夜中の格闘
●【許さない……!】
昨日の夜のこと。
今朝がいつもより早く起きないと行けなかったため、いつもより早く消灯。
豆電球すらつけず、真っ暗にして、僕はアイマスクまでして、寝ることに集中していた。
寝ているとなんだか指が痒くなった。
妻はしきりに耳の近くを払う仕草をしている。
ムズムズする嫌な感覚。
正体はすぐに分かった。
蚊だ。
早く寝るために消灯したんだ、相手にするまい、としばらくアイマスクを外さず頑なに爆睡を決め込んでいるアピールをしたが(誰にアピールしたかは分からないが)、指の痒みから派生する小さな不快感は予想以上に大敵だった。
妻の耳元にもどうやら何度か襲来している模様。
こらえきれず起きる2人。
電気をつけて指先を見ると、ぷっくら膨れており、かゆみが余計に強くなった。
妻の足と手首もおなじく膨れ上がっている。
アイマスクを目の上に外し、メガネを装着。せっかくポカポカ暖かい機能があるのに、どんどんヌルくなっていく。なんの罪もないアイマスクが、1匹の蚊の自分勝手な行動によって犠牲になった……。
許さない……。
僕と妻は立ち上がり、顔を見合わせ、コクリと頷いた。
これは蚊から挑まれた戦いだ。
このまま放っておいたら暖かったアイマスクが浮かばれない。
この憎き敵を成敗するまで、僕らはもう、眠れない。
蚊と大部の全面戦争が始まった。
妻は「耳に蚊が入ったらどうしよう」と心配してすぐ、自ら「オリーブオイルを耳に入れるといいらしいよ」と怖いことを言っていた。
平和な寝床を取り戻すためにはどうすれば良い?
妻は即座に調べた。
「蚊 寝れない」「蚊 撃退」「蚊 夜中 退治」
など。
すると、怒りの溢れる記事がたくさん見つかった。
すでに数多の被害者たちがいた。そしてその被害者たちが涙を流しながら書き記した記事には、僕らと同じ想いが込められたタイトルがついていた。
【許さない】部屋の中にいる蚊を最速で見つける方法と捕まえるコツ
(カッコ書きなところに怨念を感じる……)
記事によると、
・二酸化炭素に寄ってくる。
・暗いところ、暖かいところが好き。
・叩くときは上下から叩く(左右の動きに弱い)。
・囮に『汗のしみついた下着やTシャツ』などを置いておくと良い。
などなど……。
有益な情報ばかり書いてあった。
それと、僕は寝る直前まで鬼滅の刃を読み倒していて、なぜだか、
蚊を倒す俺=鬼を退治する鬼殺隊の一員
の図式になってしまった。
普段全くアニメ漫画を観ないのに、2日間くらい没頭していたせいか、完璧なミーハーアニメかぶれになってしまっていた。かぶれたのは指だけではなかった。(やかましいわ)
そんな調子でますます燃えてきてしまった僕は、
妻と背中合わせになり部屋を見回し、
「どこだ!?出てこい!」と部屋中に言ってみたり、
5秒に1回くらい「クッッ」とかいいながら眉間にしわ寄せ苦い表情を浮かべたり、
背中にいる妻に「大丈夫かっ!?」って首だけ向きながら心配してみたり、
頭の中で考えていることを全部口に出してみたり、
全集中の呼吸をしてみたり、
「考えろ……考えるんだ……」って言ってみたり、
……と、
とにかくドラマティックに蚊を探した。
ドラマティックさに重きを置いたせいで、記事で学んだことはすっかり飛んでいってしまっていた。
目を凝らしていたら、蚊が飛んでいた。
呼吸に意識を集中させて、相手の動きを読み、攻撃をしかけた。
蚊をやっつけることに全神経を集中させていたため技名は覚えていないが、とてつもない大技を繰り出しまくった(パンパン手を叩きまくった)。
掌を見ると、そこにはなにもいなかった。
攻撃は当たっていなかった。一応、手は洗った。
しばらくすると再び蚊は登場。
全集中の呼吸で技を繰り出す僕。
掌を見る。なにもない。一応、手は洗う。
そんなことをもう2回くらい繰り返した頃だろうか。
妻は「眠いね」と言った。
確かに眠かった。それに、いつの間にか指のかゆみも治まっていた。
妻も足と手首の腫れがひいていたので、最後にもう1回だけ一応手を洗い、今度はスタンドライトを枕元にもってきて、暗闇にならないよう工夫してみた。
無駄に動き回って体が起きてしまい寝れるか心配だったが、寝る前につけていた温度の下がりきったアイマスクをつけてみたら、意外と早く寝れた。
アイマスクは暖かさじゃないこと、漫画を読んでも別に強くなんてなれないことを学べた夜だった。
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