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「夢を持たなければ…」と脅迫されない組織開発

「憧れるのをやめましょう」という大谷選手の言葉が話題となった2023年でした。ここで大谷選手が言った憧れの対象は、人です。それは象徴であって、具体的な何かではありません。「将来の夢は何? 目標は何?」と問われたとき、「〇〇さんのようになりたい」と答えられること(ロールモデルを持つこと)は、夢や目標を持っているということなのでしょうか。

もし、未就学児童に「パイロットになりたい!」と言われたら、あなたは何と答えますか。その子が成人したころには、AIによる自動運転でパイロットという職業はなくなっているかもしれません。それでも「がんばれ」と声を掛けますか? おそらく、その子の真の憧れは、大きなモノを自分の手で動かして、世界中を飛び回ることでしょうから、先読みして「そうか。世界中を駆け巡れよ!」と励ましますか?

「良い学校に入るために勉強しなさい」と言われた経験を持つ人は、多いのではないでしょうか。しかし、この言葉の本質は、「良い学校に入るために、今を犠牲にしなさい」ということではないでしょう。目標があれば、今、勉強することが、苦行ではなく、充実した今に繋がるというところだと思われれます。しかし、多くの子どもは「良い学校に入る」ということにワクワクしないので、勉強が苦行になるのです。目標は、自らがワクワクしなければ立てる意味がありません。ここに焦点を当てずに、誘導するようなコーチングが行われていないか、組織においては注意が必要でしょう。

さらに、ワクワクした目標が単なる憧れに留まらないように、具体的な行動が促されます。一旦、行動に移れば集中力が高まり、結果として充実感を得ることができるようになるためです。そこで、自分の目標を周囲に伝えることが推奨されます。ことに目標は、具体的であればあるほど、効果的だと言われます。これは退路を断つばかりでなく、周囲から様々な力を受けとる機会をも提供してもらえるからです。また、何をすべきか効果的に探索、試行することができ、行ったことを合理的に内省し、振り返ることができるからでもあります。一般に組織では、このような取り組みがなされているのではないでしょうか。しかし、論理的に思考を深めるということは、感情を置き去りにしているのだということには留意が必要です。

ところで、「良い学校に入る」は目標であって目的ではありません。目的は、充実した生活を送ることです。部活に力を入れることが充実感に繋がるのであれば、目標は変更されなければなりません。これを逆に捉えると、受験に失敗したときは後悔しか残りません。そしてその経験は、「夢なんて見てもしょうがない」「今がまぁまぁなら、それでいいんじゃない」といった保守的(頑な)な姿勢を助長していくことになるでしょう。

心が純粋な時代は、「パイロットになりたい」という気持ちで、充実した生活が送れるかもしれません。しかし、様々な経験をしてきた社会人には、難しいように思われます。自分が充実感を得る時は、どのような時なのか? それは、何によって達成されているのか? そして、その機会を得るために必要なことは何か? このようなプロセスで自身を振り返ることをせず、一足飛びに“パイロット”を求めても、空しくなるだけのように思われます。

“なりたい”ではなく“在りたい”姿が何なのかは、思考を深める探査が必要です。しかし、そこにたどり着いたときは、きっと、今とは違う風景が広がっていくのだと思います。

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