしてくれていると言うことは心の支えとなる。彼と、妻には本当に、本当に助けられた。

■カストロへリスの穏やかな午後

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カストロへリスのアルベルゲに着いた時

僕達の目に飛び込んできたのは、可愛らしい黒猫と、YouTubeを聞きながら鼻唄混じりに料理を作っている男だった。

「今はホスピタレロいないのかな?」

二人で不思議に思っていると、男が振り返りここが受付だけど、君達はここに泊まるのか?と聞いてきた。

え!貴方がホスピタレロだったんですか!?

思いがけない今日の宿主の登場に、僕達は笑った。今日の宿もとっても楽しそうだ。

どうやらホスピタレロは、巡礼者達に振る舞うスープを作ってくれていたらしい。彼もまた英語が苦手で、スペイン語しか話せないようだったが、「このスープはこうやって作ると旨いんだ」と熱心に教えてくれたことが嬉しかった。

しかし、後から入ってきた巡礼者も僕達同様彼をホスピタレロとは見抜けないようで

「ホスピタレロはどこにいるの?」

と何度も聞かれていたのには笑ってしまった。

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■広大な大地にポツンと二人

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カストロへリス(Castrojeriz)は美しい街だった。

メセタと呼ばれるスペインの広大な平原を歩いていると、ふと盛り上がった丘と、そこにそびえ立つ廃城が現れる。その廃城の麓に広がるのがカストロへリスだ。

アルベルゲから坂道を登っていくと、広い広い平原が見下ろせる。美しい世界だ。

この街と平原を見下ろせるポイントは、妻が休んでる間に僕が探してきた。夕陽を一緒に見ようと思って。

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夕陽を手にとって遊ぶ妻。

久々に一日のんびりした気がする。晴れた午後に洗濯をして、昼寝して、自炊して、猫と遊んだ。毎日ただひたすらに歩くだけではなく、こんなにゆっくりした日があってもいい。

妻が言っていたこと。

「カミーノはサンティアゴに着く事自体を目的にすると言うことでもあるけれど、それよりも、毎日のカミーノを大切にすることがカミーノなんだと思うよ。」

つまり一日一日を大切にして、その日の出会いや健康であれたこと、目標を達成できたこと、昨日よりちょっと成長できた事に感謝することも、それ自体がカミーノだと言う。確かにその通りかもしれない。

夫婦で地球を眺めながらこんな話が出来ることなんて普通に過ごしていたらあり得なかったな。

二人でスペインに来られたことに、ここまで日々の歩みを積み重ねられたことに感謝してこれからも過ごそう。

西の空に沈んでいく夕陽は真っ赤に燃えていた。きっと、きっと今日の夕陽は一生忘れないだろう。

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ホルニロス・デル・カミーノ(Hornillos-del-Camino) ~ カストロへリス(Castrojeriz)

歩いた距離 20km

サンティアゴまで残り 約450km

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