見出し画像

あなたの会社は大丈夫?成功企業が陥る「衰退」の5つの段階

企業倒産や廃業が増えていると聞きます。新型コロナウイルス感染症対策で多くの企業がゼロゼロ融資を受け、何とかつないできましたが、コロナ禍が過ぎ去り、融資返済が始まったことで倒産や廃業に至ってしまったものと思われます。一方で、コロナ禍をうまく乗り切り、より強固になった企業があることも事実です。

この差はいったい何なのでしょうか?

今回は、2010年発刊のジム・コリンズさんの「ビジョナリーカンパニー③ 衰退の五段階」を紹介します。


「ビジョナリーカンパニー」とはなにか

本書は、ビジョナリーカンパニーシリーズの第三弾に当たります。ビジョナリーカンパニーとは、第一弾の「ビジョナリーカンパニー」で次のように定義されています。

  • 業界で卓越した企業である

  • 見識のある経営者や企業幹部の間で、広く尊敬されている

  • 私たちが暮らす社会に、消えることのない足跡を残している

  • 最高経営責任者(CEO)が世代交代している

  • 当初の主力商品のライフサイクルを超えて繁栄している

  • 1950年以前に設立されている

ビジョナリーとは、「先見性がある」といった意味ですが、これらの定義を満たす企業は相当にすごい企業だと言えます。

ビジョナリー・カンパニーの衰退を調査

第三弾である本書は、永遠に続くのではないかと思われる、こうした企業が衰退しているという実態を踏まえて、そのプロセスを調べてまとめたものとなっています。

コリンズ先生は、この衰退のプロセスを明らかにするため、偉大な業績をあげるまでになったがその後に衰退した企業を対象に選び、「衰退があきらかになる時点までに何が起こったのか」「衰退しはじめたときにどのような行動をとったのか」に答えることを目標に調査したそうです。

衰退の五段階

こうして調査された結果は、「衰退の五段階」としてまとめられました。コリンズ先生もこれが企業衰退の絶対的な枠組みではないものの、偉大な企業がいかにして衰退しうるのかを部分的にも理解することに役立つものだと述べています。

企業衰退の五段階は次のような流れになっています。

  1. 成功から生まれる傲慢

  2. 規律なき拡大路線

  3. リスクと問題の否認

  4. 一発逆転策の追求

  5. 屈服と凡庸な企業への転落か消滅

出典:「ビジョナリーカンパニー③ 衰退の五段階」ジム・コリンズ(日経BP社)

1. 成功から生まれる傲慢

一つずつ見ていきましょう。
まず「成功から生まれる傲慢」です。

偉大な企業は成功のために現実の厳しさから隔離されうる。勢いがついているので、経営者がまずい決定を下すか、規律を失っても、企業はしばらく前進できる。第一段階がはじまるのは、人々が高慢になり、成功を続けるのは自分たちの当然の権利であるかのうように考えるようになり、当初に成功をもたらしてきた真の基礎的要因を見失ったときである。
(中略)
成功したときには運と偶然が関与した場合が多いが、運が良かった可能性を認識せず、自分たちの長所と能力を過大評価する人は、傲慢に陥っているのである。

出典:「ビジョナリーカンパニー③ 衰退の五段階」ジム・コリンズ(日経BP社)

このことは成功しているが故に意識せずに傲慢な態度に陥っている可能性があることを指摘したものです。別の言い方をすれば「顧客第一を放棄している」ということになろうかと思います。自社の本業が何で、何が顧客から受け入れられて成功したのかを自問することが大切ではないでしょうか。これを怠ったとき、顧客の離反が始まり、売上が減っていくのだと思います。

2. 規律なき拡大路線

次に「規律なき拡大路線」。

第一段階の傲慢(「われわれは偉大であり、何でもできる」)から直接に生まれるのが第二段階の規律なき拡大路線である。規模を拡大し、成長率を高め、世間の評価を高めるなど、経営陣が「成功」の指標だとみるものはなんでも貪欲に追求する。第二段階の企業は当初に偉大さをもたらしてきた規律ある創造性から逸脱し、偉大な実績をあげられない分野に規律なき形で進出するか、卓越性を維持しながら達成できる以上のペースで成長するか、その両者を同時に行う。

出典:「ビジョナリーカンパニー③ 衰退の五段階」ジム・コリンズ(日経BP社)

自らの偉大さを過信するが故に成功間違いなしとの思い込みから拡大していくことを指摘していますが、偉大な企業になった成功によって、外野から賞賛されることが大きく関与しているのではないかと思います。というのも、よくマスコミに成功事例として取り上げられ、やり手経営者として持ち上げられた企業が、少し経つと経営が厳しくなったとか、名前を聞かなくなったということをよく聞くからです。

事業拡張するにしても、それを実行できるだけのケイパビリティが内部にあるのかを問わなければなりません。それをスルーしたとき、顧客離反の加速とともに顧客獲得の未達となって現れ、それが売上減少につながってしまう結果になります。

3. リスクと問題の否認

第三段階は「リスクと問題の否認」です。

企業が第三段階に移行すると、内部では警戒信号が積み重なってくるが、外見的には業績が充分に力強いことから、心配なデータを「うまく説明する」ことができるか、困難は一時的」か「景気循環によるもの」か「それほど悪くないもの」であって、「基本的な問題はない」とほのめかせる。
(中略)
業績な好調だったときの経営陣は、事実に基づいて活発な議論を闘わせていたが、そうした議論は低調になるか、まったくみられなくなる。上に立つものが大きすぎるリスクをとって企業を危険にさらすか、リスクをとったときの結果を考えずに行動するようになると、第四段階に突入することになる。

出典:「ビジョナリーカンパニー③ 衰退の五段階」ジム・コリンズ(日経BP社)

人は誰でも嫌なことは見たくないものです。しかし、その見たくないところに真実があることも人の世の常です。トラブルが小さいうちは応急措置をすることで何とか乗り切ることができます。しかし、それはあくまで応急措置であり、根本的な解決でないことは往々にしてあります。

応急措置を続けることで「問題なし」と勘違いし、本当の問題に目を向けないでいるならば、顧客との乖離が始まっているのかもしれません。そして、あくまで外的要因によって厳しくなっているので、それが過ぎ去ることで業績は回復すると信じたがりますが、それが状況をさらに悪化させます。それらは資金繰りが厳しくなるという症状になって現れます。

4. 一発逆転策の追求

第四段階「一発逆転策の追求」。

第三段階にでてきた問題とリスク・テークの失敗が積み重なって表面化し、企業の急激な衰退が誰の目にもあきらかになる。このとき決定的な問題は、指導者がどう対応するかである。一発逆転狙いの救済策にすがろうとするのか、それとも当初に偉大さをもたらしてきた規律に戻ろうとするのか。一発逆転策にすがろうとするのであれば、第四段階に達しているのである。
(中略)
劇的な行動をとったとき、当初は業績が良くなったように、みえるかもしれないが、長続きしない。

出典:「ビジョナリーカンパニー③ 衰退の五段階」ジム・コリンズ(日経BP社)

一発逆転の誘惑はとても強いものがあります。世の中の物語をみれば一発逆転に溢れています。この段階になるとさすがにうまくいっていないことは自覚しているでしょう。ただ外的要因による失敗だから、それを断ち切るためにも一発逆転策が必要なのだと自らに言い聞かせてしまいます。

客観的に見れば、顧客第一に立ち返ることが最善にして最短の道になることが明らかであっても、それを受け容れるのは困難です。自らが失敗したのだと認めることはとても難しいことです。できれば、なかったことにしたいと思いますが、それが叶わぬなら一発逆転にかけるしかないと思い込んでしまいます。

こうなってくると、顧客との乖離はますます広がります。それは資金繰りのさらなる悪化という形でやってきます。

5. 屈服と凡庸な企業への転落か消滅

最後は「屈服と凡庸な企業への転落か消滅」です。

第四段階が長引くほど、そして一発逆転狙いの方策に何度も頼るほど、悪循環に陥っていく可能性が高まる。第五段階には、後退を繰り返し、巨費を投じた再建策がいずれも失敗に終わったことから、財務力が衰え、士気が低下して、経営者は偉大な将来を築く望みをすべて放棄する。会社の身売りを決める場合もあり、衰退して凡庸な企業になる場合もある。極端な場合には企業が消滅する。

出典:「ビジョナリーカンパニー③ 衰退の五段階」ジム・コリンズ(日経BP社)

こうなると打つ手なしというところでしょうか。事業を終わらせるしか方法がなくなります。凡庸な企業への転落とありますが、これは偉大な企業になったからこそ至ることができる道であり、普通の企業は倒産でしょう。

衰退からの再構築

それでは、衰退のプロセスに入ったら必ず消滅するのでしょうか。

コリンズ先生は、本書で少なくともここ百年という期間で見た場合、すべての企業がいずれ必ず解体し消滅するという事実はないとしており、偉大な企業はかなり悪い状態になったとしても回復する場合があるとしています。第五段階まで転落しない限り、永続するに値する偉大な企業は再構築できるということです。

では、具体的にどのように回復したり、再構築したりするのでしょうか。

コリンズ先生は次のようにまとめています。

  • まだ転落していないのであれば、危機を騒ぎ立ててはいけない。存在しない危機に対して危機だと言い立てて、足元に火がついて間もなく猛火に包まれ崩壊すると叫んでいては皮肉な見方を生むだけになる。なぜなら、適切な人材は足元に火がついていようがいまいが前進しようと努力し、他人を操ろうとしないからだ。

  • すでに衰退がはじまり、正真正銘の危機に直面しているのであれば、一発逆転策にすがるサイクルから早く抜け出すことである。回復への道は何よりも健全な経営慣行と厳格な戦略思考に戻ることである。何よりもまず資金の流出を止め、現金不足に陥らないようにしなければならない。その上で経営規律を固守する必要がある。

  • 現代社会では破壊的イノベーションによって急激に秩序が書き換えられる。こうした時期に衰退の段階(傲慢や規律なき拡大、問題の否認、一発逆転策の追求)に陥っていれば、安定した時期よりも転落は速く激しくなる。

  • 衰退の段階に陥っているのであれば、堅実な経営規律に今すぐ戻るべきである。衰退の初期の兆候が現れていないか注意を怠らず、各自に選択によって回復できる可能性は常にある。

衰退の段階に入ったとしても回復できるし、本書ではそうした例を掲げています。大事なのは、この衰退の五段階を知った上で、自社がそうした衰退の兆候に陥っていないかを常にチェックし、堅実な経営規律を持って対応することであると思います。

コリンズ先生は堅実な経営規律について、ドラッカー、ポーター、デミング、ピーターズとウォーターマンなどの古典的な名著を読むといいと提示しています。

多くの企業にとって、顧客から支持が得られている本業というものがあり、その本業が企業を安定させているのだと思います。本業が何なのか、本業での価値は何なのか、自社が支持を得ている根拠は何なのかを常に問い直していくことが衰退の段階に入ったとしても回復する道筋なのだろうと思います。

意識して傲慢になる人はいないと思いますが、人は成功すれば自分の力で達成したのだと思ってしまいます。これが傲慢の苗床なのだと思います。傲慢にならないためにも、この成功は運や偶然が働いた結果だと常に意識したいものだと思います。

寄稿: Hikko.Yama

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?