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エッセイのご紹介425 清流取り戻す…(小黒恵子著)

 こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。

 今までは、神奈川新聞のリレーエッセイをご紹介してきましたが、今回は、讀賣新聞のフリースタイルに掲載されたエッセイをご紹介いたします。

 フリースタイルには4作品掲載されていて、すべて自筆原稿が残っています。また、担当者に宛てたメッセージが添えられているものもあります。今回は、第四回目(最終回)の「清流取り戻す故郷の多摩川光景に胸熱く」をご紹介します。
 詩人の書いたエッセイ、独特の言葉選び等を感じていただけると幸いです。

讀賣新聞「フリースタイル」の原稿

「清流取り戻す故郷の多摩川光景に胸熱く」
                            小黒 恵子

 地方のある近県に、講演で行った時、「故郷はどちらですか?」と聞かれ「はい多摩川です」と言って了った。「え? まるで魚のようですね。」と言われ、「多摩川で産湯(うぶゆ)を使った雑魚(ざこ)なんですよ」と言って笑ったことを思い出す。
 過日愛車を運転して二子橋を渡る時、いつものように多摩川に目を向けると、雨上がりの中州になんと30羽ほどの白鷺(しろさぎ)が、まるで会議中でもあるかのような感じで立っていた。
印象に残る珍しい風景であった。その時きっと魚が沢山上ってきたのだと直感した。
 その後三日程して深夜のNHKテレビ番組で、きれいな流れをとり戻した多摩川の上流に100万匹の鮎の子どもが上ってきたと言う。
その他モズクガニ川えびやマルタ等々の子どもが必死で堰(せき)の速い流れを逆(さか)上る、たくましく生きる光景に胸が熱くなる思いがした。
きれいな水は、人の心を豊かにする不思議な力を持っている。生命の源は水の中から誕生した。水は生命の母体である。
そして水の音は、幼い日の子守唄にも聞こえてくる。
人はそれぞれの心の中にしっかりと、故郷の山があり川があり海がある。
石川啄木の ―山に向かいて言うことなし 故郷の山はありがたきかな― まさにその通りである。
 ふるさとの川、多摩川は私にとってありがたい大きな存在である。そして嬉しいにつけ悲しいにつけ何か方途を教えてくれる 母であり教師である。
川がひたすら海を目指して流れるように、私も希望と目的と言う私の海に向かって、歩き続けたいと思う。

讀賣新聞 フリースタイル 2003(平成15)年11月14日
 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 次回からは、2004年~2005年に産経新聞に掲載された小黒恵子のエッセイをご紹介します。(S)


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