毒舌だが食に関わる人は必読の書、関わらない人が読んでも面白い | 「食の歴史」(著者:ジャック・アタリ 訳:林昌宏)
こんにちは
イデアレコードの左川です。
以前から読もうと思いながらも敷居が高そうで敬遠していた「食の歴史」ですが、改めて食に関する本を多角的見ておきたくて読んでみました。で、あまりの面白さにびっくりするとともにもっと早く読まなかったことを後悔。
「食の歴史」というタイトルに相応しく、人の誕生から現代、そして未来に向けて歴史的な背景および動向を語ったもの。おいおいそんなところまで遡るのかいっていう突っ込みは感じつつ、分かりやすく丁寧に語られている。自称健康オタクということもあって、多少は思想が偏っていることはなきにしもあらずだが、様々な視点から語られる「食」はその幅広さと深さにおいては類を見ないものとなっている。個人的には時々、垣間見える毒舌が好きではある。
今回は「ビジネス的な観点」「料理的な観点」「文化的な観点」でその面白さを語りたい。
書籍概要
ビジネス的な観点での面白さ
食に関する様々な企業が登場するのも本書の魅力の一つである。企業や製品が誕生する過程は歴史的なものであったり、特には偶発的なものであったり、時にはライフスタイルの変化に伴うものであったり…それらはビジネス的な観点でみると興味深いものである。
まさかネスレの誕生が1866年にまで遡るとは…日本だとネスレは粉ミルクのイメージがあまりないけど、世界シェアは圧倒的だったりする。そうすると雪印メグミルクや和光堂、森永乳業、明治はかなりすごいなと思う。
その食に関わる企業の背景や取組も垣間見えるのも面白い。
ペプシコ社が砂糖や添加物なしの炭酸水を家庭でつくるようになると見越してソーダストリーム社を買収していたのは驚き。軍事産業は軍事用途として開発されたテクノロジーを民生利用しようとしていた中、マグネトロンの前でポケットの中のチョコレートバーが溶けていることに気づいて、そこから食品を加熱するためにマイクロ波を利用するアイデアから電子レンジが生まれ、それをシャープが小型化し、回転台を備え付けたというくだりも初耳だった。
そんな感じで興味深いエピソードがふんだんに出てくるので、それだけでも読む価値があると思う。
料理的な観点での面白さ
料理のバックボーンとなる歴史や流れといったものを壮大なスケールで紹介しつつ、レモネードや炭酸水が生まれた背景などミクロなところも語られていたり、具体的なレシピはないけれど、料理を作ったり、食べたりするうえで欠かせない知識が詰まっている。
例えば、1973年の美食ガイド「ゴ・エミ・ミヨ」でまとめられた料理に関する教訓は飲食店の方にも興味深いはずだ。
何よりもこれが最近ではなく、1973年に提示されていることに驚きを隠せない。料理人ではないので、なぜマリネ、熟成、発酵を使ってはいけないのかはよくわからない部分があったりはするのであるが…
ソースに関しては否定的で毒も多い。
「ケチャップはどのような料理であっても味を消すために使われるようになり、とくにまずい料理にはうってつけのソースになった。」のくだりはもはや笑うしかない。もちろん単なる毒だけでなく、その背景として食べ物に「カロリー(燃焼する際に放出される熱量)」という概念が生まれたことによって、食の価値が味、香り、食感、素材、調理法、食卓を囲む会話の質などではなく、「カロリー」という数字だけになってしまい、味が2の次になってしまったということも書かれている。
料理に直接関わる人はもちろんのこと、食べることが好きな方も楽しめる話が満載となっている。最後に「付属文章 食の科学的な基礎知識」が付いており、そこだけでも読んでも損はないはずだ。
文化的な観点での面白さ
食というものを語るうえで、ライフスタイルの変化や芸術への表れといった文化的な観点でも分析されている。
本書でも食べると会話といったものがセットであった時代からファストフードに代表されるような食事形態への移り変わりや仕事の忙しさ等によって、だんだんと「個食」に寄っていく変遷が丁寧に語られている。その過程の中で映画に関しても触れられているのも興味深い。
全部の映画を観ているけど、そんな視点で考えたことは一度もなかった。「アメリカン・ビューティー」にいたっては重苦しいのは別の要因(映画の根幹となるネタバレになるので言えないが)かと思っていた。確かにNHKの大河ドラマを筆頭に時代考証というのは重要で、映像の中での食卓の描かれ方が時代によって変わっていくのは当たり前ではあるので、自分の踏み込みの甘さを反省した次第である。
便宜上、「ビジネス」「料理」「文化」といった観点で分けてはみたが、実は密接に関わっている。文化的なものが料理に反映され、それによってビジネスが動くといったことも多いし、逆もまた然りではある。
そんなわけで、「食の歴史」は面白いだけでなく、新しい発見が多く、読むたびに新たな気づきもあったりするので、非常にオススメです。
是非読んでみてください!