\ヘルメットは高温が苦手! 安全性を損なう“三次発泡”とは?/【ゲストコラム】自転車用ヘルメット緊急事態宣言! (その5)
オートバイ用/自転車用ヘルメットのメーカーとして、各シーンで頑張っている「人」を通じ、ご本人によるレポートやコラムなどを掲載しています。
今回は自転車ジャーナリストの浅野真則さんによる、自転車用ヘルメットを取り巻く危惧すべき現状レポートの5回目。今年の夏の猛暑が影響したこととは?
突然ですがここで緊急ニュースです! ヘルメットの安全性認証について紹介している本連載ですが、ここで臨時ニュースが入ってきました! 暑い時期のヘルメットの取り扱い方についてKabuto担当者とやりとりをしましたので、今回は内容を急遽変更してお送りします!
⛑️ヘルメットは「熱い」ところが苦手。高温にさらし続けるとどうなる?
今年の夏は観測史上最も熱い夏だったそうです。
全国各地で体温以上の最高気温が連日のように記録され、9月に入ってもまだまだ暑い日が続きます。
そんな暑い夏ではありましたが、今年は新型コロナが5類相当となって初めての夏とあって、サイクルイベントもいろいろ開催され、大勢のサイクリストでにぎわっていました。
僕もイベント取材で皆さんが楽しそうに走るのを横目に会場で取材していました。
そんな中で、気になることがありました。
日なたにあるサイクルラックに自転車とヘルメットをかけっぱなしにしてあったり、炎天下のアスファルトの上に直接ヘルメットを置いている人が意外に多いのです。
ヘルメットの取り扱い方法に「高温の場所を避けて保管すること」と書いてあるはずなので、とても気になりました。
そこでオージーケーカブトの担当者に聞いてみました。
アサノ:「ヘルメットを暑いところに長時間おいておくとどうなりますか?」
Kabuto担当者:「ヘルメットを長時間高温の場所に置いておくと発泡が進んでしまう現象が起きることがあって、ヘルメットが劣化してしまいます」
アサノ:「発泡が進むってどういうことですか?」
……というわけで、次の章で三次発泡についてまとめます。
🤯ヘルメットの大敵「三次発泡」とは?
「三次発泡」というのは、ヘルメットに50度を超えるような高い熱が加わり続けることで、ヘルメット内部の発泡ライナーが通常の状態からさらに発泡してしまう異常現象です。
これが起きてしまうと、発泡ライナーの見た目が粒々として粒が膨らんだ状態になって見た目にも変化が現れます。
どうしてこのような現象が起こるのかは、ヘルメットの内側にある発泡ライナーの素材とヘルメットの作り方をおさらいすると分かりやすいので紹介します。
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【発泡ライナーの素材とヘルメットの作り方】
発泡ライナーはEPS(エキスパンデッドポリスチレン)という素材でできていて、もともと鉛筆の芯ぐらいの細さの円柱状のビーズだそうです。
ヘルメットを作るときはこのEPSのビーズに蒸気を当てて膨らませる予備発泡(一次発泡)を行います。
その後、ヘルメットを成型する段階で、あらかじめ成型したPC(ポリカーボネイト)シェル(アウターシェルになる)を金型の内部にセットし、そこに予備発泡したEPSのビーズを流し込み、熱を加えながら圧力をかけていきます。
すると、ビーズがさらに発泡して膨らむ二次発泡が起こり、アウターシェルと発泡ライナーが圧着し、一体化してヘルメットのシェルが完成します。
つまり完成品については、「二次発泡」されたもの、というわけです。
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ヘルメットで重要な衝撃吸収性能は、発泡ライナーの素材の特性や形状などで決まりますが、その重要な要素のひとつが発泡ライナーの発泡倍率です。
発泡倍率とは、簡単に言うと「素材の状態のEPSを元の体積の何倍に膨らませたか」ということです。
発泡倍率を変動させることで、発泡ライナーの衝撃吸収性能をはじめとする特性に変化を持たせることができます。
メーカーではヘルメットの完成品を常温、高温、低温、浸水させた状態など、あらゆる条件下で性能を発揮するようモデルごとに何度もテストを行い、発泡倍率を決定しているそうです。
🌋三次発泡が起こるとどういう不具合がある?
三次発泡が起こるということは、発泡倍率が変化してしまうということです。
あらかじめテストを行い決定した完成品の状態ではしっかりと衝撃が吸収できるように設計されているヘルメットであっても、発泡が進んでしまった状態、つまり発泡倍率が変わってしまうと衝撃が加わった際に本来の性能を発揮できない可能性があるということです。
また、ヘルメット内部の変形も起こるため、フィット感にも変化が現れます。
三次発泡によって発泡ライナーの体積が増し、同じヘルメットであっても発泡ライナーが部分的に当たるようになったり、場合によってはかぶり心地がきつく感じるようになるかもしれません。
さらにアウターシェルの素材によっては、内部だけではなくシェル部分にも変形などの症状が起き始める可能性もあります。
また、ステッカー類などは熱によって粘着強度が落ちるため、ズレや剥がれなどが発生するケースもあります。
⚠️ヘルメットの正しい使用方法・保管方法を改めてチェックしよう
三次発泡を起こさないためには、高温に長時間さらさないことが重要です。
そのためには以下のような場所にヘルメットを置くことを避けましょう。
●クルマの中など、高温になる場所
●直射日光の当たる炎天下
・日なたのアスファルトやコンクリートなどの上
・日なたのサイクルラック、金属製のフレームやハンドルに当たるような場所
・クルマのボンネットや屋根、グレーチングなどの上
●屋内の直射日光が当たる窓辺など
特に近年の夏場は体温を超えてしまうような猛暑日が続いています。そのような日はクルマの中は50℃を容易に越えますし、アスファルトやコンクリートの上も気温以上に高くなります。
あくまでも一例ですが、炎天下に駐輪した自転車のハンドルに短時間ヘルメットをかけていただけでも発泡が進んでしまう可能性も考えられます。
🔥炎天下で長時間走っていても三次発泡は起こる?
ところで、「高温に長時間さらされるのがまずいなら、外気温が高い夏場の走行もよくないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。
この点についてKabutoの担当者にうかがったところ、
「外側はシェルがあり、走行風による冷却効果もあるうえ、EPS自体は内側にありますから、基本的に走行時は心配ご無用です」
とのことでした!
朝夕は涼しくなってきましたが、日中はまだまだ暑い日が続きます。サイクルヘルメットの構造上、このようになるおそれがあることをあらかじめ知って対策を講じることが必要ですね。ヘルメットの正しい扱い方・保管方法を再度確認し、残暑の時期も気をつけてサイクリングを楽しみましょう!
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