C2Mビジネスと中食市場への展開可能性
OFF株式会社の駒形です。
今回は「C2M」と「中食」をテーマについて考察していきます。
1. C2Mって何?
「C2M」とはConsumer to Manufacturerの略語です。
消費者からの注文が工場へ伝わり、工場が製造して、消費者へ商品を届けるという、一言で言えば、受注生産型のビジネスモデルのことを言います。
ビッグデータの活用が盛んな中国で注目され始めており、最終的に物を作るのは消費者主導になるという考え方です。
受注生産というと何を思い浮かべるでしょうか?こんな例があります。
スーツ、印刷、家などを事例として挙げましたが「昔から受注生産ってありますよね?」と考えると思います。
なぜ受注生産、すなわち「C2M」という考え方が注目されているのかを、
1)メーカー
2)消費者
3)製造工場
3つの視点から解説します。
2. メーカーの視点
C2Mはメーカーにとっては
在庫を仕入れる必要がない
というのが最大のメリットです。
(ここで言う「メーカー」とは製造工場ではなく、製造工場に生産を委託して、自社商品を作る企業のことです。例:Apple)
在庫リスクを持たないので、D2C(Direct to Consumer)よりも優位なモデルだと言えます。
(出典: https://www.wwdjapan.com/articles/1029171 )
なぜ、C2Mが注目されているのか、これまでの流通ルートの変遷から見ていきます。
①旧来型
メーカーの役割は工場と連携して商品を作ることで、販売は卸や小売店(百貨店など)が担っていました。販売チャネルを広く取ることは、在庫リスクの分散や在庫を素早く掃けさせるメリットがありました。しかし、中間マージンによる利益率の減少、消費者のニーズが間接的にしか得られず、日々変化するトレンドへの対応に遅れをとることなど、課題を抱えていました。
②SPA
1986年にGAPの会長が、メーカーと小売が合体した自社の業態を指してSPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)という概念を唱え、ユニクロなどもこのモデルを展開し始めました。「消費者の望むもの」を作る仕組みの発展・ブランド構築・利益率の改善など多くのメリットが生まれました。しかし、自社で店舗を持つことでの家賃や人件費などの販管費の増大が課題として残りました。
③D2C
SPAの店舗をオンラインのみに絞り、販管費を下げるという発想で実現するのがD2Cです。ShopfiyやAWSなどの安価なサービスが発達したことが市場参入を加速させています。しかし、流通をWebに絞っているので、大規模な広告投資をしなければ、売れずに在庫を抱えやすいという課題があります。特に食品などの賞味期限の短い商材はリスクが大きいです。
④C2M
D2Cの在庫リスクを追わないモデルがC2Mです。注文があった分だけ売ればいいのでメリットは大きいです。しかし、消費者が「今欲しい!」というニーズには対応できず、取り扱える商材が限定的になってしまいます。また、工場は消費者毎に異なる要件に、都度対応しなければいけないため、生産効率が低くなります。
このような変遷を経て辿り着いたのがC2Mです。
3. 消費者の視点
C2Mを消費者の視点から見てみます。
C2Mは受注生産なので、注文後、完成品を買う場合に比べて、商品を手にするまでの時間が長くなります。
では、どういうシーン、どんな場合にこれが成立するのでしょうか。
①オーダーメイドモデル
「好みに合わせて作るオリジナル品の注文。届くのに時間がかかるのは当然」と思う場合です。
例えば、雨が降っていて「傘を今欲しい!」と思った時、すぐにコンビニなどでビニール傘を買うはずです。
一方で、サークルの友達の誕生日に傘をプレゼントしようとした場合を想定します。
友達の好みをふまえて「紺色を下地にサークルのロゴを加えてください」などオリジナルのものを作って渡したいと考えるはずです。
渡すのは少し先になるので、多少時間がかかることも許容できます。
②共同購入モデル
もう1つのC2Mの成立条件は「届くのに時間がかかっても、商品が安いから当然」と思う場合です。(例えば通常5000円のものが、40%OFFで3000円など)
(出典:https://ponpon.in/)
それを実現する共同購入とは、例えば「2日以内に購入者が30人集まったら成立」という方式で販売が行われ、必要人数が集まると購買成立となり、商品が届く仕組みです。
高い割引率を実現できるのは、メーカーから工場へ商品を大量ロットで発注でき、工場の生産効率が上がるため(規模の経済が働くため)です。
以前流行ったグルーポン、ポンパレなどの「フラッシュマーケティング」と同じ仕組みです。
4. 製造工場の視点
製造工場は売上を増加させるために、案件の受注と生産キャパシティの拡大を目指します。
生産キャパシティ = 設備の生産効率(生産数/時間) × 設備数
同じ商品を大量に作る場合は、規模の経済で設備の生産効率が上がり、短時間で多くの商品を生み出すことができます。
しかし、オーダーメイド製品を依頼される場合は、注文ごとに仕様が異なるので、生産効率が下がります。例えば、健康ドリンクの製造工場を想定した場合こんなイメージです。
・ビタミンを入れた炭酸水を50個ください。
・GABAを入れたジュースを100個ください。
・カフェインの入ったをお茶を30個ください。
そのため、一定のロットサイズを注文要件として提示する工場が一般的で、下記のような回答をするはずです。
成分や中身を変える度に、生産設備を毎回清掃するので、コストがかかります。少なくとも100個以上の注文からお願いしたいです。
しかし、案件の受注が難しく、稼働率が低下しているような工場であれば、多少生産効率を下げてでも対応する場合もあります。
5. C2Mの成立要件
ここまで3つの視点でC2Mを見てきましたが、まとめると下記の2パターンになります。
オーダーメイド型の例:ラクスル
オンライン上で、用紙のサイズやデザインなどの要件定義ができるようになっています。
(出典:https://www.projectdesign.jp/201509/businessmodel/002413.php)
工場側は、オーダーメイドの小ロット生産で、生産効率が悪かったとしても、ラクスルが案件を取ってきてくれることにメリットを感じることになります。
ラクスルに来た注文を製造工場のキャパシティや稼働率を踏まえて、定期的に案件を提供できるよう、うまく振り分けることで、工場を満足させている点が特徴的です。
共同購入型の例:Pinduoduo(拼多多)
オンライン上に共同購買の仕組みがあります。
(出典: https://note.com/marketing/n/na3a1a5215818 )
単品でも買えるものが、グループで買うと工場側へ大ロットで発注でき、商品原価が下がるので、通常より安く買うことができます。(上記画像では単独購入:¥8.9、グループ購入:¥4.8)
購買成立要件に締め切りが設定されているので「時間までに買う人を増やさなきゃ!」という心理が働き、知人など他ユーザーに商品を認知させる口コミも自然に発生することになります。
6. 中食市場の可能性
オーダーメイド型と共同購入型の2つを見てきました。
ここからはそのモデルがどんな業界とマッチし、ビジネスとして拡大していきそうか、食品市場について注目してみます。
農水省の資料によると、日本は人口減少が進みますが、1人あたりの食料支出は増えていくと予測されています。
それは、中食(家庭外で調理された食品を、購入して持ち帰るあるいは配達等によって、家庭内で食べる食事の形態)の進展による加工食品の市場の拡大が理由にあるそうです。
特に単身世帯の伸びが顕著です。背景には共働き世帯の増加や家の中での消費への活発化などがあります。
(出典: https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kihyo01/190830.html )
「食」の市場規模は72兆円ですが、中食は10兆円で約14%を占めます。
業態別に見てみると、コンビニ(32%)、惣菜専門店(29%)、食品スーパー(26%)の順に市場が大きくなっています。
商品については、主食である米飯類(46%)と一般惣菜(36%)の割合が大きいです。単身世帯なら「弁当1つ+もう1品惣菜でもつけよう」という感覚での購買行動ではないかと思います。
(出典: http://www.nsouzai-kyoukai.or.jp/wp-content/uploads/hpb-media/hakusho2019_digest.pdf )
7. 中食C2M
中食市場を見てきましたが、デリバリーサービスは、外出自粛要請に伴い、自宅で過ごす人も増えた影響もあり、今は特に需要が伸びているはずです。
Uber Eatsなどこれらのサービスはまさに「C2M」を体現しています。
また「Chompy」というサービスは、共同購入(グループ注文)の仕組みが入っているのが特徴的です。ユーザーが送料を分割することで、提供価格を抑える工夫がされている、考えられたビジネスモデルです。
市場が拡大して行くのは間違いないと思いますが、ロジスティックの問題から、例えばUber Eatsのサービスエリアは下記の通り限定的です。
「熱々を食べたい!」と思う人も多いと思いますが、冷凍食品の宅配にはさらに可能性があると感じています。
理由は、商圏が近隣の住民に限定されず、全国に広がるからです。
加工食品化や冷凍など、保存方法に気をつけた上で、ヤマト、佐川、日本郵船などの配送システムで届けられる内容に制約は受けます。
例えばこんなサービスがあります。
(出典: https://ku-fuku.net/ )
ベンチャーのnoshは単価が650円で年間100万食売れているとのPRが出ているので、売上は推定で6.5億円以上。
日清医療食品が運営している食卓便は、高齢者施設や病院用への展開なども含め、売上が数百億以上は少なくともありそうです。
また、ECのストアビルダーであるBASEでショップを開設する事業者は増え、飲食系のGMV(Gross merchandise volume:取引総額)は前年比で10倍以上になっています。
(出典: https://strainer.jp/notes/2996 )
また、ネットで注文した商品を店舗やドライブスルーで受け取る非接触型のショッピングスタイル、Walmartも推進している「Click & Collect(クリック&コレクト)」にも注目が集まりそうです。
(出典: https://speakerdeck.com/yamotty/fei-pei-song-xing-netutosupa-click-and-collect-white-paper-by-10x )
オンライン中食分野は競争が激化していくことが予測される中、オーダーメイドの要素を入れることが差別化に繋がると思っています。
・気にしている栄養素バランスを調整できる
・健康食品とジャンクフードを組み合わせられる
・沢山食べたい時はボリュームを増やせる
などの希望を、Web上で反映し、食品加工場へ振り分け、保存・配送の仕組みを整えることができれば、
食の多様性 × 自宅に届く簡便性
がセット提供され、面白い食生活が実現すると考えています。
今回はC2Mと中食市場の可能性について述べてみました。
D2C、フード業界など、国内外のビジネス事例や市場トレンドを今後も考察していきます。
この辺の分野について、気軽にディスカッションできれば幸いですので、ご関心のある方は気軽にお声掛けください!
次回もお楽しみに!
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