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書籍【日本人の真価】読了

https://booklog.jp/users/ogawakoichi/archives/1/B0B6FBZ2KX

◎タイトル:日本人の真価
◎著者:藤原正彦
◎出版社:文春新書


著者の言葉の端々から伝わる人生の言葉が非常に奥深い。満州からの引き揚げの話だけでも、壮絶な人生を物語っている。
今の平和な世界は平穏で素晴らしいことかもしれないが、実はその生活は、薄氷のように崩れやすい上でかろうじて成り立っていることを忘れてはいけない。
人生とはそもそもは儚いもので、諸行は無常である。
幸せな日々を送っていても、一瞬の災害で過酷な状況に陥ることもあるだろうし、事故に遭って今までの生活ができなくなることだってあるだろう。
普段からそれら最悪の事態を想像することは難しいのだが、ほんの心の片隅にも、そういうことが起こり得る、という気持ちを持てるかどうか。
それがつまり、危機意識と言えるのだと思う。
だからこそ「今の人生を精一杯生きよ」という言葉は、非常に重みを感じる。
この世は浅はかで移ろいやすいから、今この瞬間を大切にせよ。
人との出会いを大切にして、一期一会の精神で生きること。
極めて当たり前のことであるが、今は大人が子供に教えるべきことを、教えられずにいるような気がする。
この日本人の感覚があるから、わびさびの世界も生まれたのだと理解できる訳で「我々日本人とは何か?」を問い続けることは、自分自身を知る上でも非常に重要なことだと思うのだ。
そんな我々日本人は世界に対し、どんな価値を提供しているのか。
著者は海外の大学でも活躍した数学者。
およそ一般的な日本人からはかけ離れていると思うが、海外生活が長い著者だからこそ、外側から客観的に日本という国家、そして日本人を眺めることができた。
世界中を旅している著者であるが、旅先で現地の人々に話しかけるエピソードがそれぞれ素敵で印象的だ。
特にヨーロッパの各国は、日本とは大きく違って、暮らす国家と〇〇人というアイデンティティーが食い違っている場合が多い。
普通の日本人には見分けがつかないし、その文化的な背景や歴史まで理解していないと、相手の語る言葉の意味まで探るのは相当に難しい。
ある国に出稼ぎに来ている他国出身の人と会話して、その人の故郷の村について知っている話をして仲良くなるなんて、普通の日本人にはできないだろう。
著者の誰も傷つけないユーモラスさも、相手を安心させるのだろうと思う。
そんな数々のエピソードの中から、日本が今後どうすべきか、という深い内容が出てきたりする。
著者が本当に日本の将来を憂いているのが伝わってくる。
世界から眺める日本は、どうにも心許なく見えてしまうのだろう。
日本の未来のために、覚悟を持って生きている人がどれだけいるのか。
若者だけでなく、全世代が未来の日本を考える必要がある。
数々の海外エピソードが収録されているが、私が最も気に入ったのは結果的に日本国内での旅の話。
確か京都だったと思うが、寺を回って散策していると、掲示されている言葉がふと目に入ったのだという。
その言葉とは「これからが、これまでを決める」というもの。
著者も、あれ?と思って引き返して見直したというのだが、これは深い言葉だ。
原因と結果の考え方で言えば、「これまでが、これからを決める」ことの方が正しいと思う。
現実的に我々は、過去散々行ってきた人生の積み重ねが、自分の未来に影響を与えていると信じ込んでいる。
しかし、ここでは敢えて逆に言葉を並べているのだ。
後で調べてみたら、京都・東本願寺の門前に掲示してあった言葉だそうだ。
その文言に「これから(の生き方)が、これまで(の意味)を決める」と、言葉を補足すると、その解像度が一気に上がる。
変えることも消すこともできない「これまで」(過去)は、「これから」(未来)の生き方次第で、その価値を大きく変えることができる。
こんな素敵な言葉はない。
普段見過ごしがちであるが、日常の中で、如何に「これから」が大事であるか。
常に未来について考える。
例え歳をとっても、常に考えて行動するのは、「これから」のためであるべきだ。
過去、どんなに後悔するような行動をしたとしても、その事実は変えられない。
しかし、これからの生き方だけは変えることはできる。
普段こういう言葉に出会っても、もしかしたらその意味の深さを感じ取れないかもしれない。
著者の感性だからこそ、寺の掲示にも「おや?」となれた。
旅は、心の感性を磨き、モノを多視点で多角的に捉えることができるようになる。
私も旅をして、日本人の真価を発揮したいものだと思った。
(2024/12/26木)


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