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書籍【鬼時短~電通で「残業60%減、成果はアップ」を実現した8鉄則】読了

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◎タイトル:鬼時短: 電通で「残業60%減、成果はアップ」を実現した8鉄則
◎著者:小柳はじめ
◎出版社:東洋経済新報社


会社を改革するためのノウハウ本という位置づけではなく、経営者に対し「覚悟を持て」と発破をかける内容だ。
これも良書だ。「マインドセットの本」だと言い切っているところが潔い。
それでは経営者だけがターゲットなのかと言えば、読者としては確かにその通りだが、私のような社内改革推進の部署の人間にとっても、十分に意識の変化に繋がる話が盛り込まれていると思う。
結局対応するのは個社ごとの事情によるが、まずは改革を推進する社長と、それを率いていく部門の考え方を揃えることが大事だ。
それは「働き方改革」なのではなく、「働かせ方改革」なのであるということ。
この考え方こそが、改革の一丁目一番地なのだと強調する必要がある。
社長を含めた経営トップがこの認識を持って、本気で実践してくれないと意味がない。
特に日本の会社は、内部昇格から取締役になる場合が多い。
トップが「改革だ」と旗を振っても、現場から「あなただって現場時代は散々同じ働き方してきたじゃないですか。どの口が言っているのですか?」と指摘されてしまえば、説得力がまるでなくなる。
そこをどうやって社員に対して「腹落ち」させるのか。
これはやはり本気度を見せるしかない。
言葉で理想を語るだけでは薄っぺらい。
「時代が変わったから」という言葉も、他者のせいにしているだけで、理由になっていない。
それこそ「あなたの時代はよかったですね」で終わってしまう。
そもそも「時代」という外部環境のせいにしている時点で、自分自身の内側から湧き起こる本気の言葉ではないと見透かされてしまう。
結局は「経営陣の本気」を見せるしかないのである。
本書内の「トラブル処理を経営がすべて引き受ける」というのは、本気度を測る分かりやすい事例だろう。
これは、実際に行うとすると本当に大変だと思う。
それを経営陣が覚悟をもって実践できるのかどうか。
しかし、ここまでやれば現場も協力せざるを得なくなるのは間違いない。
不退転の覚悟で臨めば、必ず達成できるはずなのだ。
それには、小さな成功をコツコツと積み重ねること。
大きな事を成し遂げるには、この繰り返ししかないのかもしれない。
著者の意見として、「実はほとんどの従業員が、PCをきちんと使えないのではないか」と本書内で説いている。
事例としてブラインドタッチの話が出てくるが、私にも身に覚えがあるエピソードだ。
会社で働いていて、常々感じてしまう。
とても信じ難いが「この人、実はPCを使いこなせないのではないか?」という場面に、結構な頻度で遭遇するのだ。
確かに、書類作成を日常的に行わなければ、あまりPCは必要ないのかもしれない。
ホワイトカラーと言いながら、暇そうにしているのは、仕事ができないからではない。
PCを上手に使えないから、やらなくてはいけない仕事を、能力的にこなせないのだ。
もちろん、簡単な文字入力や、計算くらいはできる。
しかし、残念ながら、それで完結する仕事はほとんどないと言っていい。
従業員向けの案内を作成したり、ポータルサイトに告知したりするためには、ベタ打ちの文章だけでは済まされないのである。
自分でイチから書類を作成したり、目の前の課題をまとめ、解決策をレポートする、などとなると、それこそハードルが高い。
PC操作の問題もあるが、ビジネススキル、事務作業能力との複数要素が絡み合っているのが、特にハードルを上げている要因だ。
そもそも文章を読む能力が足りなければ、当然書く能力も高まるはずがない。
確かに会社でPCを触ってはいるが、お世辞にも使いこなしているとも言い難い。
実はほとんどの社員がそういう状態で、特に経営陣になると目も当てられないケースが増える。
それも当然で、経営を担う取締役まで出世すれば、自分で資料を作成する機会がグッと減るし、当然プログラムを組んで作業を自動化するなんてことをやるはずもない。
経営者は判断するのが仕事だから、確かにPCスキルは必要ないかもしれない。
こういう点もミスマッチが起きているところだ。
機会がないから、益々PCに触れなくなり、低いスキルのままとなる。
しかし、技術は進歩するので、今ではデータ分析の知識も、生成AIの知識も必須であるにも関わらず、管理職ポジションが長い人ほど、これら新しい技術を自分で手を動かした経験がないために、分からないままに判断だけ求められるという状況になっている。
自身が若い時、現場にいた時には、これらの技術は存在していなかったのだから。
もちろん、自分で必死になって勉強すれば、知識は蓄えられるかもしれない。
しかし、現場で日々実践で研鑽している人たちとは、どうしても経験で追い付くはずがない。
それでは、勉強が必要ないかと言うと、確かにそれでも何とかなってしまう。
部下が上司に判断を求める際に、「どうせ部長は判断できないだろうから」という前提があるために、確実な「正解」に仕上げてから、承認を求めることとなる。
つまりこの部長は、ある課題の判断を求められている訳では決してない。
「この正解にハンコを押して承認してくれ」ということでしかないのだ。
当然この部長は否決することもありえる。
それは判断している訳ではなく、この申請内容が「理解できない」時だ。
こんな状況が現実のため、経営陣が「DXだ」といくら旗を振っても、自分自身がアナログのままであれば、説得力も何もない。
これでは対策がなさそうな気がするが、それはその通りと割り切って、小さな成功事例をコツコツと積み重ねるしかないと思っている。
本書での「ブラインドタッチの講習会から始めた」というのも、非常に頷ける。
一見レベルが低すぎると思ってしまうが、現実的で実質的に、これがDX化への第一歩であることは間違いない。
当社も恥ずかしながら、一時期「Word研修」を全社をあげて行っていた時があった。
社内で流通しているWord文書があまりにひどいために、社長が号令をかけて実施した研修だったのだが、操作の話ではなく「文書作成の作法」に特化した内容だったために好評だった。
自分でも知らない作法があったことに、恥ずかしくなったことを思い出す。
相手に伝えるための文書には、当然だが作法があるという話だが、これも核心はコミュニケーション力だ。
仕事の文章一つを例にしても、相手に伝わらなければ全く意味がない。
これらの本質は、一見簡単なようで、実は非常に奥深い。
先般、社内でも育成について議論したのだが、昔と比較して、各段に社員育成が難しくなっているのは間違いない。
新しい技術が次々と生まれているために、そもそも学ぶべきことが多すぎる。
さらに、先輩社員という経験が、新しい技術の前では全く意味を成さなくないのは、前述の通りだ。
生成AIはここほんの数年の話であるし、データ分析や、SNSマーケティングもほんの10数年程度の話だ。
しかも今現在も進行形で発展しているために、先輩社員が後輩社員に教えるという図式が、成り立たない場面もある。
もちろん、先輩社員だからこそ教えられることもある。
技術やノウハウではなく、それこそ人生の教訓だったり、人との接し方、困難に対しての対応だったり、ミスした際の立ち振る舞いなどは、経験豊富な先輩社員だからこそ教えられることだ。
そうなると、これらの切り分けが一番大事な気がする。
どうも、仕事のテクニックと、人間力的なところがゴッチャになってしまっているから、話がややこしくなっている。
仕事の作業的な部分は切り離して、チームメンバー全員で一緒に学ぶ姿勢が大切な気がするのだ。
このパターンが作れれば、みんなで話し合って、ノウハウを共有して時短していくことが出来そうな気がする。
これも、小さな成功を少しずつ積み重ねる、という一例なのかもしれない。
少しずつでもみんなで成果を共有すれば、「私にもできるかも」という感覚に繋がっていくような気がする。
本書の最終章で、「内部統制という言い訳を封じよ」という指摘があったが、これには腹落ちした。
時代の要請として、アメリカ型(ジョブ型)内部統制が導入され、これに無理矢理合わせようとしたメンバーシップ型の日本企業で大きな無理が生じたという話。
結局従業員は「やったふり」をするようになり、膨大なブルシットジョブが誕生したのだという。
これには、思い当たる節が多数ある。
「上に政策あれば、下に対策アリ」も、まさに真実。
制度を形だけ導入しても、実態が伴わなければ意味がない。
ガバナンス的にOKであればそれでよいはずなのに、過剰に対応していたら、それこそ無駄な仕事が増える一方だ。
上手にやるには、上手に手を抜くしかない。
本書で提案されている「噴水型・3営業日オプトアウト稟議システム」は、非常に合理的な解決策だと思う。
噴水型は、一度に同時に関係者に稟議を回覧してしまうこと。
今までのバケツリレー・バトンパス形式ではないため、どこかで承認が止まることがない。
さらに「オプトイン」(合意して捺印して進める)方式ではなく、「オプトアウト」(止めなければ合意したこととして進める)方式にすることは、本当に合理的だと思う。
それを「3営業日」と期限を切れば、さすがに3日以内に見ていなければ、合意したこととして進めてしまって良しとする。
何か問題が発生したら、止めればいいだけだ。
バケツリレーではないのだから、関係者全員が一斉に見て、気になった際は誰でも止められる。
そういう権限があることを、稟議規程にきちんと明記しておけば、ガバナンス上の問題はないはずだ。
このアイディアは非常にいいと思う。
当社でも是非取り入れたい。(実際はできない可能性が高いのだが)
こういう一つひとつの見直しが実は非常に重要なのだ。
小さなことからコツコツ改革していければ、社内の雰囲気もきっと変わっていくだろう。
大変参考になる良書だった。
(2024/12/23月)


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