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読書記録|『わたくし率 イン 歯ー、または世界』川上未映子
2025年の読書初めは、川上未映子さんの『わたくし率 イン 歯ー、または世界』です。
去年、私の本の好みをよく知る友人が教えてくれました。「主人公が異常っす」ということで、ずっと読むのを楽しみにしていた一冊。
📕内容紹介
人はいったい体のどこで考えているのか。それは脳、ではなく歯――人並みはずれて健康な奥歯、であると決めた<わたし>は、歯科助手に転職し、恋人の青木を想い、まだ見ぬ我が子にむけ日記を綴る。哲学的テーマをリズミカルな独創的文体で描き、芥川賞候補となった表題作ほか1編を収録。
読み始め、とにかく文体が独特で読みにくいったらありゃしない。一文が長いし、関西弁まじりだし、あれやらそれやら多いし、慣れるまではなかなかページが進まない。
しっかし読み進めるうちにいつのまにか独特のリズムにハマってしまって、そこからは猛スピードで最後まで。
ほんとに自由すぎて、どうやったらこんな文章書けるんやろう?ってめちゃくちゃ不思議です。
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主人公がずーっと喋ってる、止まらない止まらない、戻らない、直さない、吐き出すのみ。なもんで、わたしもよく分からなくなってもとにかくつらつらと書いてみようと思います。
🦷
「ねえ、おまえの主語はなんですか?」
ちょっ、、、言葉つよすぎるなあ、、、。が、これがこの本に問われていることだったと思います。
お母さんの世界には、体をもち、同時にそこに意識をもった人たちが数えきれないほどいて、その誰もに他人と自分を間違えようのない、私、としか名づけようのない、なにか中心のようなものがあって、そこからそれぞれの世界を開いているのですよ。
奥歯をわたしの私と決めた主人公。
さて、わたしの私はどこにある?と考えてみたけれど答えなんてないからね。最後まで読むと、主人公はそれを決めざるを得なかったんだろうということがわかって。わたしはこれまで私を探すことはあっても、体の部位で決めることはなかったな。そこまでする必要がなかった、もしくはそんな方法があるなんて知らなかった。
顔っていうのは、毎日毎日、必ず露出しているところだし、すれ違うだけの人にも、むかいあった人にも、誰にでもどこでも見せてるものだから、ほんとうに大事なところがおのずと薄れてくるのかもしれないなあと、思うのです。
(中略)
会うってどういうことかしらね。一方的に見ているだけでは会うということにはならないの。じゃあ相手がこっちを見たらばそれは会うということになるんでないの。でもやっぱしなんか目が合うだけでは会うにはならんのでないの。そんなことも考えますよ。
確かに顔を合わせても会ったことにはならない。どうにかちゃんと会ったことにしたくて、必死で言葉を並べる過去がわたしにもあったけど、それでは結局のところわたしの私は見せられてなくて、誰にでも見せなくていっかと思えてる今は楽かも。
(前略)……自分が何かゆうてみい、人間が、一人称が、何ができてるかゆうてみい、一人称なあ、あんたらなにげに使うてるけどなこれはどえらいもんなんや、おっとろしいほど終りがのうて孤独すぎるもんなんや、これが私、と思ってる私と思ってる私と思ってる私と思ってる私と思ってる私と思ってる私と思ってる私と思ってる私‼︎これ死ぬまでいいつづけても終りがないんや、私の終りには着かんのや、ぜんぶが入ってぜんぶが裏返ってるようなそれくらい恐ろしいもんなんや私っていうもんは……(後略)
死ぬまで終りがないってね、絶望しちゃうよなあ。
でも、
あんたら人間の死亡率うんぬんにうっわあうっわあびびるまえに人間のわたくし率こそ百パーセントであるこのすごさ!
誰しもみんながわたくし率百パーセント。ほんまにほんまにすごい。全然問いには答えられないのに、それでもわたくし率は百パーセント。わたしは私でしかないんだよなあ。この逃げられなさ?辞められなさ?一致具合?考えたら怖くもあるけど安心もできる。どうしたってわたしはわたし。
わたしも私もない、主語のない、それじたいがそれじたいの文章〈国境の長いトンネルを抜けると雪国であった〉の不思議はわたしも誰かと語りたいな。
🦷
📘好きだった表現
梱包された荷物みたいにどしんと夜が来ることがあります。
原則ではない約束は原理であってとても素敵だと思うのですよ。
🦷
同収録の『感じる専門家 採用試験』も、このタイミングで読めてよかった。
わたしは、何の、誰の、どういった趣味なんか采配なんかはわからんけど、なんでわたしはこういう形のわたしとしてあって、一個のたまねぎではなかったの。一個のトマト缶では、なかったの。
新年一冊目からどハマり本でした。今年は川上さんの作品、追いかけていくか〜!