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動物たちは何をしゃべっているのか

ヘテロゲニアリンギスティコ、言葉を使う動物たちと続き、動物?の言語シリーズ3冊目。

久しぶりにKindle版でも文庫本でもない本を買って読んでいるので、装丁もジロジロ見てみる。カバーを外してみると、モスボール(たぶん)に金色のインクでゴリラとシジュウカラがお喋りをしていて可愛らしい。最近本でもパッケージでも、板紙の質感をオシャレに使ったデザインが多いなあと感じる。本文には割とフワッとした紙が使われており、カバーのエンボスと相まって軽い手触りで心地よい。カバーはパッと見TANTかと思ったが、TANTにしてはエンボスが深い感じもする。見返しはさすがにTANT。…だと思う。

カバーを外すと現れるゴリラとシジュウカラ

中身の方は、元京都大学総長を務めており、ゴリラの研究者として知られる山極先生と、東大でシジュウカラの研究をしている鈴木先生の対談という形式の本。「ゆる言語学ラジオ」の水野さん初の担当書籍ということも楽しみな要素の一つ。
ゆる言語学ラジオ同様、サクサク読める。
鈴木先生の語るシジュウカラの言語や、それを確かめるに至った実験デザインの巧妙さに次々と感動してしまった。鈴木先生の実験の話は「ゆる言語学ラジオ」でも取り上げられているので気になる方はぜひ聞いてみてほしい。

中でも興味深かったのが、山極先生がゴリラの群れの中で研究する間に抱いた霊長類のコミュニケーション観だ。
ゴリラに人間の手話を教える研究があったり、またゴリラの世界にも挨拶のような役割をする単語?音声?のようなものがあるが、それよりも踊りや歌のような非言語のコミュニケーションによる「共感」が重要な役割を果たしているという。
私のような素人では、「ゴリラは人間のように言語が発達していないので、非言語のコミュニケーションに頼る以外方法がないのだ」と思ってしまうが、山極先生によると、人間こそ非言語のコミュニケーションによる「共感」が大切なのだという。

 共感の能力は、人類が地球上に広がるためには欠かせなかったはずです。
 アフリカで生まれた人類がユーラシア大陸に広がるには、アフリカ大陸の北東部を通らなきゃいけない。でも、あの辺は、ライオンなどの肉食獣がうようよしているし、隠れる森もないし非常に危険な地域です。
 人類がそこを越えるためには、集団としての力が必要でした。だから集団のサイズがだんだん大きくなり、その集団をまとめる共感の能力が、音楽的な言葉や踊りを媒介として広まったんじゃないか。

128p

さらに、ゴリラや初期人類のコミュニケーションと比べて現代の人間は言語を使用したコミュニケーションに頼りすぎなのだという。
本書の最後の章では、言語に頼りすぎた結果、文脈や道徳などの非言語の部分が軽視されてしまっているのではないかと警鐘を鳴らす。

確かに、活版印刷の誕生以来、人類の生活の中で文字が増え続けてきた。電話やメールが発達して言語以外のものが削ぎ落とされてきたのも事実かもしれない。
一方で、直近の10年だけを見ると、SNSの世界で、Twitter→Instagram→TikTokとどんどん流行が移っている。またZ世代は共感を大事にする世代と言う人もいる。
非言語コミュニケーションへの揺り戻しは、もう始まっているのかもしれない。

この記事の最初に装丁について書いたのも非言語情報を重視した結果なのだ。

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