
翻訳者が受注時に確認したいこと
翻訳を「きちんと内容を伝える」ものにするには、クライアントの協力が不可欠です。翻訳にかかわる多くの方が「翻訳は単に文字を変換する作業ではない」と述べていますが、伝わる翻訳にするには文脈が必要です。
そのためには、訳そうとしている素材の背景を知るための情報が必要です。今そこにある文章やフレーズ、単語、文字というのは、それだけで伝えたい情報の100パーセントを伝えていないことがあります。(この話は7/20のstand.fm 朝活で詳しくお話ししています)
例えば映像の中の音声やセリフを訳す場合、それがどんな場面で発せられた言葉なのかによって意味が変わります。まったく同じ言葉でも文脈によって意味が違う場合があります。
インタビューの文字起こしを訳す場合も、どういう関係性の相手と話しているのか、どんな背景があるなかでこの話をしているのか、お互いどの立場で話しているか、などの状況によって発せられている言葉の意味が違う場合があります。
原文が示している言葉の意味が違う場合は訳文にも反映させないと伝わりません。私たちが訳しているのは文字ではなく、内容ですから、その内容を伝えるためには、そこにある翻訳対象の文字列だけでは情報不足という場合があります。
毎年発行されている文章を訳すのであれば過去資料からの情報を踏まえていないと正確に意味が伝わらない場合、本やマニュアルの目次を訳すときはその章の内容を把握してからでないと文字通り訳だけでは意味が伝わらない場合もあります。
翻訳者が「背景情報の参照とするために情報をください」というのはこのように、しっかりと文脈を伝える訳にするためなのです。
インターネットを駆使すれば調べがつく情報もあります。しかし、内部の人にしか分からない情報はそれだけでは限界がある場合もあります。
また、意味を正確に伝えるだけでなく、クライアントが希望する訳文のスタイルというものもあります。どういうトーンで訳して欲しいのか、いつもはどのように訳されているのか、どういう層に読まれる想定でどんな文体で訳して欲しいのか、それによって翻訳者は文章を変えます。
要望をしっかりと明確に把握できればできるほど、それに近い訳を出すことが可能になります。
クライアントの要望にできるだけ近い訳を出すために、翻訳者が受注時に確認したい項目というのをまとめてみました。
■納期
■翻訳範囲(本文以外に画像の中の言葉やパワーポイントのノートも翻訳するか等)
■納品形態(ツール使用の有無・ある場合はバージョン)
■訳文の用途・ターゲット読者
■複数ファイルがある場合、ファイル毎の都度納品か全ファイルまとめて納品か
■スタイルガイドの有無
■翻訳メモリ・用語集の有無
■参考資料の有無(どの程度準拠すべきか)
■過去訳はあるか(参照用なのかきっちり踏襲すべきか)
■映像はあるか(映像の翻訳の場合)
■音声はあるか(対談文字起こしなどの場合)
■調べがつかない固有名詞の扱い方(事前に提供いただくかこちらで暫定的に一般的な訳をあてて納品しお客様に後で差し替えていただくか)
■常体、敬体どちらにするか(和訳の場合)
■品質で気になっていることや改善して欲しい点等はあるか
このような内容が事前にわかっていると、より正確で伝わりやすい訳になると思います。
上の項目は下のチェックリストにしましたので、よろしければダウンロードして自由にご活用ください。(他にも何か足した方が良いことなど助言がありましたら私の各種SNSのいずれかまたはポータルサイトの問い合わせフォームからご連絡いただけると幸いです。)