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エクセレントカンパニー 超優良企業の条件

超優良企業には共通する特徴があった。数多ある企業の中で抜きん出た企業は、それぞれの分野において他とは違った強みで卓越性を示しており、一見すると共通点がないように思われます。しかし、組織という観点で俯瞰したとき、そこには共通した卓越性が浮かび上がってきます。

今回は、1983年発刊のT・J・ピーターズさんとR・H・ウォーターマンさんの共著「エクセレントカンパニー 超優良企業の条件」を紹介します。発刊当時、お二人はマッキンゼー・アンド・カンパニーに勤めており、その活動の中でエクセレントカンパニーの条件を調査したものです。翻訳は同じマッキンゼー出身の大前研一さんです。


超優良企業の条件を探る

本書は、アメリカにある62社をサンプルとして調査した結果から超優良企業の条件を導き出したものです。ピーターズさんとウォーターマンさんはこの62社についてアメリカの全産業を代表するものではないとしながらも、先端技術産業、消費財産業、一般工業製品産業、サービス業、エンジニアリング会社、資源関連企業を幅広く網羅しています。また、優良さの判定基準に財務的な六つの指標を取り入れています。

  1.  1961年から1980年までの年平均資産成長率

  2. 1961年から1980年までの年平均資本金増加率

  3. 市場価格対帳簿価格の比率

  4. 1961年から1980年までの使用総資本利益率の平均

  5. 1961年から1980年までの資本金収益率

  6. 1961年から1980年までの売上高収益率

超優良企業とは

では、そもそも「超優良企業」とは何でしょうか。ピーターズさんとウォーターマンさんは次のとおり定義しています。

私たちが主張したのは、新基軸を打ち出せるような、つまり革新的な企業とは、新製品を出して大きく売上げを伸ばしていく能力にことに優れているばかりでなく、周囲のあらゆる変化に器用に対応していく能力がとくに秀でた企業なのである、ということだった。
(中略)
顧客のニーズが変わり、競争会社の技術が向上するに応じて、大衆の好みが移り、対外貿易におけるさまざまな力関係が変化し法律が変わるのに応じて、こうした企業は進路を変更し、改善し、調整し、変容し、適応する。つまり企業体質そのものが“変革的”なのである。
(中略)
この種の革新をなしとげていると思われる企業が、すなわち、私たちが「超優良企業」と定義したものであった。

「エクセレントカンパニー 超優良企業の条件」T・J・ピーターズ R・H・ウォーターマン(講談社)

マッキンゼーの7S

革新を成し遂げるのが超優良企業とすれば、どういった視点で成功したと判断するのでしょうか。それに対して、「マッキンゼーの7S」と呼ばれるフレームワークを活用するとしています。機構(Structure)戦略(Strategy)システム(Systems)共通の価値観(Shared Values)スタイル(Style)スキル(Skills)スタッフ(Staff)の7つの要素からなり、これらの頭文字をとって「7つのS」と名付けられています。


マッキンゼーの7つのS

このフレームワーク以前の分析では、戦略と機構面からのアプローチで、主にハードウェア的な要素に限られていました。これ以外の5つのSについては、非合理で直感的かつ反・公式的で御しがたいものと思われ、扱われてこなかったと指摘しています。しかし、実務においては、ソフトウェア的な要素である5つのSにこそ、経営者が配慮し、考えなければならないことが含まれています。「7つのS」が有用なのは、これまでの組織の見方を更新したことにより実務的なフレームワークになっているところです。

7つのSは意味のある配置

この「7つのS」の配置を見たとき、それぞれの要素は相互に不可分な関係にあるだけでなく、意味のある配置になっていると思いました。

  • 中央の縦三つの要素「機構・共通の価値観・スタッフ」は実際の形ある組織を構成する要素として基軸となっている

  • 左側は組織の方向性を示す「戦略」とそれを実現する「スキル」が位置付けられている

  • 右側は組織を運用する制度としての「システム」とそれを機能させる組織文化としての「スタイル」が位置付けられている

この「7つのS」は、そもそもマッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルティングの中から生み出され、コンサルティング現場で使われてきたものです。そのため、何に主眼を置くかによって違うバージョンも存在します。

次の図は、大前研一さんの「マッキンゼー成熟期の成長戦略(1981年発刊)」の中で紹介されている「7つのS」です。全社戦略を考えるときに、それぞれの要素が制約条件になっていないかをチェックするときに活用することが紹介されています。そのため、すべての要素が「戦略」に向かっている収斂している形となっています。 


マッキンゼーの7つのS(「マッキンゼー成熟期の成長戦略」より)

この配置は、ピーターズさんとウォーターマンさんが説明したハードウェア的要素である「機構・戦略」が上段に、ソフトウェア的要素である「企業目的・経営システム・スタイル・能力/スキル・スタッフ」が中下段に配置されています。この配置は次のように整理できます。

  • 上段:事業の方向とそれに応じた組織の形(何をやるのか)

  • 中段:組織それ自体を運用する仕組み(どのようにやるのか)

  • 下段:人と人が持つスキル(誰がやるのか)

いずれの図においても、それぞれの要素が不可分な関係で機能することで卓越性を発揮して「超優良企業」になるということです。

エクセレントカンパニーの8つの特質

こうして調査された企業に共通する基本的な特質とは何でしょうか。ピーターズさんとウォーターマンさんは「何よりもビジネスの基本的なところで優れている」ことをまず挙げています。さらに「複雑な世の中で必死に物事を単純にする努力をして、その努力をあきらめない」だともいっています。そして二人は8つの特質を挙げています。

  • 1. 行動の重視: どんどんやれということ。実験精神が旺盛なこと。フットワークが軽いこと。

  • 2. 顧客に密着する: お得意様から学ぶこと。最上の品質とサービスと信頼を提供すること。

  • 3. 自主性と企業家精神: リーダーと創意ある社員がいること。実践的なリスクを奨励すること。

  • 4. ひとを通じての生産性向上: ひとを品質及び生産性向上の源泉に位置付けていること。

  • 5. 価値観に基づく実践: 組織の持つフィロソフィーが企業業績をつながっていることをわかっていること。

  • 6. 基軸から離れない: 自分たちが熟知している業種にある程度固執すること。

  • 7. 単純な組織・小さな本社: 管理層が薄く、本社管理部門が小さいこと

  • 8. 厳しさと緩やかさの両面を同時に持つ: 現場の自主性が尊重されること。企業の中核となる価値観は中央集権であること。

これら8つの特質は目新しいものではありません。ピーターズさんもウォーターマンさんも本書の中で特別なものではないと述べています。つまり、これらの特質を一言でいうと「ひとがいちばん大切な会社の財産だ」に凝縮されます。

しかし、どうでしょうか。口ではひとが大切だと言いながら行動がそれに伴わないということが起きているかを我々は知っています。超優良企業は、言葉どおりに「ひととの密接なかかわり合いを実践する」ことで、熱意が企業内に漲り、その熱意が業績につながっているということなのです。

本書で取り上げられた「エクセレントカンパニー」の20年後、深刻な危機に見舞われた企業がほとんどだと言われています。周囲の変化に器用に対応する会社を「超優良企業」と定義していましたが、変化に適応するは容易なことではないと分かる出来事といえます。

永続することが困難だからこそ、ここで示された8つの特質を踏まえた企業経営が求められるのだと思います。また、それを分析するためのフレームワークである「マッキンゼーの7つのS」も企業力を振り返るための有効なツールと言えます。

中小企業もエクセレントカンパニーを目指して歩みを進めることで持続可能な経営ができるのではないでしょうか。


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