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すべてはオーダーから。 - 『DESIGN GASTRONOMY 〜 おいしくつくるデザイン』 #04
料理をネタにおいしいデザインのつくり方を紐解くマガジン、『DESIGN GASTRONOMY 〜 おいしくつくるデザイン』第四回目です。
今回のお品書きは、こちら。
良い仕事・良いデザインをするためには、オーダーの取り方=最初のヒアリングが超絶大事だというお話。むしろ、ここでクオリティと満足度の9割は決まってしまうと言っても過言ではないかもしれません。
では、さっそく参りましょう。
そ も そ も 仕 事 と は 何 か
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いきなり何か本質的な話になってしまいますが、そもそも「仕事」とは何でしょうか。
飲食店であれば、食事を提供することが第一義的な価値ですが、単純に食事の提供と言っても、そこは各飲食店によって多種多様な価値提供のスタイルがあります。
例えば、高級レストランであれば、料理の美味しさはもちろん、盛付けの美しさであったり、食材の希少さであったり、料理に合わせるペアリングのチョイスであったり、はたまた店内の雰囲気やサービングの心地よさであったり、単純に食事の提供だけを価値としているわけではありません。
希少性や特別感といった価値も含めて提供しているわけです。
一方、ファーストフードチェーンであれば、「やすい、はやい、うまい」ことが価値であり、一定ラインの美味しさを満たした料理がいかに素早く安く、どこの店舗でも同じクオリティで提供されるということが大事だったりします。
リーズナブルであることに加え、同質性による安心感も価値になっているということですね。
これは、顧客の要望が様々であるが故に、その要望に合わせた様々な価値提供スタイルが生まれているということです。
「誰かの代わりに、報酬をもらい、その人の要望を叶えること」
それが仕事です。
つまり「クライアントの要望の数だけ提供価値がある」ということです。
なので、当たり前ですが、良い仕事をするためには、クライアントが何を求めているのか?その要望を正しく捉えなければなりません。
ここをないがしろにしていると、ファーストフードを求めているクライアントに高級メニューを提供しようとして怒り狂われる、みたいな事態になります。
「そんなこと…」と思われるかもしれませんが、実際の仕事の場面ではよく起こっていることです。
「さくっとラフつくってみて〜」という上司の指示があった時、上司の頭の中と部下の頭の中で思惑が食い違っているなんてこと、よくあります。
▼ 上司の頭の中
1時間くらいで、ラフラフでいいから何となくイメージがついて、今後の方向性を議論できる材料が欲しいな〜
▼ 部下の頭の中
ラフと言っても、あまりにラフラフだとダメだろうから、半日くらい情報収集して、3パターンくらいの方向性で案を作ろうかな…
みたいな感じ。
別に、部下がやろうとしていることが本質的に間違っているというわけでは決してなくて、単純に上司の要望を捉えきれていないだけではあるんですが、これでは良い仕事は提供できません。
なので、オーダーの取り方=最初のヒアリングが超絶大事ということですね。
答 は ク ラ イ ア ン ト の 中 に
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では、どうオーダーを取っていく=ヒアリングしていくのが良いのでしょうか。
ここで重要なのは、ヒアリングのテクニック云々の前に「答は全てクライアントが持っている」「答は全てクライアントの中にある」という視点です。
何かしらの要望を持っているのはクライアントの側なので、もちろんそれは当然でしょ?と思うかもしれませんが、結構ここに「自分が何を提供できるのか」を絡めて考えてしまう人が多いです。
クライアントの要望と、こちらの価値提供の範囲がすり合うポイントがあれば、そこに落とし込んでいくのが基本ですが、これを価値提供側に寄せてしまうと、要望から離れたアウトプットしか提供できなくなり、結果として満足を得られない、ということが起こります。
なので、まずはフラットな意識で真摯に要望を聞いていく、という意識が非常に重要です。
あ ら ゆ る 方 法 で 聞 き 出 せ
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次に、実際にヒアリングしていく上では、とにかくあらゆる視点や観点から質問を投げかけていくことが大事です。それこそ、ちょっとしつこいと思われるくらいに。
仕事ができる人というのは、この初期段階のコミュニケーションをとても大事にします。そして大抵の場合、結構面倒くさいです。それはこのフェーズの重要性を理解しているからであり、何となく「あぁ分かりました」となる人は逆にちょっと警戒した方が良いです。たぶん、要望を把握していないから、後でトラブルになる可能性大です。
料理のオーダーをメタファにするなら、以下のような質問を投げかけていく感じですね。
どんな料理を食べたいのか?
質は?値段は?
どんな味が好みか?
そもそも、何を求めているのか?(腹を満たしたいのか、舌を肥やしたいのか?)
苦手な食材やアレルギーはあるか?
大きな視点から、小さな視点まで、色々な角度からクライアントの要望を炙り出していくようなイメージ。
「問い」は「思考」を誘発します。
問われることで、クライアントの中でも要望の整理が行われ、時には新たな要望に気づいたり、時には重要でない要望を切り捨てたり、といったことが起こります。
コーチングの手法でも「問いかけ」は非常に重視されますが、それと同じですね。
ヒ ア リ ン グ の 罠
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ただ、単純に「聞いていく」「問いかけていく」だけでは、全てを聞き出すことができていない場合が多々あります。
何故なら、
多くの場合、クライアントは素人である
多くの場合、クライアントは自身の要望を正しく表現できていない
ことがあるからです。
どういうことよ?という話ではありますが、料理で考えると分かりやすいと思います。
レストランに来るクライアントは料理の専門家=プロではありません。
もちろん、食通の方であれば、それなりに色んなレストランで色んな料理を食し、自身の好みも、何なら調理法もある程度は把握しているでしょうが、それでもやっぱり素人には変わりないのです。
毎日、食材と向き合い、あらゆる調理法や味付けを試行錯誤しているプロのシェフとは、知識も経験も違うのです。
クライアントが「旬の●●(食材)の●●(調理法)を●●(味付け)で食べたい」と要望したとして、果たしてその食材が今日最高の状態で仕入れられているか、はたまたその調理法や味付けが最適なのかどうか?は、分からないのです。
デザインの領域でも、よくある話として、クライアントが「ここは目立たせたいから赤にして欲しい!」と要望し、それに従ってデザインを修正した結果、結局どこを目立たせたいのか全てが破綻したデザインになってしまった…みたいな失敗談がありますが、それと同じことです。
大事なのは「旬の美味しいものが食べたい」「ここを目立たせたい」というクライアントの意図であり、その意図を満たすための調理を施すのはプロであるシェフであり、デザイナーである、ということです。
そもそも「味」や「デザイン」といった領域は、非常に抽象度が高く定義が難しい分野です。
だからこそ、ただ「聞いていく」「問いかけていく」だけではなく、「具体例をもとに聞き出していく」ことが重要です。
旬の食材だと、例えばこんなものも今日ありますがどうですか?
この食材だと、こんな調理法やこんな調理法がありますがどうですか?
この食材だと、こんな味付けがオススメですがどうですか?
曖昧な領域に、具体的に判断できる材料を持ち込むことで、両者のコミュニケーションのズレを解消し、深堀りしていくことができます。
期 限 と 要 求 水 準 を 定 義 し ろ
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そのうえで、ヒアリングの仕上げにとても重要な視点。
「期限と要求水準」を定義しましょう。
仕事には常に「期限と要求水準」があります。
冒頭の上司と部下の意図が食い違っている例でもそうですが、コミュニケーションの齟齬というのは、この「期限と要求水準」の理解が食い違っていることから起こります。
なので、
いつまでに(期限)
どのくらいのクオリティや完成度で(要求水準)
その仕事を仕上げるべきなのか、を定義し、共通認識として持っておくことが、とても大事です。
5分後に
定番ハンバーガーセットをお持ちします
とか、
30分後に
オーブンで仕上げた和牛のビステッカをお持ちします
みたいな感じ。
「期限と要求水準」がすり合っていて、その期限内に要求水準通りのアウトプットが提供されれば、多くの場合、クライアントの満足は得られます。
ただ、単純に「期限と要求水準」を満たせばクライアントの満足度を最大化できるか?と言うと、実はそこにも少し罠があります。
期 待 値 調 整 と い う 極 意
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満足度を最大化するためには、どうすればいいのか。
感動レベルでクライアントの満足を得るためには、どうすればいいのか。
感動というのは、期待値を大きく超えた時に初めて得られます。
「期限と要求水準」の話で表すなら、
「期限を大きく前倒して提供する」
「要求水準を大きく超えて提供する」
ということになります。
よくレストランとかでありますよね。「この料理は調理に時間がかかるため、30分ほどお時間をいただきます」みたいな注意書き。こうした期待値調整は、満足度に直結しています。
期待値調整がされていれば、「30分かー他の料理食べている間に出てきそうだし、美味しそうだからゆっくり待つか」という心持ちでいられますし、「今日はサクっと切り上げたいし、30分も待つならやめておこうかな」という選択肢も与えられます。
そして、実際のところ、30分の想定が20分で提供され、クオリティも予想より優れていたなら、どうでしょう。めっちゃ嬉しいですよね。
考えてみると、世の中の全てのサービスには期待値があります。それは、世間一般に認知されていたり、ユーザーが勝手に抱いていたり、サービス提供者側が明示していたり、時には暗に匂わせていたり、と現れ方は様々ですが、全てのサービスは期待値と、それに対する結果で満足度が決まっています。
ビッグマックって、500円くらいだよね?
映像サブスク料金、1000円くらいが妥当かなー
A地点からB地点までタクシーーなら、2000円くらいっしょ
この店構え…きっと値段も高いに違いない…
みたいな感じ。
ここで、クライアントの期待値をどの程度に置いておくのか?というのが、非常に重要なんですね。
極意としては、ギリギリのラインよりも少し余裕のあるラインに設定しておくことです。これは予定外のことが起こった場合のバッファとしても機能しますし、極めてリーズナブルな選択です。
通常運転で20分で提供できるけど、ディナーラッシュ時には厳しいことが予想されるなら、決して20分というギリギリで設定してはいけません。余裕があれば上回れる、最悪でも時間通りに提供できるラインにしておく必要があります(もちろん、バッファを見すぎると心象は悪くなるので、あくまで程よいバランスで)
結果、当初予定通りに仕事が進めば「期待値よりも早い&クオリティが高い」ことになり、クライアントの満足度は飛躍的に向上します。
デザインでも、どんな仕事でも、これは共通です。
オ ー ダ ー が 9 割
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以上、
今回は、良い仕事・良いデザインをするためには、オーダーの取り方=最初のヒアリングが超絶大事だというお話でした。
オーダーが9割
答は全てクライアントの中にある
あらゆる方法で聞き出せ
クライアントの意図を読み解け
期限と要求水準を設定しよう
期待値調整で満足度を最大化しよう
ってことですね。
次 回 予 告
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次回は、もう少し具体的なデザインのつくり方。おいしいデザインをつくるためには、まずは、おいしい素材を集め、選択しなければいけないよね、といったことを書いてみようと思います。
題して、
お い し い 素 材 の 選 び 方 。
『DESIGN GASTRONOMY 〜 おいしくつくるデザイン』
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