
発想力でコンピタンスから解放される組織開発
発想力は、アイデアを創出するためではなく、自分の役割を見出すために使うものだと思います。
一芸採用とは何か
ある会社で、活躍している社員の共通点を探ったところ、全員が音楽経験者だったことがわかり、積極的にバンドマンを採用するようになったという事例があります。また、将棋が強い人は論理的思考ができるという考えのもと、採用試験にプロ棋士との対決を取り入れていると言う事例(勝ち負けが採否に影響するわけではないそうですが)もあるそうです。これらは、いわゆる「一芸採用」です。
さて、一芸採用では、それぞれの特技が、直接、業務と結び付くわけではありません。それでも採用において重視するのは、それらの中に、一種のコンピタンスを見出しているからでしょう。
しかし、このように、何ができるかではない視点で組織を捉えるなら、それをどのように活かせるかについても、組織は積極的にかかわっていくことが必要になると考えます。すなわち、そこで見出されたコンピタンスを、業務という形で表現できるようにしなければならないということです。
そこで必要になるのは、それらの能力を業務に結びつける発想力ではないでしょうか。ただし、この発想力は、コンピタンスを持つ者は当然として、彼らをマネジメントする管理者にも、求められるものだと思われます。
発想力がもたらすものは何か
ビジネスにおける発想の源としては、主に9つの視点が指摘されています。
まずは、「それは転用か?」という視点です。つまり、今あるモノ(自身が持っている一芸)の新しい用途を考えるというものです。例えばバンドマンであれば、自分の楽器を演奏しながらも、曲としてのパフォーマンスを高めていく力があると想定できます。それは、チームビルディングに通じるところがあるかもしれません。
次は、「それは応用可能か?」という視点です。つまり、今あるモノが何かの代替にならないかを思考することです。例えばグループ旅行が趣味であれば、旅の快適性に対して敏感であることが想像されます。それは、チームワークに通じるところがあるかもしれません。
そして、「それは変更可能か?」という視点です。つまり、今あるモノの何か(意味や色、動き、音、様式など)を変更することで、活用方法が見出せないかを思考することです。例えば棋士なら、先を読む能力に長けていると想定できます。それは、新しい制度やシステム、機械を導入する時に役立つかもしれません。
さらに、「それは拡大できないか?」「何かを減らせないか?」「何かと取り替えられないか?」「アレンジできないか?」「逆にしたらどうか?」「何かと組み合わせたらどうか?」という視点が続きますが、同様に考えていくことは可能でしょう。
これらは、イノベーションの定義や、改善のポイントなどでも指摘されていることと近似します。つまり、コンピタンスを業務に置き換える「発想」は、イノベーションや改善と同義であるとも見て取れます。
「見立てる」という見方
しかし、上述の例は、ある意味、ステレオタイプな内容になっています。したがって、実際に発想を膨らませるには、そのような既成概念の枠を取り払って、コンピタンスを何かに見立てていくことが必要でしょう。
見立てる能力とは、例えば、「山を描いてください」と言われれば、大抵の人が三角形を描きます。ここから、三角形であるものは、何でも山に見立てることができることがわかります。この気づきが、見立てると言う発想力です。
ここで、おにぎりも三角形なので、これを山に見立てることができます。すると、米粒1つひとつが雪に見えるかもしれません。そこから、ご飯粒は雪に見立てることができると発想が膨らんでいきます。
発想とは、このような広がりによって獲得されるものでしょう。例えば舞台鑑賞においては、そのイメージ力が試されるものです。観客が、そのような見立てをできないだろうと、いたずらに説明的な舞台美術を設ければ、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『リア王の悲劇』のように、それは却って興をそぐ結果となるでしょう。
ここに、コンピタンスを業務に結びつける発想力が、コンピタンスを持っている本人だけではなく、その管理者にも求められる理由があるように思われます。
抽象化能力から生まれる発想力
さて、「山は三角形」という見立てができることは、抽象化能力があることだとも言えそうです。ここには、普遍的な概念(目に見えるモノ、あるいは常識)のなかで、チャンクアップを行う規定的判断力(アサガオは花だ)と、普遍的な概念から主観を生み出す反省的判断力(夕陽はキレイだ)があるでしょう。発想力には、この双方が必要であると思われます。
そして、このような能力を身に付けるためには、おそらく、ゼロから考えるということが必要かもしれません。つまり、まずは、いきなり“正解”を考えるのではなく、どんな“答え”が求められているかを理解することです。
このような視点を獲得するためには、曖昧な点を排除し、「問」(コンピタンスを何に活かすのか、あるいは、何にコンピタンスを活かすのか、どちらが今の“問”なのか)を定義することが必要になるでしょう。
次に、複数のアプローチ案を出すことが必要です。1つに拘ったり、囚われたりすることなく、多様な可能性を検討することが求められるからです。
それから、1つひとつの案を深めていくことです。思考を深めることは、思考の方向性が明らかになることでもあります。ただしポイントは、自身の持つ固定観念から、どれだけ離れられるかにあると思われます。
そして、これら複数案を、自分自身で評価することです。このときは、客観的に自分を捉えることが前提にはなりますが、自身に自信を持つことが、発想力の醸成へと繋がると思います。
誰にでもある一芸
試験は、誰かとの比較です。したがって「一芸採用」は、他者より優れていることが必要となります。しかし、一芸は、誰もが備えているものではないでしょうか。すなわち、1人として同じ人はいないということは、人それぞれに何らかの差異があるということです。そして一芸とは、この差異を現われだと思えます。
そうであるなら、その差異をコンピタンスにすることが、組織を発展させていくことではないでしょうか。そのためには、「わが社の求めるコンピタンス」が有るか無いかではなく、組織メンバー1人ひとりが定義されたコンピタンスを解釈し、自身の役割を見出すことが重要だと考えます。そして発想力とは、誰も思いつかないことを発見する能力としてではなく、このように使用されるべきものであるように思われます。
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