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“着る”ヘルメット「ラフィネ」誕生ストーリー 〜安全安心のその先へ〜

オージーケカブトはオートバイ/自転車関連のレポートやコラムなどを掲載中。今回は、自転車用帽子タイプヘルメットのプレミアムモデル「ラフィネ」の開発からリリースに関わるサイドストーリーをお届けします。

ファッションで語る自転車ヘルメットの開発秘話


⛑️“かぶる”から“着る”のコンセプトを具現化

道路交通法の改正によって「すべての自転車に乗る人のヘルメット着用を努力義務とする」法律が施行されて以降、販売店からの問い合わせが相次ぎ、在庫の品薄が常態化していた、オージーケーカブトの”着る”ヘルメット。そのプレミアムモデルである「ラフィネ」の販売が2024年6月頃からスタートし、徐々にその存在が知れ始めている。“かぶる”ではなく”着る”ヘルメットという新しい価値観を打ち出すオージーケーカブト。現在では類似品や模倣品が多数見られるほどこの「帽子タイプヘルメット」あるいは「ファッションタイプヘルメット」というジャンル自体が確立されたと言えるのだが、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。開発担当の上辻さん(以下U)に聞く。

“着る”ヘルメットの開発がスタートしたのはじつは2014年ごろ。当時、高齢者の自動車事故が社会問題化するニュースが頻繁に流れ、免許証の返納について頻繁に議論されていた。そこで注目されはじめたのが電動アシスト自転車。オージーケーカブトは各地の警察や自治体と連携し、高齢者向けの安全講習に同行、自転車用ヘルメットの着用を促していた。しかし……。

「参加されている方々、特に女性からヘルメットをかぶりたくない、という声をたくさんいただきました(開発U)」

当時、自転車用ヘルメットといえば、競技やレースなどで使用されるスポーティなデザインのものがほとんどを占めていた。「あれはかぶりたくない、かぶるくらいなら自転車に乗らず歩いた方がマシ、もらってもかぶりたくない、と。それはやはりファッション性、自分の普段着とマッチしないということからの意見でした(U)」

その声を会社にバックしたところ「かぶりたいと思ってもらえるものを、今考えておくのがメーカーとしてやるべきこと」となり、新商品の開発がスタート。国内のヘルメットメーカーで、これができるのは“私たちだけ”という自負もあったという。

ヘルメットを“ファッション”のひとつとして当たり前に…

「日用品として使われるものだからファッション要素は切ってもきれない」というのは開発当初から絶対に譲れないポイントだった。しかし帽子かぶせタイプの自転車用ヘルメットで、国内の製品安全協会「SG」の認証マークを取得した製品は、まだ存在していない。
「売れるかどうかわからないけど、1人でも多くの命を救えるのでは」という思いで厳しい国内認証マークの取得にトライ&エラーを繰り返し、結局開発スタートから発売までに約5年の時間を費やすことととなった。

帽子タイプヘルメット開発時、国内SGマーク認証品では存在していなかった(2019年当時)

そして2019年。満を持して“着る”ヘルメットの第一弾商品「SICURE(シクレ)」の販売がスタート。技術、デザイン、とくにSGマーク認証においては大きな障壁を乗り越え、満を持しての販売だったが、市場の反応は予想以上に冷ややかなものだった。長い時間をかけて開発、ようやく販売にこぎつけた商品がまったく奮わない。そんなメーカーにとって絶望的状況にあるにもかかわらず、プレミアムモデル「ラフィネ」の企画をスタートさせていた。

帽子タイプヘルメット初のSGマーク認証品「シクレ」。現在はデザイン違いのラインナップも充実

👒販売が奮わないなか、プレミアムモデルの開発へ

「SICURE(シクレ)」の売れ行きが絶望的状況にありながら、企業としてかかげる“すべての人に安全と安心を提供する”という使命を全うすべくさらに次のステージ「“かぶっても良い”から“これをかぶりたい”と思ってもらえるものを作る」という、先を見越してのモノづくりを始めることになった。

「「SICURE(シクレ)」は65歳以上のハイシニアをターゲットに開発した商品でした。それに対して『ラフィネ』は、30代後半からアクティブシニアまで、年齢の垣根を取り払った、ファッションに興味のある人たちすべてを対象に開発をスタートさせました(U)」

「SICURE(シクレ)」の開発を手掛けたことで、帽子×自転車ヘルメット、に対するひと通りのノウハウはあった。そこからさらにファッション性にこだわり、見た目の美しさに重点を置き、無駄なものを削ぎ落としていく、という観点ですべてを見直した。その結果、デザインは『キャスケット』と『ハット』の2タイプを製作することが決定した。

まずは『キャスケット』。専門店にリサーチをかけたところ、幅広い年齢層に人気があること、さらに昨今販売数を伸ばしている形だということがわかった。

「ラフィネ」はハットとキャスケットの2タイプを開発

「ファッション性の高い形なので、造形を成立させるため、二重構造にしています。内側はメッシュになっていてヘルメットに密着させる。外側はキャスケットのふんわりとしたフォルムが出るように設計しています。ヘルメットの安全基準を満たしながら、どうデザインに落とし込んでいくのか、ここは非常に難しかったです。とくに前方視界確保の観点から制約のある、つば部分の跳ね上げと固定方法については、いかにスタイルを損なわないかにこだわった部分でもあります。(U)」

つばの跳ね上げと固定にはボタンを使うことでデザインにもアクセントを持たせた。またキャスケットタイプは帽子としてだけでも使える仕様

『キャスケット』はジェンダーにとらわれないデザインで、しかもヘルメット帽体にかぶせず帽子としてだけでも使える2ウェイ仕様にしたのも大きな特徴。視界確保用のツバ上げ固定ボタンに、帽子に仕込んだベルトをかけかえてフィット感を高めるという機能(特許出願中)など、細部までユーザビリティへのこだわりが詰まった仕上がりになっている。

ラフィネ キャップ2(キャスケット)

『ハット』は、「SICURE(シクレ)」を販売した際、女性は日焼けを気にする、ツバが少しでも長いものがいいという声を受けて、前ツバを大きくしながらもエレガントさを醸し出すデザインについて検討を繰り返し開発されたものだ。

ラフィネ ハット3

「「SICURE(シクレ)」で学んだ、なるべく大きく見せないパターン(切り返し)は、『ラフィネ』にも採用しています。前部の切り返しデザインのあるなしで、見た目のサイズ感がかなり違ってくるんです。じつはシクレのときに切り返しパターンを思いついたのは弊社の創業者(現監査役)の助言があったからなんです。普段からファッションに拘りある創業者は、最終段階の検討中に横を通りがかって私たちが気付かなかったことを、さらっとアドバイスしてくださったんです(U)」

このような前モデルからの応用はもちろん、チャコール、モカベージュといったカラーにも、しっかりとこだわりが詰め込まれている。さらに注目なのが、付属する専用の布バッグだ。プレミアムモデルということで、開発当初から百貨店などを販売の拠点として想定していた。その現場からの「後々使えるものの方が喜ばれる」、「ヘルメットの持ち歩きはどうするの?」「箱は持って帰りたくない」といったユーザーからの生の声を活かし、コットン100%でナチュラルな風合いの布バッグを同梱することになった。

コットンバッグを同梱。ヘルメット内装には制菌素材を使用している

もちろん機能面も抜かりはない。SG基準を満たしていることは当然として、内装に「制菌」素材を使用。前後だけでなくトップ部まで取り外せる仕様として、手洗いも可能。この内装はエンブレムを思わせる立体的な刻印が施されるなど、所有感を満たすべく、しっかりとデザインされているのも特徴。頻繁に愛用するユーザーのため、交換用として内装の販売が行われているのも一般ユーザーには意外に知られていないことかも知れない。さらにディバイダー(あご紐アジャスター)については、スポーツ用の上位モデルに使われるロックのかかるタイプを採用。使い勝手を配慮している。
こうした仕様が決定し2024年5月、ついに帽子タイプヘルメットのプレミアムモデルとして『ラフィネ』を発表した。

💝まったく新しい価値観のヘルメットとして

話は前後するが、発売当初苦戦を強いられていた前モデルの「シクレ」は、2023年4月、改正道路交通法の施行から状況が一変する。

広報担当者によると…。
「じつは施行前にプレスリリースに帽子タイプ“ファッションヘルメット”のラインナップを掲載していたんです。これがさまざまな媒体担当者の目に留まり、連日、マスメディア関係者から連絡が入りました。全国放送のニュース番組、新聞記事で取り上げてくださったんです(広報K)」

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000046797.html

ニュース効果も手伝って、予想以上に膨らむ世の中の反響に、帽子タイプの“ファッションヘルメット”ラインナップは品薄状態が続く人気となった。現在は在庫も落ち着きを見せているが、そこに登場した『ラフィネ』は、自転車用ヘルメットがさらに本気で“ファッション”と向き合ったアイテムとなる。

発売前に用意したコンセプトブック

「まだまだ、自転車ヘルメットに“プレミアム”を求めてくださる方が少ないことは理解しています。着用が努力義務化されたことで日常になる、そうするとより安いものが求められることで、類似品、粗悪品の問題もあります。そこに対抗するにはブランド力を上げるしかない。スポーツジャンルでは名が知れていても、一般の方々に自転車ヘルメットのナンバーワンとして認知され、さらに“指名買い”をしてもらえるブランドに育てていくことが必要だと考えています(広報K)」

その販売戦略のひとつが、これまでとは違った販売拠点の模索だ。前述したように『ラフィネ』開発当初から、販売拠点の候補としてかかげていた百貨店。これまで大阪・阪神百貨店、京都・大丸京都店という2ヶ所でポップアップストアを展開したところ、新しい気づきを得ることが多かったとのこと。

阪神百貨店でのポップアップイメージ

「大阪の阪神百貨店でのお話なんですが、60代くらいのお客様が、いいヘルメットがほしいからとお店に来られたんです。お話をお聞きすると、習い事に行くために適当に自転車用のヘルメットを買ったそうなんですが、皆さんがかぶられるようになってくると、ある程度のグレード、いいものがほしいという思いが強くなったそうなんです(U)」

モノを見る目がある顧客は必ずいいものがほしくなる。そういうニーズに応えられるよう、しっかりとしたものを作るというのも、ヘルメットメーカーとしての使命なのだ。また京都の大丸百貨店で接客した際には、30代の娘が母親を連れてきて、いっしょに商品を選んでプレゼントするというシーンも見かけられたとのこと。

「30代の方の母親となるとインターネットを使うことは少ない世代。ですから幅広い情報を持った子ども世代が“親のために”“一緒に選ぶ”というような購買パターンは、今後も増えていくのではないかと思います(U)」

さらに百貨店での気づきはほかにもあった。メインの購買層になる50〜60代は、見たことのないものを試してみたいという世代。しかしネットで購入するのではなく、手にとって自分の手で触って納得して購入したいという層である、ということだった。

京都大丸でのファッションヘルメットポップアップ

「そんなときどこで見られるの? と問われても、いまはまだ現物を手に取れる、試着できる場所がないんです。自転車屋さんに行って小さな鏡を見て買うのでなく、姿見の前で、自分好みのファッションを想像しながら、全体のバランスを見て購入する。『ラフィネ』は帽子を買うのと同じように選ばれる商品なんです。またプレミアムな存在は大切な方への“贈り物”にもなりうると考えています。メーカーとしてはそういう気持ちを大切に、今後の売り場、売り方などについても営業チームと一緒に考えていきたいと思っています(U)」

これまでのヘルメットの常識を超え、ファッションアイテムとしてのデザインにとことんこだわり、販売戦略についても新たな展開を模索している『ラフィネ』。安心、安全は当たり前、その先を目指した道のりは始まったばかりだ。


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