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池波食堂 in ベトナム (鶏と大根の鍋)①

今日も今日とてホーチミンは暑い。

連日、35度を超えるのが日常的だ。

暑い中、仕事をしているとどうしても冷たいものばかりをのんでしまう。

私も例にもれずそうだ。少し胃腸を休ませる滋味あふれる物を食したくなった。

自炊を始めると外食と違い何を食べようと考える必要がなく、とても助かる。食べたいものを作ればいいのだ。

温かいもの、胃に優しいものをたべよう。

日曜日の夕刻前から仕込みに入る。

昨晩から今日の献立は決まっている。

「鶏と大根の鍋」だ。

目黒碑文谷に住む、既に引退はしているが元暗黒街の元締め
菅野の亀右衛門が品川台町の梅安の鍼医としての診療所兼
自宅に訪ねてくる。                         「ま一つ、こんなものでもよければ、いっしょに箸を入れながら、話し合いましょう」畳に部厚い桜材の板を置き、その上の焜炉(こんろ)に土鍋が懸かっている。ぶつ切りにした大根と油揚げの細切り。それに鶏の皮と脂身を、これも細切りにし、薄目の出汁をたっぷり張った鍋で煮ながら食べる。新装版・梅安針供養 仕掛人・藤枝梅安(四) (講談社文庫)         池波正太郎著「仕掛人・藤枝梅安 梅安針供養〜あかつきの闇」
講談社文庫から~

土曜日に、市場で仕入れた鶏の手羽先。池波氏のレシピでは皮と脂とあるが、たんぱく質を摂取するためにてっとり早く手羽先にした。

油揚げはみつからなかったのでなしにしょう。

大根。売ってるのか?と探してみれば、日本のものより小ぶりで、かつ、みずみずしさもなかったが並んである。1本購入。

あまり、ごちゃごちゃといれないのがいい。

せいぜい、二品、三品までだ。

手羽先を水からゆでる。出汁もはらない。

大根は薄切りとあるが、大きめに切ってこちらも水からゆでる。

沸騰してもしばらくぐらぐらと火を通し続ける。

うっすらと鶏出汁の香りがしてくる。薄く白濁。

これには、ビールではなく、日本酒だろう。

日本からの土産物のとっておきの純米酒をあける。

夕餉には少し早いが、卓上コンロとはいかないので、IHの調理器をテーブルにもってきて、ぐつぐつと炊きながらやることにした。

日本酒をコップに入れる。格好も付ける必要がない。コップ酒で十分だ。

一口、舐めるように口に含む。どっしりとした純米。少し粗野な感じが今の私にぴったりだ。

まずは出汁を呑む。水と鶏と大根だけだ。しかし、薄味ではあるものの、鶏の脂分と大根の優しい味わいが、暑いベトナムで逆に清々しい潔さを感じた。

余りごちゃごちゃしたのは粋じゃないね。

薬味はいらない。

煮えた大根を器に取り、醤油をかけて食す。

「うまい」

鶏の旨味と香りがしみこんだ大根に、醤油の香り、塩味、コクが引き立つ。

おっかけて、日本酒をやる。骨太の純米酒が醤油の香りを受け止める。

次は鶏だ。

大根の香りもあいまって、これまた醤油が引き立つ。

「うまい」

こんなに醤油が引き立つものを食べたことはない。

あっという間に手羽先と大根をあらかた片づけてしまった。

しかし、小腹は空いている。

冷凍庫にある白米を解凍し、鍋の残りの汁をかけて食すことにした。生姜をすりおろし、醤油をかける。

うまい。

出汁はまだ残っている。明日の昼にはこれでうどんをたいてやろうか・・・・






 

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