書籍【デジタル増価革命】読了
https://booklog.jp/users/ogawakoichi/archives/1/B09YTX2WZ6
◎タイトル:デジタル増価革命
◎著者:此本臣吾、森 健
◎出版社:東洋経済
今までのデジタル化はソフトウェア部分での価値創造だった。これがついにアナログ部分と繋がって価値を生む。
これらがどれだけ大きな価値を生み出していくのかは、想像すらできない。
しかし、とんでもなくすごいことが起きそうな気がするのだ。
日本でGAFAMのような企業を生み出せなかったのは悔しい限りだが、それではどうやって今後戦っていくのか。
デジタルの本質を見極めて、綿密に戦略を立てていかなければ、日本はまた負け続けることになる。
日本にチャンスが残されているのかは分からないが、少なくとも大負けでないとしても、先頭集団についていくくらいの競争力は確保していきたいものである。
そのためには、徹底的にデジタル化して価値を生み出していくしかない。
本書内でも記載があるが、今までのアナログ部分はほとんどが「減価償却型」だった。
つまり、製品が新品の時は価値が高いが、その後は価値が目減りしていく。
これは当たり前な感覚であるが、デジタル世界ではこれが逆転している。
ここでは「増価蓄積型」と言っているが、製品投入時こそ価値が低いが、使用されればされるほど、利用者が増えれば増えるほど価値が増えていく。
社会全体が「減価償却ではなく、増加蓄積を考えて行こう」という流れに変化しているのは、サステナブルな文脈で考えても当然の帰結と言える。
アナログでも時間の経過とともに価値を生み出しているものはある。
伝統的な建造物などはその分かりやすい例であるが、法隆寺にしても金閣寺にしても、時間が経っているからこそ価値がある。
デジタル化の増加蓄積はまた意味が異なるが、経営学でいう「ネットワーク効果」と意味は近いような気がする。
SNSが代表例であるが、機能的に優れているかどうかは別として、利用者が多ければそれだけで大きな価値がある。
これは当たり前で、利用者が少ないSNSよりは、利用者が多いSNSの方が便利だからである。
このように、今世の中で起きていることを分解して分析して、減価償却にならずに増価蓄積を起こせるのはどの分野か、を探していきたいものだ。
今現時点でも、デジタルと切り離されてアナログ単体として存在しているために、価値を生み出せていないものが多数ありそうだ。
これら遊休のものをまず洗い出して、デジタル化した際にどういう価値を生み出せるかを、思考実験するだけでも意味があると思う。
ここで上げられている「都市」は、一例であるが大きな価値を生み出していけることは間違いない。
スケールが大きいために、逆に想像することが難しいのかもしれないが、都市交通や都市内の貨幣流通を全デジタル化しただけでも、相当なインパクトになるだろう。
プライバシーの課題は別として、人流についてすべてデジタル化されれば、相当な価値を生み出すことは間違いない。
現在でも個々のレベルではデジタル化されているが、その連携が課題だ。
都市すべてがデジタル化されて連携されなければ意味がない。
もしデジタル部分とアナログ部分の境界が無くなるくらいシステム連携が達成出来れば、大きな価値を生むのは間違いない。
例えば、MaaSの世界が実現しただけでも、移動についての世界観は大きく変わるだろう。
そして、当然そこにはお金の決済も絡んでくる。
インターネット上にデータが流通するかのごとく、お金も自由に流通して、それに伴ってアナログの人間の動きや感情も情報として流通する。
そうなると「もっとこうすれば価値が高まるのではないか」という発想が生まれ、好循環にPDCAを回していくことができるはずだ。
このインパクトをどう考えるか。
ここまで見ると、お金や経済の意味すら考えてしまう。
価値を計る基準が貨幣だとすれば、その総量は加速度的に増えていくことになる。
資本主義の理屈で考えると、無尽蔵に増え続けることになってしまうのだが、本当にそれでよいのだろうか?
本書の最終章では「望ましい増価蓄積社会をデザインする」と論じられているが、デザインの仕方は相当に難しくなるだろう。
人々は結局感情がある訳で、デジタルのアルゴリズムによってブラックボックス化された世界の中で、幸せに暮らしていくことが出来るだろうか。
昔のSF作品で、世界を牛耳るホストコンピューターが、計算によって人間の行動をすべて決めていたというのを見たことがあるが、世界はその状態に近づいていくのだろう。
そんな未来が幸福なのか、不幸なのかは分からないが、社会が大きく変化していくのだけは間違いない。
短期的な部分で言えば、日本はデジタル化の遅れを取り戻す必要がある。
望むと望まないにも関わらず、方向性は決まっている。
どうやって増価蓄積社会をデザインして、人々を幸福にしていくか。
本書を読みながらも、考えることが沢山あるなと感じてしまった。
(2024/7/17水)