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進むほどに無知を知る

僕の専門は店舗設計とデザインです。

路面店や商業施設なんかに入るお店を作るのが仕事で、時には商業施設そのものを設計・デザインする時もあります。

独立前は業界大手の設計施工会社でデザイナーとして働いていたので、新丸ビルの四川料理店や有楽町丸井のセレクトショップなんかがデビュー戦でした。

その後5年間で大きいやつだと高速道路のサービスエリア(三芳の上り線、横川の下り線etc)なんかをチームで担当しました。


業界に入る前は楽勝だと思っていた

母子家庭だったこともあり、学生時代に奨学金が欲しくて結構がんばってたのでそれなりに評価も良くて、こりゃすぐ有名になっちゃうんじゃない?なんて調子に乗ったまま就活も2ヶ月ほどであっさりクリア。

3年くらいで独立して...なんていう生意気な新人にありがちな感じでした。

ところがですね、実際に店舗設計に関わってみると、いわゆる表層的な部分じゃないハード面がもうめちゃくちゃ大量にあるんですよ。

これが習得するのが結構大変でして、未だに日々勉強で進むほどに自分の無知さに呆れる日々です。

まぁある意味ではこれが参入障壁になっているから僕の仕事があるんですけどね。ちょっといい感じなインテリアの絵を描けるだけだとお店は作れません。

いい感じなPintrestの画像を集めてコラージュするだけじゃリアルには実現できない。だから、ちゃんとそれなりの報酬をもらって形にする設計デザインのできる人物が必要になるのです。


店舗づくりに関わる知識もろもろ

ひとくちにお店づくりといっても色々あるのですが、特に飲食店の場合はハード面の知識が膨大です。

なぜなら、飲食店には心臓部とも言える厨房が必要になり、その作り方は業態業者はもちろん、提供するメニューやシェフの考え方ひとつでまるで違う。

電気、ガス、水道、空調、換気、これらの設備面の知識は必須。さらに場所によってはハートビル法や各種地域条例も抑えなきゃならない。

出店する商業ビルが大規模であれば、全館避難安全検証法という避難計画も出てきます。特にこだわった施設ほど大臣認定のルートCと呼ばれるもっとも難易度の高い検証法をとることが多く、計算書式やら根拠図やら提出書類も多い。。。

おまけにこれら全てが工事費用と工事期間に関わってきます。つまり、お金と時間のコントロールも必要になる。

膨大な知識に技術、保健所や消防署との協議etc...これらはあくまでもハードウェアであって、さらにデザインスキルやマーケティングスキルや商品知識などのソフトウェアの知識や技術やセンスも必要になります。


これ全部できるの!?と思いますよね。もちろん、できません。

それぞれには専門の設計技能が必要であり、厨房であれば厨房設計士、設備についても建築設備士や消防設備士といった資格も存在しています。

それらを統括してお店を作るのが店舗設計士でありデザイナーです。全てを細かく知らずとも、大要を把握してコントロールする総監督の立場なんです。


デザインの頂は遥か遠く

いわゆる業界としてのデザイン業界で活躍するには、業界団体の賞を受賞することが王道と言われています。

でも、実際には賞を受賞したお店が数年たたずに廃業していることも珍しくありません。

これは賞を与える業界団体自体が適切な評価をできていないことを表していると僕は感じています。デザインとは表層ではないとうたいながら、表層で評価していることに他ならないからです。

一概に潰れないで売れるお店が最高のデザインであると言うつもりもありませんが、おしゃれであるあまりに使いづらいお店や、トリッキーな見た目であっという間に消費され飽きられるお店よりも、ユーザーに長く愛されるお店の方が良いデザインだと思っています。

(期間限定のポップアップショップなどは別です。いわゆる常設店舗の場合です。)

そうした意味でも、全てが高いレベルで調和したお店作りを目指すには、その頂は険しく遥か遠い。

キャリアも15年近くなりましたが、進むほどに頂上は離れていくようです。いかに自分が無知かを思い知らされる日々です。

そのぶん生涯の仕事として挑戦しがいのある、難易度の高い仕事だと最近は感じています。願わくば、明日は今日よりも一歩でも前進できるように。

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