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“憧れの管理職”に翻弄されない組織開発

 若年者に管理職を忌避する傾向があると、あちこちで言われています。しかし、本当に見つめるべきは、そこではないのではないでしょうか?


管理職に憧れない

 管理職になりたいと思う人は、年々、減ってきている印象があります。そして、その傾向は、若年者に強く現れているのではないでしょうか。
 このような傾向が顕在化し始めたのは、体感的には、リーマンショックから立ち直り始めた頃からであったように思われます。それでも、管理職に付きたくないと思う人が、管理職に付きたいと思う人より多くなるのは、40歳代だったそうです。つまり、中年期に差し掛かるまでは、管理職に付きたいと思っている人のほうが多かったということです。
 ところが、コロナ禍後は、この年齢が20歳代中盤にまで、一気に下がってきたようです。
 理由は、働き方改革のしわ寄せが、中間管理職に向かったことが指摘されています。また、ハラスメント対応に代表される、自身の感情をコントロールすることや、「今までの自分」「普段の自分」を偽らなければならなくなったことなど、コミュニケーション・スキルの獲得に面倒くささを覚えているといった指摘もあるようです。
 さらに、この変化がコロナ禍後に急速に進んだことを踏まえれば、リモートワークで、上司の姿を見る機会が減ったことも、要因として考えられるかもしれません。

管理職のインセンティブ

 厚生労働省調査(2023年度賃金構造基本統計調査)によると、一般社員が課長級職になると、月換算で12万円(年収換算なら140万円程度)増えるそうです。
 扶養家族が被る“年収の壁”を、十分に超える額が増加しても、管理職に魅力を感じないということは、もはや、お金が管理職に気持ちを向かわせるモチベーションにならないことを示しているように思われます。
 一方で、自身の幸福度についてみると、非管理職である現在を5点満点で5点ないし4点とした人のうち、管理職になって3点以下に落ちた人は、全体の15%程度だそうです。しかし、管理職にならず、そのまま非管理職を続けた人の場合、その割合はおよそ3割になるのだそうです。
 つまり、すでにモチベーションの高い人は、管理職になることでそのモチベーションを維持できるのに対し、非管理職を続けた場合は、管理職になった人の2倍近くがモチベーションダウンに見舞われるということでしょう。
 このことも、管理職のモチベーションが、給与ではなく、仕事そのものにあることを示しているように思われます。

管理職のモチベーション

 幼い頃、パティシエに憧れても、実際に職業体験をしたり、自分の店を持つまでのステップが具体化されたりするにつれて、徐々に憧れも消えていくのではないでしょうか。
 仕事とは、実際の経験を積むことで、何が大変なのか、何が喜びとなるのかが、具体的に見えてくるものだと思います。換言すれば、経験していない仕事のことは、いくら妄想してみても、あまり意味はないと言うことでしょう。
 そうであるなら、今、モチベーション高く働いていることが、結果的に昇進に繋がるという流れを創ることが必要であるように思われます。つまり、現在の仕事に対してモチベーションを高く維持していけるスキルさえあれば、管理職になることで開かれる自身の道も、自ずと見出だすことができるようになるということです。
 おそらく、若年者に管理職思考が欠如していることに危機感を覚えるのは、人事担当者だけであるように思われます。なぜなら人事という仕事は、伝統的に人口動態が変化しないことを最善とみなすからです。つまり、このままいくと管理職が不足するという危機感は、人事担当だからこそ覚える感覚だと思うのです。
 ここで、組織は環境変化に伴って変化していきます。そして管理職の役割もまた、変化していきます。したがって、現在を基準として将来を悲観するような見方は、そろそろ転換する時期であるように思われます。
 それは同時に、自社の社員を信じる(管理者不足にならないよう、自然と充足される)ということでもあるでしょう。

管理職のハードルの変化

 おそらく、将来の出世のために、今、頑張るという発想は、もはや通用しないでしょう。だから、現在の仕事に対してモチベーションを高く維持していけるスキルが必要になると思うのです。
 とくに、今、想定されている管理者のデメリットである、部下管理や部下コミュニケーションについては、近い将来、ITが解決してくれるようになるかもしれません。
 例えば、部下の業務進捗が遅れていれば、自動的にPCから「遅れ気味です」などのメッセージが、また、残業が多くなりそうなときには、同様に「早く帰れるようにしましょう」などのメッセージが届いたりするようになるかもしれません。
 さらに、「〇〇業務は、Aさんとシェアしてみてはどうですか?」といった提案さえしてくれるかもしれません。
 このようにITが全体管理をするようになれば、上司は、そのITに、何を、どのように管理すれば良いかを指示すれば良いことになります。それは同時に、任された部署を、どのように成長させていくかという、管理者本来の仕事ともなります。
 おそらく、管理の主体がITに移ることによって、上司には、部下への声かけや“飲みニュケーション”が求められるようになるかもしれません。そして、例えば「Aさんとのシェア」という提案が進んでいないとPCから報告が上がれば、二人を取り持ったりする必要があるかもしれません。そして、それを根拠に“飲みニュケーション”をはかるのであれば、その飲食代は、PCからの報告をエビデンスとして、会社に請求できるかもしれません。

将来の心配から“今”に目を向ける

 人事の仕事は、体制の維持にあります。しかし、その体制も変化していくことを認識すべきです。このことを踏まえれば、注目すべきは“将来”ではなく、「“今”でしょう」という懐かしいフレーズが思い起こされます。
 今、社員はモチベーション高く、イキイキと働いていますか? 今、社員がイキイキと働くためには、何が必要なのでしょうか?
 おそらく、組織にごとに、その“解”は異なってくるでしょう。それでも、自分にとっての“イキイキ”とは何か、自分にとって幸福とは何かについて考えるスキルと機会は、提供していくべきでしょう。
 そして、そこから上がってくる声を拾うことで、取るべき人事施策が見えてくるのだと思います。
 管理者になりたくない若者に憂えたり、ましてや、彼らが管理職になりたいと思う環境に想いを巡らせたりするのではなく、”今”に注目することこそが、結果的にそれらへの“解”に繋がっていくのではないかと考えます。

 さて、本稿はお役に立ちましたでしょうか。
 有料(100円)ではありますが、「結果を求めず方向性を示すキャリア開発」にもお目通しいただければ幸いです。

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