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人的資本経営とタレントマネジメント(その1)~何故、今 日本でも「人的資本経営」なのか?~

こんにちは、オデッセイの秋葉です。
早いもので、今年もあと10日足らずとなりました。
今年も昨年に続き、コロナ禍で何かと活動が制限される1年でしたが、来年は是非通常の生活に戻ってくれればと思っています。
さて、今回は最近注目の「人的資本経営」の日本における動向と人事部門への影響や、タレントマネジメントの活用方法などについて考えてみたいと思います。
「人的資本経営」と言えば、今年5月の投稿(「2021年の人事。注目すべきキーワードは「人的資本」)でも触れていますが、昨年8月に米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して、人的資本に関する情報開示を義務付けして以来、話題に上がることが増えたように感じます。
日本でも今年6月に金融庁と東京証券取引所が共同で策定しているコーポレートガバナンスコードが改訂され人的資本に関する記載が盛り込まれるなど、人的資本経営に対応する動きが確実に進んでいます。

そこで、今回改めて、
・何故、今 日本でも「人的資本経営」なのか?
・「人的資本経営」で人事部に期待されるものは何か
・「人的資本経営」にタレントマネジメントは有効か

これらについて記してみたいと思いますが、ボリュームがあるので3回に分けて掲載します。

1.何故、今 日本でも「人的資本経営」なのか?

①   ESG投資の浸透
企業経営のターニングポイントを考えるうえでキーワードとなるのは「リーマンショック」と「サステナビリティ」だと言われています。
2008年、世界中を震撼させた「リーマンショック」。
しかし、この時世界の企業や機関投資家は大きな教訓も得ました。
それは「短期的な利益を追求しても企業は存続できない」という従来の考え方を否定する現実に気づいたということです。
そして、「環境や社会やガバナンスへの対応力を持った企業のみが持続的に成長することができる」という新たな考え方に行き着きました。
最近話題のSDGsと同じ「サステナビリティ」に着目したのです。
その後、欧米の企業を中心にCSR(Corporate Social Responsibility)として社会貢献に注力し、環境に配慮した経営を進めながら、ガバナンスも強化することで社会的な信用を得ようと動き出します。
しかし、多くの日本企業は、その流れに乗らずリーマンショックで傷ついた財務体質を改善するため、CSR等への対応をコストとみなし削減する方向に舵を切りました。

同じ頃、もうひとつの動きがありました。リーマンショック以前の2006年、国連が責任投資原則(PRI)のなかでESG投資を初めて紹介したのです。
ESG投資とは前回も触れましたが「財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の要素も考慮した投資」のことでしたね。
このESG投資が徐々に浸透し、その後世界の企業に影響を与えることになります。
PRIのESG投資に賛同する署名機関数の推移を見てみると2007年は185機関ですが、2016年には約8倍の1501機関と大幅に増えています。(図1)
また、投資資産額も2016年の時点で22.8兆ドルまで拡大しています。(図2)
世界でいかに急速にESG投資が浸透していったかがわかりますね。

(図1)

財務省資料「ESG投資の動向と課題」より

(図2)

GSIA「GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020」より

ところが当時は、これだけ世界でESG投資が伸びているにもかかわらず、旧態依然とした日本でESG投資は、なかなか受け入れられませんでした。

そこで動いたのが、世界最大規模の年金運用機関でもある日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)です。
2017年からESGによる投資運用を開始することを発表しました。
この影響が大きく、日本でもESG投資が急速に浸透し、2016年におよそ0.5兆ドルだった投資資産額が2020年には約6倍の2.9兆ドル(約320兆円)まで成長しました。世界も35,3兆ドル(約3900兆円)と順調に伸びています。
このようにESG投資が日本でも一般的になった今、日本企業も投資家からESGの観点での情報開示が求められるようになったのです。

今後日本企業の人事関連部門も、「Social」の重要な要素である人的資本がいかに充実しているかを表す情報を開示することが求められる機会が多くなるでしょう。
企業を持続的に発展させていくためにも、そして市場価値を高めるためにも避けては通れないことなので、日本でも「人的資本経営」に取り組む企業が上場企業を中心に増加していくことが予想されます。 

②   欧米の背中を追う日本、経済産業省による「人的資本経営」実現に向けた取り組み
2021年11月現在 経済産業省のHPに掲載されている審議会・研究会は55種類ありますが、ざっとタイトルだけ見ても人的資本経営やESG投資に関係ありそうなテーマを取り上げている会は
●サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会
●サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会
●持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会
●人的資本経営の実現に向けた検討会
●SDGs経営/ESG投資研究会
●持続的な価値創造に向けた投資のあり方検討会
●持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会
●統合報告・ESG対話フォーラム
●持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会

と9つあり、政府が人的資本経営やESG投資に注目し、積極的に取り組んでいるかがわかります。
この背景には、欧米の先行した取り組みがあると考えられます。
というのもESG関連情報(非財務情報)や人的資本関連情報に関する開示/活用については、日本は世界から大幅に遅れている状況にあるのです。

<欧米諸国の取り組み状況> 
◆英国
2013年会社法規制を改正し上場企業に対し「戦略報告書」の公開を義務化。
そのなかで、非財務情報の開示が定められる。

◆EU
2014年従業員500名以上の企業にESG関連情報の開示を義務づけるEU非財務情報開示指令が成立。2016年から導入。
(上記は夫馬賢治氏著「ESG思考」を参考にさせて頂いています)

◆米国
2019年ナスダックがESG情報開示ガイドを発行。
2020年8月SAC(米国証券取引所)が上場企業に対し、人的資本の開示を義務化。
2021年6月「Workforce Investment Disclosure Act」という上場企業に対し人的資本の情報開示を求める法案が米国連邦議会の下院を通過、現在上院にて審議中

といった状況で、欧州が米国よりも早く具体的な取り組みを始めています。
一方日本においては、人的資本やESG関連の非財務情報の開示に関する法律等を制定する動きは今のところ無さそうですが、上述の通りコーポレートガバナンスコードが今年6月に改訂され、人的資本への投資に関する情報開示が求められるようになりました。
その後、早速7月に経産省が上記にもある第1回の「人的資本経営の実現に向けた検討会」を開催しています。
その開催趣旨には「人的資本に関する国内外の状況をふまえ、人的資本経営の実現に向けた主要課題について、今後の具体的な対応の方向性や、各ステークホルダーが実施すべき具体的な取組を議論・検討するため、本検討会を開催する」と記されており、また検討の進め方としは、「7月上旬より、月1~2回程度開催。年度内を目途に一定の取りまとめを予定」なっていることから、今年度中には日本でも次の具体的な取り組みが出てくるかもしれません。

このように、海外の動向や政府の動きを見れば、今後日本においても、人的資本経営の実践が求められる可能性は極めて高いと思われます。
持続的に企業を発展させていくうえで「人的資本」の充実が必要になってくることを考えれば、必然的な動きと捉えるべきでしょう。

人的資本経営とタレントマネジメント(その1)は、ここまでです。
年明けに、(その2)『「人的資本経営」で人事部に期待されるものは何か』を掲載する予定ですので、またご覧いただければと思います。

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