第1回「小国郷のこと、私たちのこと」と相互ケアに基づいた「全世代型のケアシステム」
小国郷のこと私たちのこと
九州のほぼ中央、熊本県の最北端に位置する人口約1万人のまち小国郷(熊本県小国町・南小国町)。わたしはこのまちの「小国公立病院」で働く常勤の臨床医。熊本市内から単身赴任で小国に来るようになって、もうすぐ12年になる。
美しい山々に囲まれたまちの多くを占める山林は、丈夫な建材として重宝される小国杉。古くから林業が盛んだ。杖立温泉や黒川温泉があると言えば知る人も多いかもしれない。新しい千円札の顔になる近代日本医学の父・北里柴三郎博士の生誕地でもある。
通りを歩けば見知った顔に出会い、自然と共に生きる、情に厚い人々が、互いに支え合って暮らす、日本の原風景が残るまち。
そんな豊かさがある一方で、人口の約4割以上(2024年時点)が65歳以上で、20年後の日本が直面するさまざまな課題に、いままさに直面し向き合っている、高齢化社会の先進地だ。 熊本市と同等の医療圏に、開業医はわずか2軒。唯一入院することが可能な「小国公立病院」は、かかりつけ医としてのプライマリーケアから、救急医療、在宅医療、大病院への仲介まで、幅広い役割を担っている。
ここで最期を迎える人も多く、まちの人々を看取ることも、当院の大切な使命だ。全部で73床の入院施設と、1日200人ほどの外来患者を診るのは、常勤の医師8名と、数名の非常勤医師。慢性的な医師不足で、医療・介護が不足している。
この先さらに高齢化が進んで、もっと多くの人に医療や介護が必要になっても、このまちで安心して暮らしていくためには、いま何をすればいいんだろう。現役世代である自分たちが「老後もこのまちで暮らしたい」と思えるモデルをいま、自分たちの手でつくりたい。 そんな思いから、2014年に活動を開始したのが「小国郷医療福祉あんしんネットワーク」。小国郷が抱えている地域の課題を、まちのリソースを使って小国郷らしく解決する、20年先をいく「地域包括ケアシステム」のためのボランティアチームだ。 メンバーは、小国郷の行政と、医療、介護、福祉に関連する機関のほぼすべて。月に1度の全体会議を通じて、地域の課題解決のためのシステムづくりを行っている。
ケアとは本来、私たちのような専門職が一方的に施すものではなく、コミュニティの人同士が相互に施し、施されるもの。子育てを行う動物にとってケアは、子孫を残すためにある動物的な衝動であり、相互ケアは人に幸福感をもたらす。
現代日本の多くの都市で失われた「人と人との繋がり」が残る小国郷でなら、本来的な意味のケアシステムがつくれるかもしれない。高齢者だけでないすべての人が、その人のニーズに応じた適切な支援が受けられる「地域づくり」。相互ケアに基づいた「全世代型のケアシステム」とはどのようなものだろうか。・・・次回につづく。。。
<<編集後記>>
この物語は、株式会社地域科学研究所と一緒に取り組むイラストレーターおおがまめおさん、ライターのいわくまみちこさんと一緒に取材・編集されたものです。
小国公立病院の片岡先生にじっくりインタビューをさせていただき、これまでの取組とこれかれ目指す小国郷ならではの地域医療についてお話を伺いました。