![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/157126640/rectangle_large_type_2_3df3bec4461d350d7fc817d6f9935dd7.png?width=1200)
Photo by
yurina55
みかん盆のある静物
祖父の葬式で、久しぶりに母の実家に行った。自宅葬だったので親戚は皆準備に明け暮れており、誰からも相手にされない私はスーパーに食料を買い出しに行った。葬式が終わるまで肉と魚は食べられないと言われたので、おにぎりや煮物を買い込んだ。フライドポテトの前で、これは…と迷ったが、なんだか不道徳な気がしてやめた。買い物カゴの中は辛気臭かったが、葬式なのだから仕方ない。ふと、早もののみかんが目にとまった。爽やかな香りのする青いみかんは、いかにも栄養が詰まっていそうだったので1籠買って帰った。
家に帰り、買ったものを机に並べる。マラソン大会の休憩所みたいにおにぎりをたくさん並べた。みかんを木製の盆に積み上げると、えもいわれぬ安心感があった。そういえば祖父母の家にはよくみかんが盆に盛られており、私の実家でも同様の風景があった。みかんの青から橙へのグラデーションと仄かな柑橘の香りが私の心を明るくした。それはみかんでなければならなかった。親戚がメロンを持ってきていたが、メロンじゃてんで駄目だ。バナナでもオレンジでも駄目である。芥川龍之介の「蜜柑」を思い出し、やはりあれもみかんでなければ成立しない物語であり、みかんというのは郷愁を感じさせる果物なのだと一人合点した。
いつか私が絵画をすることがあれば、セザンヌのようなタッチでみかん盆のある静物を描こう。モチーフは決まっている。盆に盛られたみかんと、新聞紙と、TVのリモコンである。