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書籍【ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか】読了

https://booklog.jp/users/ogawakoichi/archives/1/B08L3BWSKS

◎タイトル:ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか
◎著者:佐藤 智恵
◎出版社:日経BP日本経済新聞出版本部


各日本企業の特徴が、米ハーバード大学の経営学で教材として使用されているなんて、日本人こそ知るべきではないか。
アメリカの大学で、学校の授業として日本企業が取り扱われている内容を紹介しているシリーズだ。
前著も読んでいるが、アメリカの大学のビジネス研究で、日本企業が分析されていること自体に驚きだ。
私も各種ビジネスには興味を持ってニュースなども見ている方だが、知らない事例も多く非常に参考になる。
日本人の我々こそ、国内企業の成功例を分析すべきであるし、さらに海外からどう見られているか、どう分析されているかを逆に知るべきであろう。
著者はそういう思いで本書も含めたシリーズとして執筆していると思うが、非常によい試みだと思う。
個人的に好きな話がいくつかある。

建設機械で有名な「コマツ」の事例は、日本国内でも有名なため、私も情報番組などで知っていた。
自動車業界では、EV化や自動運転の文脈で、如何にソフトウェアとしてのプラットフォームを築くかに注目されているが、建設機械分野でも同様の流れがある。
そこで頭一つ出ているのが、コマツということだ。
自動車のプラットフォームが完成したとしても、建設機械ならではの特徴があるために、単純な流用は難しいだろう。
だからこそ、コマツには一日の長がある。
建機製造というハードウェアの会社が、どうしてソフトウェアに着目できたのか。
その組織文化の変化の方が、非常に気になるところだ。
今後アジア、アフリカ地区の人口増加によって、都市開発が急ピッチで進んでいくだろう。
コマツの建機が世界で活躍するのは間違いない。
今後の建設現場で、コマツの重機が縦横無尽に稼働するのを想像すると、非常に楽しみだ。
日本発で、こういう世界的企業が生まれていることを誇りに思う。

「ディスコ」という会社があることも知らなかった。
近年、半導体製造が特に注目されているが、半導体製造装置の中で、極めて細かな作業を行える機器を販売しているという。
具体的には、半導体製造過程において、限りなく薄く綺麗に加工できる装置を提供している会社だ。
その技術力が強みであるが、ディスコはどうやってその技術力を獲得していったのか。
天才研究者の不断の努力を想像してしまうが、ディスコは組織力でこれらを成し遂げているというのが特徴だという。
私の所属する会社も、組織開発・人材開発に力を入れているが、なかなか結果が出せていないと感じている。
昔は仕事自体が細分化されており、それぞれの部門の中で結果を出せばよかった。
それが今は、横の連携が必須であるし、それぞれの良いところを結合させて新たなイノベーションを生み出し続けていく必要性が出てきたのだ。
仕事も益々複雑化しているため、細分化のやり方だけでは成り立たなくなってしまった。
イノベーションを生み出し続けなければ、競争力を保てなくなっている。
理想はイメージができていても、これを簡単に実行できないのが、世の会社のジレンマなのではないだろうか。
それを乗り越えて結果を出しているのが、ディスコという企業の強さなのだ。
「自立性と協調性の絶妙なバランス」と評しているが、これが出来ているのが素晴らしい。
施策の一つではあるが、「個人別管理会計システム『個人WILL』」というものを自社開発して運用しているのだという。
簡単に言えば、ディスコ内で仮想通貨的なポイントを発行し、そのポイントで人事評価が決まる。
あるプロジェクトを募集したい時に、総ポイント数を会社側が決めて発行する。
集まった人数はその総ポイントの中で、役割によって割り当てて配分される。
それらが給与に反映されるという仕組みであるが、この『個人WILL』ポイントも自社で最適化を図りながら、システム自体もチューンナップをどんどん行っていくという。
当社もピアボーナス的な仮想のポイントを社内運用しているが、給与にまでは反映させていないし、それが全社までは浸透していない部分がある。
ここまで徹底して浸透しているのは、システムが良く出来ているという点と、その前提として前述した「自律性と協調性」に対しての哲学がしっかり根付いているからだと思う。
どんな素晴らしいシステムを導入したとしても、企業文化が馴染まなければ形骸化してしまう。
そこで各企業とも苦労する訳であるが、ディスコはやり遂げている。
CEOの関家一馬氏を「独自の経営哲学を持ったリーダー」と評しているが、確かにみんなの合意だけで経営していたら、凡庸な会社になってしまうだろう。
どこを尖らせて、どうやって戦っていくか。
ここは経営トップの判断に大きく委ねられてしまうが、そこも含めて「自立性と協調性の絶妙なバランス」なのだろうと思う。
私の会社で『個人WILL』ポイントを導入しても、正直上手くいかないだろう。
しかしながら、考え方や発想は非常に参考になると思っている。
参考にできる点は真似して、活かしていきたい。

福島第2原発を救った「チーム増田」のエピソードも、心に響いた。
第1原発が悲惨な被害にあったのは周知のことだが、逆に第2は、卓越したチームワークによって、メルトダウンや爆発を回避したという。
この違いは何だったのか。明暗を分けたのは何だったのか。
当然、第1原発も危機を食い止めようと命を張って作業していたはずだ。
本書内では「心理的安全性」が明暗を分けたと解説されているが、話はそんなに単純ではない気がしている。
増田所長が、そもそも第2原発の隅々までを知り尽くした人であること。
さらに、その「増田所長が、隅々まで知り尽くしている」ことを、原発スタッフも理解していたこと。
これがリーダーに対しての、信頼に繋がっている。
そして危機の際に、増田リーダーが状況をホワイトボードにどんどん書き込んでいったのだという。
これによって、何がコントロール出来ていて、何が出来ていないのかが可視化された。
状況がリアルタイムで更新され、正しい情報をここに集約するために、スタッフが現場に行って最新情報をかき集めてくるという循環が生まれたという。
極限の状態でパニックにならずに、冷静に作業していけたのが本当にすごい。
人というのは、目に見えないものを不安に感じるものだ。
だからこそ、可視化して、皆に見えるようにした。
場合によっては、真実を伝えることで、スタッフを余計に不安にさせてしまう可能性すらある。
そこを敢えて、チームとして同じ情報を共有して、危機を乗り切ろうとしたリーダーシップが、卓越していたのだ。
ここまで極限の状況は経験できないと思うが、もし自分だったらこんな対応が出来ただろうか?
そんなことを想像しながら読み進めてしまった。

これらの事例が、ハーバード大学で教材として使用されているのは、本当に素晴らしいことだと思う。
単純なビジネスモデル研究だけでなく、組織論、リーダーシップ論までに内容が及んでいる。
どうやら日本企業の中に、我々にとって当たり前と思える「基本」が備わっているらしい。
まずはそこに気が付くことが、これから益々複雑化するビジネス環境の中で、どうやって戦っていくかのヒントになるような気がしている。
改めて「基本が大事」ということを、心に留めておきたい。
(2024/12/12木)


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